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日本とインドが手を携えれば、中国の危険な膨張を「抑え込む」ことは可能だ! 『日本とインド いま結ばれる民主主義国家 中国「封じ込め」は可能か』 (櫻井よしこ・国家基本問題研究所 編)|自著を語る

文 櫻井 よしこ Yoshiko Sakurai

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『日本とインド いま結ばれる民主主義国家 中国「封じ込め」は可能か』 (櫻井よしこ・国家基本問題研究所 編)


 本書を出版した2012年5月からわずか2年余りの間に、世界情勢はまたもや激変した。

 その変化は、まるでジェットコースターのように激しく、国際社会は確実に混沌の度合いを深めている。私たちの前に広がりつつあるのは、外交や交渉による解決よりも力の行使による支配を優先し、国際法や理性や人道よりも国家の利己主義を剥き出しにした21世紀の重商主義とでも言うべき価値観である。一連の世界情勢の激変は、13年1月に政権2期目に入ったオバマ米大統領が見せた外交・安全保障政策の変化が直接の引き金だったといってよい。

 この2年余に、世界の指導者が交替した。前述したように米国ではオバマ大統領が任期2期目に入り(13年1月)、中国では習近平氏が国家主席に就任した(13年3月)。ロシアではプーチン氏が大統領に(12年5月)、日本では安倍晋三氏が首相に返り咲いた(同年12月)。13年9月には豪州に保守のアボット首相が、続く14年5月にはインドにモディ首相が誕生した。

 アジア・太平洋地域の国際関係をこれらの指導者が軸となって形成する。が、前述のようにいま二つの明らかに異なる政治の潮流、中国とロシアの力による政治と、日米豪印の国際法や外交による政治の流れが生まれている。この中で日印豪三ヵ国の果たす役割は米国外交を補うという地平を越えて、新たな海洋国家連合によって民主主義や国際法を基盤とする国際社会の枠組みの創造という歴史的使命を帯びたものになるはずだ。

 国際情勢の顕著な変化は13年1月、オバマ大統領が2期目就任演説で見せた内向き志向によって加速された。大統領はオバマ・ケアに象徴される医療・福祉改革など内政問題に多大の関心を示す一方で、国際社会の秩序維持や紛争解決にアメリカがこれまで果たしてきた大きな役割に、殆ど言及しなかったのだ。

 10年12月に始まったアラブの春と呼ばれるアラブ諸国の民主化運動は、チュニジア(ベン・アリ大統領が11年1月14日に逃亡)、エジプト(11年2月11日、ムバラク大統領が辞任)、リビア(11年10月20日、カダフィ大佐射殺)へと瞬(またた)く間に広がり、長期軍事独裁政権を倒した。だが、民主化の動きがシリアに達したとき、阻止行動に出たのがロシアと中国だった。両国がアサド大統領を擁護したことから、国連の対シリア非難決議は阻止され続けた。アサド大統領は国軍をして国民を攻撃せしめ、化学兵器のサリンまで使用した。14年9月現在で、死者は少なくとも19万人に上る。

 にも拘わらず、オバマ大統領はシリアに軍事介入せず、13年9月10日、不介入の究極の理由として「アメリカは世界の警察官ではない」と全米向け演説で語った。その主張は2期目就任演説と精神において重なり、オバマ氏が自らに課した歴史的使命、つまり、海外の戦争からの「米軍撤退」を再確認するものだった。

 オバマ大統領はすでに11年末にはイラクから全米軍を撤退させ、14年中にはアフガニスタンからも戦闘部隊を撤退予定である。米国の内向き姿勢の結果、国際社会に生じた空白に間髪を入れずに侵入し始めたのがロシア、中国及びテロリスト勢力である。

 14年3月、プーチン大統領は電光石火の速度でウクライナ共和国からクリミア半島を奪った。中国共産党は、ロシアのクリミア併合を党機関紙「人民日報」の国際版「環球時報」の3月20日付社説でざっと以下のように解説した。

・ウクライナの側に立った西側諸国は国際法や国際条約を尊べとの美しい言葉を述べた。

・だが、世界第二の核保有大国であるロシアとの戦争のリスクをとる国は存在しなかった。それ故に、西側諸国の美しい言葉は無意味だった。

・国際社会では圧倒的な軍事力の優位性を保つ国の主張を、軍事的劣位にある国は受け入れざるを得ない。

・中国はロシアvs.ウクライナのような圧倒的軍事優勢を対周辺国で、現在、確立しているわけではない。しかしそれは時間の問題である。

・中国が軍事的優勢を確立したときには、周辺国は中国に従わざるを得ない。

 中国のこうした分析は、日本及び周辺諸国への警告である。2014年も、12.2%という軍事費の伸び率を保つ中国の意図を、隣国の日本はどの国よりも明確に読みとる必要がある。

ロシア同様、アメリカの足元を見透かした中国は南シナ海で傍若無人の侵略に及ぶ。オバマ大統領が14年4月末に日本、韓国、マレーシア、フィリピンを歴訪し、アメリカの同地域への関与は不変だと言明した直後の5月、中国は巨大な石油掘削施設を、ベトナムが激しく抵抗する中、南シナ海の海域に運び、掘削を開始した。圧倒的軍事力を保つ中国が要求すれば、軍事的劣位にある国は従わざるを得ないという中国の主張を南シナ海を舞台に地で行ったのだ。中国はその後も南シナ海の中沙、南沙諸島で着実に支配を確立し続けて今日に至る。南沙諸島ではフィリピン領有のジョンソン南礁を2年半余りをかけて奪い、埋め立て、14年夏現在、軍事施設と滑走路が完成間近である。

 この間、中国は「新型大国関係」という言葉を軸に対米外交を展開した。12年2月、まだ副主席だった習近平氏がワシントンを訪れ、新型大国関係について語っている。その内容は「相互理解と戦略的信頼」「知恵と相互の協力」「国際問題及び地球的問題の協力及び調整強化」に加えて「相互の核心的利益の尊重」である。

 中国は核心的利益を台湾、チベット、南シナ海、尖閣諸島と定義しており、新型大国関係は、アメリカに中国の核心的利益に関わることには口出しするなという内容であることがわかる。

 新型大国関係は、13年6月、国家主席となった習近平氏がカリフォルニア州でオバマ大統領と2日間にわたって行った首脳会談でも詳細に語り合われた。それを受け入れることは、尖閣諸島は日米安保条約第五条の適用対象だと主張してきたアメリカの対日政策とは矛盾する。にも拘わらず、オバマ政権は新型大国関係という言葉を安易に用い始めた。

 勢いづいた中国は13年11月には東シナ海に中国独自の防空識別圏を設け同空域を通過する航空機には事前の届け出を要求した。防空識別圏を領空であるかのように見做す中国に対して、日本政府が民間航空各社に飛行計画を中国側に提出するのは控えるよう通達したのとは対照的に、アメリカ政府は「一般論」としながらも、「外国の航空情報に合わせることが望ましい」と発表した。対中国で日米の対応に微妙なズレが生じているのである。

 アメリカは中国の南シナ海、東シナ海での振る舞いや国内における人権弾圧、少数民族の虐殺などを受け容れ難いとしながらも、経済的に切れない中国と事を構える意図はない。対中関係を維持しながら、日本、東南アジア、豪州、インドとも良好な関係を保つ両軸外交がアメリカの基本路線である。日米関係は必ずしも米中関係に優先するものではなく、日米関係と日中関係は合わせ鏡のようなものなのだ。日本をはじめアジア諸国がアメリカ外交を注意深く分析しなければならない所以(ゆえん)である。

 いまひとつの問題は中東である。アメリカがシリアへの軍事介入を見送ったことは、結果として中東におけるテロリスト勢力の跋扈(ばっこ)を許した。アルカイダから派生した超過激な「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)が、シリアからイラクにまたがる広範な地域を侵攻した。

 アメリカのジャーナリスト二人を処刑した残忍な映像をインターネット上に公開したイスラム国の所業にアメリカ世論は刺激され、オバマ大統領は14年9月22日、遂に、イラクだけでなくシリアへの空爆にも踏み切った。ウォールストリートジャーナルはこれを戦争だと断じ、過去25年間で、3度目の戦争にアメリカは突入したと喝破した。

 オバマ大統領は、地上軍は派遣しないと繰り返すが、そこでとどまり得るのか、イスラム国の勢力を阻止出来るのかを含めて、展望は見えない。明らかなのは、アメリカがアジアに割(さ)く余力はそう大きくはないということだ。

 アメリカが中東に手をとられる国際情勢は日本がより自主的に自らの道を切り開かなければならないことを強烈に示している。日本が自国の立場を強化し、自力をつけるのに欠かせないのが、インド、豪州、東南アジアとの連携である。

 安倍首相は12年12月の就任以来、1年8ヵ月で49ヵ国を訪問したが、中でもインド、豪州との関係強化こそ、日本の戦略の基本をなすものだ。

 アメリカ、日本、豪州、インドを結べば自ずと中国の無謀な侵略を思いとどまらせる枠組みの基本形が出来る。それは自由と国際法、民主主義を尊ぶ海洋国家の連携であり、中国やロシアという、国際法も人間の自由も蔑ろにした大陸国家の力による支配に立ち向かう枠組みである。ただ、どの国にも中国包囲の意図はなく、また相互に深い経済関係を擁する現在、かつてソ連に対して言われたような「封じ込め」的な中国包囲や中国封鎖は概念上も実際上も不可能に近い。それでも中国の前で日米豪印が強く結束することが、国際法や条約に基づいた外交、安全保障政策を選択するよう中国に促す力となる。少なくとも軍事的な膨張を「抑え込む」ことは決して不可能ではないだろう。

 安倍首相の14年7月7日の豪州訪問は明らかに対中牽制の戦略目標に添ったものであり、両国は相互の関係を「特別な関係」と位置づけ、準同盟関係を築くに至った。両国は14年6月11日に外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を開き、日本にとって最も重要な技術のひとつと言ってよい潜水艦技術のオーストラリア移転に関しても話し合った。両国は過去の戦争の歴史を乗り越え、確実に戦略的パートナーとして、共に歩み始めた。

 そして、インドのモディ首相は「インドの安倍晋三」と呼ばれる程、安倍首相と共通点が多い。本書にも「印日が手を組めば中国に勝てる」という論考を寄せている、インドの著名な戦略研究家、ブラーマ・チェラニー氏は、モディ氏の特徴を安倍氏のそれになぞらえて「穏やかなナショナリズム、市場経済への重心、新たなアジア主義、アジアの民主主義国との戦略的パートナーシップ網の確立」(「THE DIPROMAT」14年5月16日)と表現した。

 両首相のもうひとつの明らかな共通点は、中国の領土拡張という現実の脅威に直面していることだ。中国が尖閣諸島を中国領だと地図上に明示しているように、インドが実効支配する北東部のアルナチャルプラディシュ州も中国は中国領として記載している。インドは日本の尖閣問題に関しては中立の立場を守り、南シナ海の領有権問題でも中立を保ってはいるが、インド外交からは一歩も引かずに中国とわたり合う明確な姿勢が読みとれる。

 モディ首相は14年8月末に訪日し、日本を「(外交関係で)最も高い位置づけにある国」と定義し、日印連携強化を「特別な戦略的パートナーシップ」という言葉で表現した。日印間では原子力協定、救難飛行艇「US2」の輸出、新幹線のインドへの導入など、日印関係を強化する具体的案件が進行しつつある。非同盟主義のインドは日印の「2プラス2」には踏み込まなかったが、対日親和性はインド外交全般から読みとれる。

 訪日後の9月18日、モディ首相は習近平国家主席をニューデリーに迎える一方で、大統領のムカジー氏をベトナム訪問に派遣したのである。それだけではない。中国と南シナ海で激しく対立するベトナムはロシアから最新のキロ級潜水艦6隻の供与を受けたが、これをインド海軍が技術指導している。

 インドはまた、日本の準同盟国と言ってよい豪州とも深い絆を有する。急速に強化される日印豪の外交、安全保障上の相互協力関係は、アメリカの空白を埋め、対中牽制の枠組みとなる。

 日印豪の新たな関係は始まったばかりだ。現在進行形の世界秩序の大変化の中で、日印豪を主軸とする海洋民主主義国家の連携の重要性はより深まっていく。本書で焦点を当てた日印関係の未来を、心ある読者とともに今後も注意深く見詰めていきたいと思う。

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日本とインド いま結ばれる民主主義国家 中国「封じ込め」は可能か
櫻井よしこ・国家基本問題研究所・編

定価:本体700円+税 発売日:2014年11月07日

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