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「いい絵本」って何だろう? / tupera tupera(絵本作家)×荒井裕樹

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荒井 『木がずらり』や『魚がすいすい』(ブロンズ新社)なんかのジャバラ絵本の貼り絵は、ものすごく細かいパーツが無数に貼られていますよね。「描き込む」みたいに「貼り込む」感じですね。

たくさんのパーツが貼り込まれている作品って、どういった瞬間に「完成した」っていう手応えが感じられるんでしょうか?

亀山 あのね……「はやくやめたい」って感じることがありますね。

荒井 えっ!

亀山 「はやく終わりにさせてあげたい」というか「したい」というか。制作の作業自体が楽しいわけじゃないのかもしれないですね。「できあがった瞬間」が楽しいんですよ。

中川 そうかな? 私は制作に入ったときの方が気は楽だな。

亀山 ぼくはアイディアを出すときが一番楽しいですね。そのあとは、「はあ、作らざるを得ないなあ……」って感じ。『パンダ銭湯』も、思いついたときはものすごく興奮したけど、実際に作り始めたら「はやくできあがらないかなぁ……」って仕方なく作ったんですよ。

中川 カメ(注:亀山さんのこと)がそんなにいやだとは思わなかった(笑)。

亀山 「いや」ってわけじゃないよ。アイディアを思いついたときの興奮度が最高潮かな。実際の制作作業に入ったら、キャンパスに向かって夢中でボクシンググローブを打つようなアーティストにはとてもなれないですね。

中川 確かにそういうアーティストになれないかもしれない。

亀山 ああ、あと作品が完成して、出版社宛てにヤマト運輸の伝票を書いているときに、再び最高潮がやってきますね。最終コーナーを曲がり切ったマラソン選手みたいな。

荒井 あはは(笑)。

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中川 私は制作中が一番作業に専念できます。子育てとか制作以外の仕事もあって、いつもに何かに追われ気味の中で、制作中だけはこれだけに集中できるんです。

荒井 ちなみに、特に好きな作業ってありますか?

中川 私は色を決めるときと、レイアウトを考えるときが好きです。ページをめくったとき、次にどういう色がきたら綺麗かなあ、とか。選択肢は無数にあって、組み合わせやレイアウトが少し違うだけで印象は全然違うので。

荒井 作業の中で失敗ってされることってありますか?

亀山 あまりしないよね。以前は多かったですよ。描いては捨てて。

荒井 失敗を楽しむアーティストもいますよね。

中川 私たちは嫌いだよね。やり直しになると、「なんてこっちゃ!」って顔面蒼白になる(笑)。

亀山 ぼくらは、ひとつずつパーツを作って、レイアウトを考えて、「これでいい!」と納得のいく状況になってから貼りつけるので失敗って少ないんですよ。もちろんひとつひとつのパーツを作るときは、失敗してポイッと捨てていますけど。

荒井 素材との偶然の出会いみたいなものは?

中川 あります。偶然見つけたテクスチャだったり、雑誌だったり。それ以外は自分たちが思い浮かべているものを、こつこつと積み上げていく、わりと建設的で真面目な作業という感じです。

荒井 ちなみにtupera tuperaさんにとって「いい絵本」の条件って何ですか?

中川 単純に「綺麗なこと」とか「面白いこと」とかです。

荒井 どういったものが「綺麗」なんでしょうか?

中川 ひとつの画面が素晴らしいときです。

例えば散歩していて、ウィンドウに飾られているワンピースを綺麗だなって感じるのは、色合いが綺麗だったり、あるいはワンピースを着たマネキンが帽子をかぶっていて、その全体が綺麗だったりするからですよね。そういう一枚の絵としての綺麗さがすごく重要なんだと思います。

亀山 (中川さんを指して)色校正すごく厳しいです。印刷所が泣いちゃうくらい(笑)。

中川 綺麗な原画を印刷に反映するのって難しいんですよね。再現できない色もあるし。もちろん印刷のよさというものもあるんですけど、自分が納得できるまではいろいろと注文をしてます。

亀山 ぼくは年々こだわりがなくなっているんですよね。絵本って、いろんな可能性を捨てながら見開き15ページに落とし込まないといけないので、出来上がったときは「できた! 完璧だ!」じゃなくて、「こうなっちゃったんだ……」みたいなちょっとへこむ感じがありますね。

だから、すべての作品が100%ってわけじゃないんですけど、「こうなったんだし、まあいいか」って思うようにしています。いろんな人がいて、好みも違いますよね。生み出したものは生み出したものってことで、いいかなって。

なんでも受け入れていきたい

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荒井 お二人で制作されていて、意見が合わなかったり、それこそケンカになったりすることってあるんでしょうか?

亀山 仕事でケンカになるのは唯一アイディアの部分です。まあしょうがないですよね。アイディアを出した人間は頭の中でイメージができあがっているので。

中川 色や表情については、お互いに指摘されて直すことはあっても、ケンカはしないです。カメがアイディアを出すことが多いんですけど、それに私がブレーキをかけると怒るんです(笑)。まあ面白くはないですよね、テンションあがっていますし。

亀山 本当に核心めいたところは何を言われても無視して押し通しています。そこだけは譲れない。

荒井 もともとはお一人で活動されていたわけですよね。自分個人の名義で作品を作ろうって思うことはないんですか?

中川 それは思いません。

亀山 最近は複数の仕事を別々にこなしたり、一人でやったものもtupera tupera名義でだすことも増えました。とくに中川が妊娠・出産中のときは、ぼくが一人でやってましたから。

中川 そのときは「一人でやっちゃってずるいな」って気持ちはあったんですけど。

亀山 最初はtupera tuperaでずっとやっていくつもりじゃなかったので、自分の名前で作れないことにコンプレックスがあったんですけど、いまはどうでもいい。

中川 もうずっとtupera tuperaでやってきたし。

亀山 ある程度、もうどうしようもないって思ったら楽になりましたね。

中川 自分たちで作った紙だけしか使わないで貼り絵をやるのが「tupera tuperaらしさ」だって思っていた時期もあったんですけど、いまはなんでもありになってきました。それでも溜まってきた作品を振り返ると、「自分たちらしさ」って出てくるんだなあって思います。

荒井 いま「自分たちらしさ」という言葉がでてきたので、この連続対談企画でみなさんに聞いている質問をさせてください。「tupera tuperaさんにしか作れないもの」ってなんですか?

中川 ……。

亀山 …………ない。

荒井 (笑)。

亀山 ないよね。

中川 うーん(苦笑)。

荒井 じゃあ、ちょっと質問を変えますね。さっき中川さんが、振り返ってみたら「自分たちらしさ」が出ているとお話になっていましたが、結果的に「tupera tuperaさんだけが表現しちゃうもの」って何だと思いますか?

亀山 ………タコですね。

一同 (笑)。

亀山 結果的にタコばっかり作っちゃう。

中山 表現しちゃうもの……なんでしょうね……。作っている人はみんなその人にしか作れないものをつくっているんだろうし……。

荒井 「自分たちらしさ」って、たまに辛くなると思うんですよね。

中川 そうですねえ。他の作家さんをみても「またこれか。もっといろいろやればいいのに」って感じることもあります。私たちは10年くらい、二人でぶつかったり、偶然の掛け合いから生まれたものを拾い上げたりしながら作品を作ってきたんですけど、良くも悪くもそれに慣れてきちゃったので、私たちもそう思われているのかもしれない。

だからこそ、ワークショップを開いてみたり、こうして荒井さんにお会いしてみたり、舞台やテレビといったもともとやるつもりはなかった仕事も受けて、違うものを作りたいなあって考えていますね。こういうと、なんだか「他人まかせ」みたいですけど(笑)。

亀山 どんなアーティストも、なんだかんだいって一人では作っていないと思います。ぼくの場合、まず中川と一緒に作っていますし、そもそも自発的に作ることってあんまりないんですよ。出版社から「絵本を作りませんか」「こういうテーマでどうですか」って話をもらってから考えるんです。みんなが周りにいて、いろんなものがシャッフルされて出来ていくので、一人で作っている感覚がないんです。

中川 もちろん頭の中でいろんなアイディアはひらめくんですけど、それをキャンパスにひたすらぶつけていくタイプではないです。

亀山 二人の間で閉ざしてないで、どんどん広げていくタイプだと思います。なんでも受け入れて、それを自分たちなりに解釈して作りたいって思っているので。tupera tuperaにしか描けないってものを作れているとはとても思えません。

荒井 「貼り絵」って、絵具と違って色と色が混ざらない表現技法ですよね。どんなに小さな紙片でも自分の色と質感を主張していて、存在感を発揮しています。一枚の紙の上に混ざり合わない個性がいくつも散らばっていて、でも、全体としてきちんと調和した世界を作っているところが面白いです。お二人の、いろいろな刺激をどんどん受け入れていくという発想自体が、すごく貼り絵的ですね。新刊の『tupera tuperaの手づくりおもちゃ』(河出書房新社)もとても楽しみです。

……最後にひとつお願いしてもいいですか? いつも子どもに読み聞かせしてる絵本を持ってきたので、サインください(笑)。

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荒井裕樹(あらい・ゆうき)

日本近現代文学 / 障害者文化論

2009年、東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員を経て、現在は二松学舎大学文学部特別任用専任講師。東京精神科病院協会「心のアート展」実行委員会特別委員。専門は障害者文化論。著書『障害と文学』(現代書館)、『隔離の文学』(書肆アルス)、『生きていく絵』(亜紀書房)。

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tupera tupera(ツペラ ツペラ)

絵本作家、イラストレイター

亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、アニメーション、雑貨など、様々な分野で幅広く活動している。NHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当している。主な著書に、「木がずらり」(ブロンズ新社)「かおノート」(コクヨ)「やさいさん」(学研)「パンダ銭湯」(絵本館)など。絵本「しろくまのパンツ」で第18回日本絵本賞読者賞、Prix Du Livre Jeunesse Marseille 2014 (マルセイユ 子どもの本大賞 2014 )グランプリ、「パンダ銭湯」で第3回街の本屋が選んだ絵本大賞グランプリを受賞。http://www.tupera-tupera.com/

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