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芸能人マネージャー志望や俳優・タレント志望の若い人が「知っておきたい」芸能界事情

貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]

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いわゆる「芸能人」をマネージメントする芸能プロダクションには、その設立経緯から、いくつかの系譜があります。音楽系事務所、劇団系事務所、モデル系事務所などです。

それぞれ日本音楽事業者協会(音事協)、日本芸能マネージメント事業者協会(マネ協)、日本モデルエージェンシー協会(モデル協)などの業界団体を形成し、大手から中小に至るまで存在する芸能事務所に所属するタレントの著作権や肖像権の保護と確立、タレント雇用環境の改善などを行っています。

音楽系事務所のルーツは、ジャズミュージシャンであった渡辺晋(1927〜1987)が1959年に設立した「(株)渡辺プロダクション」です。個人商店や徒弟制度の色彩が強かった芸能プロを近代化し、レコードやテレビ番組や映画を自社制作し収入を得るという、現代の芸能ビジネススタイルを作りました。また音事協の二代目会長として最大規模の業界団体を育てました。

「渡辺プロなしでは番組が制作できない」と言われるほどのタレントを輩出した一方で、俳優・歌手・コメディアンに分業され、それぞれの領域を侵さないという当時の芸能界の慣習を改め、マルチタレント時代の先駆けとなった「新春かくし芸大会」を制作し、年末の「紅白歌合戦」と並ぶ人気番組に仕立て上げました。

当時は映画俳優はテレビドラマには出演しないという映画会社の「五社協定」(松竹・東宝・大映・新東宝・東映の映画大手5社による専属監督・俳優らに関する協定)があり、テレビは新劇の俳優を起用していました。田宮二郎は映画会社とのトラブルから干され、「クイズタイムショック」(1969〜1986)の初代司会者としてテレビに出演し、「白い影」(1973・TBS)などのテレビドラマで人気を博しました。

また、売れている歌手は、ギャラが安く拘束の長いテレビドラマに出演することはありませんでした。石井ふく子プロデューサーが当時人気絶頂だった水前寺清子を口説き落とし、テレビドラマ初出演の「ありがとう」(1970〜1975・TBS)で視聴率56%を記録してから、歌番組以外に歌手がテレビドラマにも出演するようになりました。テレビCMのタレント起用が流行になったことも後押ししました。

田宮二郎や水前寺清子のテレビドラマ出演は1970年からの出来事です。その後、ホリプロ所属の山口百恵が歌手としてヒット曲を飛ばし、テレビドラマでは「赤いシリーズ」、映画では「文芸作品シリーズ」で大活躍をし、マルチタレントという芸能ビジネスモデルが確立しました。音楽系事務所に人気俳優も多いのは、このような経緯があるからです。

劇団系事務所は、劇団を中心に舞台芝居を制作・興行し、演技力のある個性派俳優を輩出しています。橋爪功が所属している「円企画」や西田敏行が所属していた「青年座」など長い歴史を持つ事務所と、演出家・脚本家・俳優の松尾スズキや宮藤官九郎などの劇団員が立ち上げた「大人計画」のような、比較的新しい事務所があります。

一例として、脚本・演出の三谷幸喜が主宰していた人気劇団「東京サンシャインボーイズ」は解散し、劇団俳優は様々な事務所に分散しました。劇団の場合、多様な活動をするために独立したり解散したりするのはつきものです。劇団出身の俳優を多くマネージメントする俳優系といわれる事務所もあります。映像と舞台が中心ですが、バラエティにも進出しています。

モデル系事務所はファション関係の雑誌・グラビア・カタログやイベント、広告CMやプロモーションなど幅広くタレントを供給します。モデルとして人気が出てくると、本人の志向や適正でタレントや俳優としてテレビを中心にマルチな活動をすることになります。米倉涼子が所属する「オスカープロモーション」などが大手です。

そのほか元アナウンサーなども所属し、テレビの情報番組や天気予報、イベントなどを活躍の場とするキャスター系と呼ばれる事務所もあります。

業界団体としては、事務所単位ではなく個人の資格で参加する日本俳優連合(日俳連)、日本バレエ協会、落語協会などがあり、それらの団体を束ねた形で日本芸能実演家団体協議会(芸団協)があります。

芸能プロダクションに所属する俳優・タレントは、現在は活動ジャンルがクロスオーバーしているので、音楽系とか劇団系とかモデル系に分けても意味がないかもしれませんが、その設立経緯によってマネージメントの考えが明確に違います。テレビや映画やCMなどの芸能実務関係者は、俳優やタレントがどの系譜の事務所に所属しているかによって、本人の活動の方向性を窺い知ることができます。

マネージャー志望や俳優・タレント志望の若い人にとっては、知っておきたい芸能界事情です。(敬称略)

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