- 2014年11月22日 09:00
米中合意の温室効果ガス目標 石炭離れが進む両国の事情と思惑 日本の安全保障にはマイナスの影響も - 山本隆三
2/2米国の削減目標設定の裏側
オバマ大統領の1期目に、議会で温室効果ガスの排出量取引制度の導入が検討されたが結局廃案となった。議会の協力を得ることの難しさを認識した大統領は、環境保護庁の権限で発電所からのCO2の排出量を抑制する方策を採用した。今回の目標達成の方策も議会に諮ることなく、環境保護庁の権限で進められるだろう。
13年9月には、1kW時当たり800グラム以上ある石炭火力発電所からのCO2排出量を、天然ガス火力並の499グラムに抑えるという、新規発電所に関する規制値を発表した。CO2の補足貯留装置(CCS)を設置しない限り達成は無理な規制だった。
今年の6月には既存の火力発電所からの規制値を環境保護庁は発表した。大気浄化法に基づき既設の発電所からのCO2の排出を削減する案だ。05年との比較で30年に火力発電所からの排出量を30%削減することが全米の目標とされ、州毎に目標値が割り振られた。州毎に異なる目標が設定されたのは、発電所の構成が異なるためだ。石炭火力の比率が高い産炭州には比較的低い目標値が設定された。
表の通り、産炭州のウエスト・バージニア、ケンタッキー、ワイオミング州では石炭火力が主体のために排出量は多いが、目標の削減比率は非産炭州のニューヨーク、カリフォルニア州より低く設定されている。石炭産業に大きな影響を与えないようにとの考えだろうが、それでも石炭火力から天然ガス火力などへの転換が必要になる。この目標値については、現在パブリックコメントが受け付けられており、15年6月に最終的な規制値が発表される予定だ。それを受け各州政府が達成のための具体策を16年6月までに定めることになっている。
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05年が基準年に選定されたのには理由がある。過去最大の排出量の年なのだ。それから、排出量は減少を続け12年時点で既に15.8%減少しているのだ。30%の目標値の半分以上達成済みであり、それほど達成は難しくない可能性はあるが、石炭産業には大きな影響がありそうだ。
新目標値は25年に26%から28%であり、30年に30%の火力発電所を対象とした削減目標と大きな違いはない。現在の制度の延長で対処可能とオバマ政権は考えている可能性があるが、米国内では共和党を中心に反対の声が大きくなってきた。
温暖化問題に対する共和、民主両党支持者の温度差
ケンタッキー州選出の上院共和党院内総務のマコーネル議員は、今回の合意を次のように批判している「中国は16年間何も行わなくて良いということだ。米国ではケンタッキー州のように国中が大損することになる」。さらに、次期上院環境・公共事業委員長と言われている共和党のインハーフ議員は「合意は不公平だし、中国が再エネと原子力を20%にするというのは信じられない。米国は削減を強いられるが、中国は何もしなくていい」と批判している。
共和党支持者には、温暖化は起こっていないとする温暖化懐疑論者が多いことも共和党議員が反対する理由だろう。CNNによると中間選挙の際の出口調査では、温暖化、気候変動が重要な問題と答えた有権者が57%、そうではないとの答えが41%だった。しかし、民主党支持者では問題と答えた有権者が70%、共和党は29%と大きな差がある。
共和党議員に加え、産炭州出身の民主党議員も合意に反対の立場であり、環境保護庁が規制案を作ることができるのか、見通しははっきりしない。現在議論されている既存発電所からの排出規制と同様に各州の権限に委ねると、多数を占める共和党知事が具体案を作成しないまま16年の大統領選となり、新大統領如何では、結局合意は実行されない可能性もある。
日本への影響は?
15年末にパリで開催される気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、温室効果ガスの排出を抑制する新たな合意が期待されている。中国が排出抑制の意思を示したことは評価されるが、その実効性には疑問がある。また、オバマ政権が残り2年で、削減のための米国の制度を整えられる可能性は少なく、今回の合意は葬り去られる可能性も高い。
エネルギー政策が、まだ決まらない日本が削減目標を出せるはずもないが、今は主要国の温暖化政策が日本に与える影響に注目すべきだ。中国は、低品位炭の輸入を禁止し、今後高品位炭の購買量が増えるだろう。日本の電力会社は高品位炭を中心にボイラーの設計を行っており、中国と高品位炭の購買を巡り競争する場面も増える可能性がある。
米国で既存発電所からのCO2排出規制が実行に移されれば、石炭火力から天然ガス火力への燃料転換が増加することが考えられる。欧州と日本が期待する米国からのシェールガス輸出量にも影響を与える話だ。
また、米中環境協力により、エネルギー・環境技術の協力がさらに進む可能性がある。日本の技術を利用し途上国で温室効果ガス削減に協力するというのが、日本の方針の一つだが、うかうかしていると日本の技術が陳腐化するということを忘れてはいけない。デフレの時代に欧米が日本に差をつけた技術もある。
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