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LGBTと障害者就労――生きやすい場を求め、変えていく - 桂木祥子

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■ケース2

50代、バイセクシュアル男性。HIVと精神症状あり。最初はウィングルの職員としての面接を受けるつもりで問い合わせた。障害者が企業に就職するための支援機関があることはそれまで知らず、もっと早く知りたかったと述べる。ウィングルを経て、就職。面接のときには、障害とセクシュアリティの話をした。セクシュアリティをオープンにすることには、メリット・デメリットどちらも感じていない。職場の親しい人には話の流れで、カムアウトした。就職後、一部の人間関係にまきこまれ退職している。

二人に共通するのは、初回で自分のセクシュアリティについて話していること、セクシュアリティの話はしたが、特にスタッフに対してセクシュアリティに関して特別な対応を求めていないことである。

虹色ダイバーシティのデータでLGBTの転職率が出されている(2013)。一般の51.8%に比べて、LGBTは60%で、特にMtFは68.3%が転職を経験している。これは、健常者と障害者をわけてデータを集めているわけではないが、障害の部分だけではなく、セクシュアリティに関してもサポートが必要なことがわかる。

これまで、LGBTへの理解が広がることで仕事の継続が高まるのではないか。障害者雇用も同様で、施 設職員がLGBTが何を求めているのか知ることで就職継続性が高まるかもしれないと私は考えていた。けれど、この二人は特別な対 応を求めていなかった。

セクシュアリティについて特に不自由していなかったとか、どのような対応をしてほしいのかが自分自身でもわからないということや、求めてはいけないという抑止が自動的に働いていること、セクシャリティの課題よりもこの時点では障害の課題のほうが大きいことなど、理由はさまざま考えられる。ただこれらは推測でしかなく、実際はどのような要因であるかはわからなかった。

たった二例のため、一般化はできないが、LGBTと出会ったことがないという施設が多い中、同施設でなぜ二人もカムアウトしていたのだろうか。そしてなぜ特別な対応を求めていないのか。そこで、もう一つの共通点である「初回でセクシュアリティについて話した」ということに着目してみた。

ウィングルなんばのサービス管理者大久保氏は、同事業のミッションを「基本的には“障がいは個人ではなく社会の側にある”と考え、社会を変えていくこと、……変えていくといいますか、“多様な個性が輝ける社会をデザインする”ことがミッション」だという。確かに、ケース2の方は「この施設には人の話をきいて共感する力、障害者もそうでない人も人として見る姿勢があった」と述べていた。多様な人々がいて、多様な個性が社会をつくるという観点と実現しようとする行動力がある場所、人、がLGBTにとってもいやすい場所なのかもしれない。だからこそ、二人はウィングルでカムアウトをしていたのではないか。しかも、わざわざ特別な対応を求める必要もなかったのではないだろうか。

「障害者の雇用の促進等に関する法律」には、“合理的配慮の提供義務”が掲げられている。これは車いすを利用する人にあわせて机などの高さを調整することや、障害の特性に応じた対応をして職場環境を整えることを義務づけるものだ。こうした個々にあわせた配慮を障害者に限らず、健常者にもすることで、誰もがより働きやすい状態になるのではないだろうか。

障害者就労で、支援施設のサポートが入ると、本人や支援者が会社とさまざま話し合いをする。よくわからない人を雇ってうまくいかずにやめられるより、仕事を継続してもらったほうが、利益があるわけだ。その上、障害者の環境整備を通して他の職員にもいい影響を及ぼすこともある。「障害者」は特性に応じた仕事であったり、環境が整備されていることで能力を発揮できる。「障害者だから簡単な仕事しかできない」と、健常者と同様の仕事ぶりを求めるのは不合理なように思う。健常者も障害者もそれぞれの個性が活かされ、自分を会社の一員と実感できる職場は働きやすいはずだ。

LGBTは頑張って認められなければならないのか

LGBTであることをカムアウトするのは、会社に貢献してからがいい、と言われることがある。それは「頑張らなければLGBTは認められない」というサインだ。シスジェンダー[*7]の異性愛者より頑張ることで、ようやくそこに存在することを許される。「頑張っているから私のセクシュアリティを認めてください」ということだ。そうした関係は、同等なものと言えるのだろうか。

[*7] 生まれたときに決められた性別と自己が認識している性別にずれがない状態のこと

私は、頑張っている人を否定したいのではない。私は職場でカミングアウトしている。「カミングアウトしているんだから頑張らなくっちゃ!」と思っていたし、いまもその気持ちは完全にはぬぐえない。「シスジェンダーの異性愛者より頑張らないと……」「障害者として頑張るので認めてください」本当に、それでいいのだろうか。“障害者”だから“LGBT”だから、“何々”だから……頑張ることが……?

いずれ誰もが、不当に頑張らなくていい日が来るように、多様な人々が生きやすい職場をつくっていきたい。シスジェンダーの異性愛者ももちろん多様なわけだ。みんな同じではなく、みんな違う。「障害者」や「LGBT」といった属性にある社会的課題による影響や格差を知り、変えていき、生きやすい場を作っていきたい。そのために、さまざまな場所にアプローチしていきたい。企業や福祉施設もその一つだ。と、いうことは頑張るわけですが、まあ、すでに、いろんな人が頑張っている。一人ではない。ぼちぼちいこう。

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