ネットの先駆者が多用するのは?
「いま仕事の連絡はほとんどが電子メール経由です。朝から晩まで、10分に1~2本は着信しますよ。そのうち7割が社内からで、これは会社アドレスで対応します。議事録などの共有も、紙ではなくメールベースが基本です」
ネット系のサービスを展開しているだけに、社内業務でもメールを多用しているのが夢の街創造委員会社長の中村利江さん(49歳)だ。
メールのチェックはPCからするのが基本だが、同社はグーグルの「Gメール」システムを採用しており、スマートフォン(スマホ)からも同じ内容のメールを処理できる。しかもGメールでは会社アドレスのほかプライベートのアドレスも併用できるので、中村さんは同じ画面から私用のメールも受発信している。だからPCとスマホを使い分ける必要はなく、PCがメーンでスマホはサブといった位置づけだ。
中村さんはリクルートで営業を経験したあと、「ほっかほっか亭」を運営するハークスレイに入社し、ネットで弁当の注文を受け付けるシステムを導入。夢の街創造委員会では、日本最大級の宅配ポータルサイト「出前館」をつくり上げた。ネットの先駆者の一人である。
しかし、大方の40代ビジネスパーソンと同じように、「メールを送るだけでは失礼かもしれないので、あとでフォローの電話をかける」という文化で育った。だから、iモードなどの携帯メールやフェイスブック(FB)、LINEといった、よりパーソナル色の強いツールに関しては、いまのところ「あまりビジネスには馴染まないのでは」と見ている。
同じように、仕事ではPCメールを主なツールとしているのが柴野智政さん(43歳)だ。世界的なコンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)から、2013年2月にカフェの運営や商業施設の開発などを手がけるカフェ・カンパニーの経営陣に加わった。現在は専務取締役P.M.C.本部長として、経理、人事など管理部門のほか経営企画の仕事を担うビジネスエリートだ。
「僕が社会人になったのは1993年で、当時は電話以外にはテレックスやファクスを使う程度。いまはPCメールを活用していますが、若いころ『メールなし』の環境で育っているせいか、メールに頼りすぎるのはどうかなと思っています」
たとえばBCGでは、進行中のプロジェクトの関係者にCCで配信する形が多く、資料の共有やアップデートのメールがみるみる受信箱にたまっていった。いまは主に社内からのメールがひっきりなしに着信する。
これらは柴野さんにとって「報告書などの書類や手紙に近い」。だから自分で書く場合は、プリントアウトを想定してA4 1枚に収まるよう書式を整えるといった工夫をしている。メールはあくまでも「文書」の延長なのだ。
一方、簡単な報告や相談といった書面にはそぐわない内容のときは、できるかぎり対面したり電話をかけたりするという。
「対話することで瞬時に情報を共有できるし、キャッチアップも容易です。メールでやり取りするよりも、速く確実に判断できる」という言葉に共感する人は多いだろう。
PCメールに欠けているもの
特別な設定をしないかぎりPCメールは着信してもすぐには気付かないし、テキストベースであるため感情を伝えるのが難しい。即時性と感情表現。これらがPCメールに欠けているポイントだ。
柴野さんのように、直接会話をすることでフォローできるならそれに越したことはない。夢の街創造委員会の中村さんも、社員との週1回の対話を重視している。
だが、社員3人のごく小さな所帯で、しかも代表の矢島里佳さん(25歳)が「月の半分は出張で不在にしている」というベンチャー企業「和える」の場合はそうもいかない。
和えるは矢島さんが慶應義塾大学4年生のときに設立した会社で、独自ブランドの伝統工芸品を企画し、ネットや百貨店で販売している。
矢島さんたちが仕事で大いに活用しているのがLINEである。FBのメッセージ機能で取材のお願いをしたところ、矢島さんから返ってきた言葉が「いまも社内連絡でLINEを使っていたところです」というものだった。
LINEの何が優れているのか。
「私たちは社内に加えデザイナーやプログラマーといった仕事仲間の人たちと、事象ごとに3~6人のLINEのグループをつくって仕事上の連絡に使っています。LINEが優れているのは、プッシュ通知なので着信したときにすぐわかることです。また、グループで対応しているときは、あとから参加してもやり取りの流れが追いやすく、何がいまの課題なのか把握しやすいですね。『既読』表示を見れば、誰に情報が伝わっているか返信を待たなくてもわかります。スタンプを使った感情表現が容易なので、チームワークが取りやすいという利点もあります」
つまり、PCメールの課題である即時性と感情表現をLINEなら満たせるということだ。写真の共有がスピーディにできるところもビジネス向きという。和えるでは個人情報や取引上の秘密に触れることは書き込まない、というルールを設けているが、それ以外については社内連絡の多くをLINE経由にしている。
もちろん、社外向けや議事録の共有といった目的にはPCメールを使用する。「PCメールは保存がききますし、検索性に優れているのも長所です。ですから、LINEと同時にPCにも同じメールを送信することが多い」という。
LINEこそ「仕事向き」だ!
LINE愛好派は矢島さんのような若者だけではない。三越伊勢丹ホールディングス経営戦略本部マーケット・開発部新規事業担当長の柴田廣次さん(53歳)もその一人だ。
「僕はLINEこそ、仕事に向いていると思うんです。グループをつくれば特定の人たちと、素早く緊密な情報交換ができる。短文で用件だけを投稿するときは、誤解が生じないように笑顔のスタンプを使うといったやり方もできる。これはPCではなかなかできません」
たとえばこの2月、柴田さんは米ニューヨークで期間限定の複合店「ニッポニスタ」を開くというプロジェクトを率い、成功させた。関わったのは食品、婦人、美術などさまざまな部門から集められたメンバーだ。彼らのうちからテーマに応じて数人ずつのグループをつくり、LINE上で打ち合わせの設定や意思決定などを進めてきた。
全員参加のグループとしなかったのは「プロジェクトの主要メンバーは8人ですが、全員で共有すると時間調整などが難しい。LINEのグループで最適なのは4人くらい」という判断からだ。
以上の話から、PCメールやLINEの効果的な使い分けを考えてみよう。柴田さんや矢島さんの例にあるとおり、社内の同じチームやプロジェクトメンバーなど3~4人の少人数で連絡を取り合い、意見交換をするにはLINEが向いている。
一方、PCメールは、顧客や取引先への信頼性や保存性、検索性といった面で依然としてビジネスユースの主役である。スマホは、外出先などでPCを補完する役割だ。
FBに関しては、中村さんや柴野さん、矢島さんが口をそろえるのが「最近は仕事上の問い合わせを受け付ける回数が増えた」ということ。事実、今回の取材はFB経由でお願いしたものが多かった。ビジネスにつながる可能性もある緩やかな社外人脈の形成や維持に、まずまず役に立つツールなのである。
ほんとうに仕事で役立つのは?
・Facebook
【特徴】オープン性
【使い方】社外人脈の形成や維持/問い合わせの受け付け
・LINE
【特徴】即時性/経緯の一覧性/感情表現ができる
【使い方】小グループでの通信/1対1の通信
・PCメール(会社ドメイン)
【特徴】検索性/対外的な信頼感/大量データに対応
【使い方】社外との通信/議事録などの共有
・スマホ、携帯メール
【特徴】即時性
【使い方】PCメールの補完として