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社会保障をめぐる議論は票にならない?〜世代別人口動態からみる選挙〜 - 前田 俊之

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投票行動が社会保障制度の議論をさらに阻む恐れ

この議論を複雑にする可能性があるのは、選挙における実際の投票行動である。図3は2005年の総選挙、いわゆる郵政解散と呼ばれた時の世代別有権者割合のグラフに、実際の投票割合(有権者割合と実際の投票率を掛け合わせた数字)を重ねたものである。世代別有権者割合が二つの山を持っているのに対して、実際の世代別投票割合は55歳~59歳の世代をピークにした一つの山になっていることがわかる。その周辺世代を含めると50歳以上の世代がかなり大きな影響力を持つ形になっているわけだ。同様のことはその後の2009年(民主党が政権獲得)、2012年(自民党・公明党が政権復帰)の選挙においても当てはまる。こうした構造の元で、50歳以上の世代に不利になるような制度の変更議論、その典型である社会保障制度の議論を自ら選挙の争点にできる政党はどれほどあるだろうか。安倍首相が今回の争点をアベノミクスだと断言する理由の中には、こうした世代の問題を回避する狙いがあると考えることもできる。それは多くの野党にとっても同様だろう。

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今回の選挙は65歳代後半が主役

では、今回の選挙においては、これまで見てきたような中位年齢の変化はどのような形で現れるのであろうか。図4は2015年の世代別有権者割合(推定値)に過去三回の総選挙の世代別投票率を掛けたものを示している。各回で争点も投票率も異なる過去の選挙だが、そのどのパターンが今回の選挙に示現したとしても結果は同じだった。つまり今回の選挙では65歳~69歳の年代が最も大きな影響力を持つということになる。この世代は2005年の選挙時には55歳~59歳、2009年や2012年の選挙時には60~64歳であった世代だ。この層を前にして、わざわざその機嫌を損なうような材料を争点にする戦略をとることは誰も薦めないであろう。この点からすると、今回の選挙で、もしアベノミクス以外に重要な争点が出てこなければ、多党化の流れは陰を潜めるかもしれない。尚、今回の選挙では低い投票率になるとの観測があるが、仮に1995年の参議院選挙なみの低い投票率(44.5%)に終わったとしても、65歳~69歳の年代が強い影響力を持つという結果に変化はない。より正確にいえばこの世代の影響力は更に高まる可能性が高い。

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このままでは臭いものには蓋の状態が続く恐れ

では、今後も与野党がともに社会保障制度改革といった問題を避ける戦略をとり続けるとどうなるだろうか。単純に言えば、制度の維持が困難であることが誰の眼にも明らかになるまで、問題の解決が先延ばしになると言うことではないか。まさに臭いものには蓋の状態だ。1990年代に年金制度の大改革に取り組んだスウェーデンでは、年金制度を政治の駆け引き材料とはしないという約束の元で議論を進めたと聞いている。今回の解散により、2012年の自・公・民による三党合意「税と社会保障の一体改革」は崩壊したようだが、そうした状態を放置しておいてよいとは言えまい。改めて当時に立ち戻って、わが国の将来に関する真摯な議論が選挙後に進むことを期待したい。

 
  「人口減少社会の設計~幸福な未来への経済学~」(松谷明彦、藤正巖著)中公新書より
  この投票率は抽出したサンプルに基づくもの
  厳密には2014年の推定値を使うべきだが、簡便法として2015年の推定値を利用した

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