記事

案の定の“違憲状態判決”国会は、改革の行く先を見失ってしまうのか? - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。

民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。

憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。

「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」

そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、「憲法」の観点から検証していきます。

きょう(26日)の最高裁判決までの経緯

画像を見る

 きょう(26日)、2013年7月21日に行われた参議院議員通常選挙の定数配分規定(投票価値の最大較差が4.77倍)につき、最高裁は「違憲状態」と判決しました(多数意見11名、反対意見4名)。最高裁は2年前にも、違憲状態判決を下しており、二回続いたことになります。

 参議院議員の通常選挙は、全議員242名のうち半数121名を、3年ごとに改選する方式で行われます(都道府県選挙区73名+全国比例区48名)。都道府県を単位に、そのまま選挙区となるところが、衆議院議員の総選挙と異なるところです。いわゆる「一票の不平等」を見直す方法も、衆議院と参議院では違います。衆議院小選挙区の場合には、有識者の集まりが区割りを見直し、その内容を政府に勧告し、政府が主導して区割り規定を改正するというプロセスを辿りますが、参議院の場合には、各都道府県選挙区の定数を、「一方で増やし、他方で減らす(○増○減)」という、あくまで与野党の話し合いによる政治的な調整を以て、見直しが行われていきます。

 衆議院と参議院で選挙制度は異なるものの、有権者が持つ選挙権は、国内であればどこでも、平等でなければなりません。国政選挙のさい、投票所で渡される投票用紙の枚数は当然、「一人一枚」でなければなりませんし、さらに、選ばれる議員の定数が選挙区の人口に比例していること(10万人の選挙区で1名の議員を選ぶことと、40万人の選挙区で4名の議員を選ぶことは、価値的には同じですが、40万人の選挙区で1名の議員を選ぶのは、価値的には4分の1(4倍の較差)になります)を以て、1枚の投票用紙の重み、つまり選挙権の持つ“影響力”も等しくなければなりません。これが、「一人一票」を達成することの根本的な考え方であり、一人一票に則った両議院の選挙制度を実現することは、法の下の平等(憲法14条)に基づく、立法府に対する厳格な要請であると、私は理解しています。

 国会が何もしなければ、5倍程度の較差がこのまま存在し続けることになってしまいます。一人一票はどのように実現されるべきかという問題意識を持ちながら、きょうの最高裁判決の内容を振り返っていきたいと思います。

司法判断のフローチャート

 選挙無効訴訟において、裁判所がどのような判断を経て、判決を下すのか、これを示したのが下のフローチャートです。衆議院選挙、参議院選挙のいずれかの無効訴訟であるかによって違いはありません。

画像を見る

 「投票価値の著しい不平等」があると認定されれば、即、選挙無効判決(レッドカード)となるのが単純明快ではありますが、日本の司法は、いろいろな理屈をこねながら、違憲違法判決(オレンジカード)、違憲状態判決(イエローカード)というどっちつかずの判決を下し、なかなか“退場処分”にまでは持ち込もうとしません。きょうは、違憲状態判決でした。結論から言えば、最大較差が4.77倍というのは「投票価値の著しい不平等」があるとしつつも(合憲ではない)、この不平等を是正しなかったことが国会の裁量の限界を超えているとはいえないとしたのです。

 この二つの部分について、もう少し掘り下げてみます。

投票価値の不平等について

 判決はこのように言っています。

 人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、上記のような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきであ(り)、(このような)事情の下では、平成24年大法廷判決の判示するとおり、平成22年選挙当時、本件旧定数配分規定の下での前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。(中略)

 しかるところ、平成24年改正法による前記4増4減の措置は、上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、上記の状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない(略)。したがって、平成24年改正法による上記の措置を経た後も、本件選挙当時に至るまで、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである。

 都道府県選挙区という制度を維持しながら、「投票価値の平等」を実現することは、2010(平成22)年の選挙当時から著しく困難な状況であったにもかかわらず、4増4減(神奈川、大阪で定数を1増、福島、岐阜で定数を1減)という措置にとどまり、5倍前後の較差が続いていたことを、「不平等状態を解消するには足りないもの」と、判決は指摘しています。

 純粋に、較差だけ着目すれば、投票価値の著しい不平等があることは誰の目にも明らかですが、一歩譲って(前提2のところ)、投票価値の平等は都道府県選挙区制度と“調和的に実現されるもの”として、その要請に適っているかどうか判断したとしても(=憲法上許容される投票価値に幅を持たせる)、投票価値の平等は実現されていないとしたのです。

立法裁量の限界を超えていたかどうか

 この点は、違憲状態判決(イエローカード)と、違憲無効判決(レッドカード)ないし違憲違法判決(オレンジカード)との判断の分かれ目になります。判決は、「立法権と司法権との関係」と大上段に構えながら、次のように述べています。

 裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても、自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われることになるものであり、是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しているので、裁判所が選挙制度の憲法適合性について上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより、国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが、憲法上想定されているものと解される。(中略)当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解される。

 投票価値の著しい不平等を是正するためには、制度を定める公職選挙法という法律の改正が必要になります。判決は、この点に関し、国会に「幅広い裁量権がある」としています。引用部分の最後で、様々な事項を「総合考慮」しながら、国会の取り組みが相当だったかを評価するとしていますが、法律家や政治家が「総合考慮」という言葉を使ったときは要注意で、結果として立法裁量を幅広く捉え、違憲状態判決(イエローカード)を誘導しやすい言葉が、このように潜り込んでいることが問題なのです。

 判決はこの判断基準に従い、(1)2012年10月17日の最高裁判決から2013年7月21日の参議院選挙まで、約9か月しか経っていないこと、(2)この間、参議院では与野党による選挙制度改革の議論が継続して行われていること(←到底、成案が得られそうな雰囲気ではないにもかかわらず!)を根拠に、立法裁量の限界を超えたとはいえないと示したのです。

 この判断基準は、昨年、2013年11月20日の最高裁判決(2012年12月に行われた衆議院議員総選挙の無効訴訟)で示されたものです。本稿のタイトルで、「案の定」という表現を用いましたが、私にとってはまさに予想どおりでした。逃げの判決であり、一年前の判決はまさに布石であったと勘繰る次第です。
 
 判決は最後に、立法府に対して、次のような「要請」を述べています。

 参議院議員の選挙制度については、これまで、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みの下で、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大に伴い、一部の選挙区の定数を増減する数次の改正がされてきたが、これらの改正の前後を通じて長期にわたり投票価値の大きな較差が維持されたまま推移してきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割等に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、国会において、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消される必要があるというべきである。

 司法の面子に懸けたとしても、いまの最高裁ではこの程度のメッセージを発するのが精いっぱいだというところでしょう。この部分は、前回判決(2012年)でもほぼ同じ表現で言われていました。今回、多数意見はもう少し踏み込んで、国会に注文するかと期待したところですが、残念でした。

踏み込んだ“反対意見”

 きょうの判決では、4名の裁判官が反対意見を示しました。うち、大橋判事、鬼丸判事及び木内判事が違憲違法判決(オレンジカード)を支持しましたが、山本判事は違憲無効判決(レッドカード)とするべきと訴えました。過去、最高裁で、選挙無効訴訟で違憲無効を支持した判事はおらず、憲政史上初めて、ということになります。山本判事の反対意見を抜粋します。

 私は、現在の国政選挙の選挙制度において法の下の平等を貫くためには、一票の価値の較差など生じさせることなく、どの選挙区においても投票の価値を比較すれば1.0となるのが原則であると考える。その意味において、これは国政選挙における唯一かつ絶対的な基準といって差し支えない。

 ただし、人口の急激な移動や技術的理由などの区割りの都合によっては1~2割程度の一票の価値の較差が生ずるのはやむを得ないと考えるが、それでもその場合に許容されるのは、せいぜい2割程度の較差にとどまるべきであり、これ以上の一票の価値の較差が生ずるような選挙制度は法の下の平等の規定に反し、違憲かつ無効であると考える。

 山本判事の論理は、逆に返せば1.2倍までの較差を許容するものではありますが、基本的な考え方は、まさに一人一票の理念に即したものといえます。国会が定める選挙制度との調和の中で、投票価値をできるだけ平等にしていこうという、伝統的な最高裁判例のアプローチではなく、真っ正面から“唯一かつ絶対的な基準”と断言しています。率直に、いかにしてこの論理を国民の共通認識にしていくかが課題だと感じました。

国会の改革意欲が失われてしまう…

 前回、今回と違憲状態判決(イエローカード)が続きました。これは、国会の裁量なるものに最高裁が甘く、寛容な態度をとっていることの表れです。まして、きょうの判決は、永田町で誰も聞いていません(衆議院の解散で、参議院も閉会となりました)。判決文の写しは、両議院の法務委員会の事務方には届きますが、誰も読みません。一人一票に向けた改革意欲が、国会(参議院)でますます失われてしまうのではないかと、大変危惧されるところです。あさって、28日には、参議院の与野党協議会が行われる予定ですが、各派の代表者が単に顔を合わせるだけで、時間を潰すだけのことになるでしょう。

 来週、衆議院議員の総選挙の公示を控えていますが、参議院の選挙制度改革が争点となることは想定しがたく、いまのところ、2015年通常国会以降の議論を見守るしかありません。何より、市民の間で、このテーマの関心が低くなっていることも心配です。総選挙の公示後、さらに投開票日の翌日以降、一人一票の実現に向けた新たな戦いが始まるようですので、微力ながら、私も後押ししていきたいと思っています。

あわせて読みたい

「一票の格差」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    徴用工めぐる韓国高裁のこじつけ

    緒方 林太郎

  2. 2

    総理がメディアに指示? 質疑話題

    BLOGOS しらべる部

  3. 3

    なぜ高学歴なのに低収入になるか

    内藤忍

  4. 4

    桜を見る会 予算の内訳説明せよ

    大串博志

  5. 5

    民主政権の桜を見る会 今と違い

    井戸まさえ

  6. 6

    病気だけはネットで検索するな

    幻冬舎plus

  7. 7

    評判の結合映画 おっぱいに注目

    松田健次

  8. 8

    山本一郎氏がKAZMAX氏にエール

    やまもといちろう

  9. 9

    韓国の基金案で徴用工解決は困難

    緒方 林太郎

  10. 10

    31歳東大准教授が日本の若手叱咤

    Thoughts and Notes from NC

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。