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「欧米のネガティブな“日本観”を正したかった」~「フィナンシャルタイムズ」アジア編集長・デイヴィッド・ピリング氏インタビュー~

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「フィナンシャルタイムズ」のアジア編集長、デイヴィッド・ピリング氏の著書「日本‐喪失と再起の物語:黒船、敗戦、そして3・11 (早川書房)」(原題:Bending Adversity‐Japan and the Art of Survival)が、「ニューヨーク・タイムズ」「エコノミスト」といった海外メディアから賞賛を受けている。長きにわたって日本を観察し続け、安倍首相をはじめ、村上春樹など多くの著名人にインタビューをした経験を持つ筆者に現代日本は、どのように映っているのだろうか。著者のデイヴィッド・ピリング氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行)

ステレオタイプを打破し、日本の“真の姿”を読者に伝えたかった


―最初に本書の執筆の動機を教えてください。

デイヴィッド・ピリング氏(以下、ピリング):私は記者として日本に7年間滞在し、その間に様々な文化に触れ、親しむようになりました。日本に対する理解が深まる度に、「日本についての本を書きたい」と考えていたのですが、記者としての業務に追われ、執筆する時間がありませんでした。

その後、日本を去り香港にベースを移して「フィナンシャル・タイムズ」のアジア編集長を務めることになりました。アジア全域が担当なので、引き続き日本の状況についても注視していたところに、東日本大震災が起きたのです。被災地を取材するため日本に出張し、自社記事はもちろん他媒体への寄稿も行っていたのですが、そうした中で「日本について本を書くとしたら、この瞬間しかない」という思いが強く頭をよぎったのです。国というのは、大きな危機に直面した時に真の姿を現すものです。そして、そのタイミングで、これまで温めていた様々なアイデアが非常にクリアな形となって出てきたのです。

また、当時英語で日本についてしっかりと書かれた本が長年出ていないという事情もありました。そのため、欧米では日本に関してはかなりネガティブな見方が多くなっていたので、それを正したいという意図もありました。

―本書では、過度な「日本悲観論」を否定するなど、「ステレオタイプの日本人観」に丁寧に反論していますが、英国などでは日本に対してステレオタイプな認識を持っている方もまだまだ多いのでしょうか?

ピリング:まだ根強く残っているのは確かだと思います。もちろん、どんな国にもステレオタイプというのはつきものです。イランについても、ジンバブエについても、アメリカについてさえ、そうしたステレオタイプな見方はあるでしょう。しかし、特に日本については、そうした傾向が強いのではないでしょうか。

何故なら「日本というのはとても異質な国で、絶対に理解することがかなわない国である」という見方が根強く残っているからです。ですから、例えば「いつも背広を着たサラリーマン」とか「歌舞伎町の雑踏」といったものが、ステレオタイプとして念頭に上ってきてしまう。こうした見方というのは、非常に表層的で微妙なニュアンスを伝えていない部分があります。

私が目指したのは、そうしたステレオタイプを打破し、もっと深く、よりよく理解された日本の真の姿を読者に伝えることでした。日本を海外で捉えられているよりも、より人間的な形で描き、プレゼンしたかったのです。人間的な日本の姿をありのまま伝えようと考えたわけです。

―「失われた20年」という表現があるように、バブル崩壊後、日本の国際的地位は大幅に低下したとされています。しかし、本書の中ではGDPや失業率などの数字や、英国の議員が夜の東京を見て「これが不況だというのなら、うちの選挙区にぜひ欲しいものだ」と述べたエピソードなどを挙げて、こうした認識に反論を試みています。何故ここまで「日本が衰退した」という認識が一般的になってしまったのでしょうか?

ピリング:そうした見方が残っているのは、海外だけではありません。日本国内の人たちの間でも「日本悲観論」は根強く残っているように思います。こうした「日本悲観論」が浸透した理由は5つほどあります。

一つはデフレです。「日本はデフレに陥っていて、経済が悪くなる一方だ」という見方が一般的になっている部分があります。

二つ目は、70年~80年代、バブル期も含めて非常に急成長を続けていた日本の経済が突如として、おかしくなってしまったという点です。つまり、成長が鈍化したという事実は否めない。このことが「日本悲観論」の裏付けになっているケースも多いでしょう。

三つ目の理由として、日本の名目GDPが過去20年間において、ほとんどフラットなままだったことが挙げられます。それだけ見れば、経済は成長していないわけですから、ひどい状態に置かれていると思えるのも仕方ありません。ただ、本当に見なければいけないのは、一人当たりの実質GDPです。この数字を見れば、想定しているよりも状況ははるかに良かったことが理解できると思います。つまり、本当に比較しなければいけない対象を間違っていたわけです。

例えば、日本とブラジルを表面的に比較し、名目GDPで見れば日本ははるかにひどい状況におかれているように思えるかもしれません。しかし、ブラジルのインフレや人口増加といった要因を差し引いて比べてみると、はるかに違った状況が見えてくるのです。

4つ目の理由としては、著名な企業の業績が悪化してきたことが挙げられます。例えば、ソニーなどは急激に業績が悪化して、韓国のサムスンなどと比べると非常に悪い状況にあります。このことが、状況が悪化していることを人々に印象付ける結果になったのではないでしょうか。

5つ目は、財政赤字の問題があります。私が先ほど指摘した一人当たりのGDPの説を受け入れていただくとしても、巨大な財赤字政が、やがて我々に大きな苦しみを与えるんじゃないかという不安を日本国民はいつも抱えているわけです。この問題が爆発するとは、私は考えていないのですが、そういった不安が漂っていることは理解できます。

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