- 2014年11月19日 12:06
井戸まさえさんに聞いた (その1)「まさか、私の子が無戸籍に・・・」母の闘いはこうして始まった
3/3全国から寄せられた声
井戸
認知裁判を終えて、インターネットのホームページを立ち上げ、今回の判決に関する情報発信を始めました。当時(2003年頃)はまだ、家庭レベルでは、現在のように誰でもインターネットを使うという時代ではありませんでした。
それにもかかわらず、全国から大変な反響があり、たくさんの声が私のところに届いたのです。まあ、来るわ、来るわ、こんなにも、というくらい。中には、DVといった、私よりはるかに深刻な悩みとともに、無戸籍のお子さんを抱えている母親もおり、この問題に真剣に取り組まなければならないと決心しました。
南部 無戸籍者を救うための、活動の始まりですね。
井戸 その頃から、メディアの関心も高くなっていたように思います。2006年になり、子どもは4歳になっていましたが、毎日新聞が取材に来てくれました。時間もたっているし、すでに戸籍はあったので、それほど話題性があるわけではなかったのですが、その年の大晦日、社会面にびっくりするくらいの大きな記事を書いてくださいました。この記事がその後、いろいろな方の目に留まることになりました。
南部 新聞の反響は大きかったようですね。
井戸
はい。切迫早産のために、離婚後300日ルールにかかってしまうことになって、どうしようかと悩んでいた父親が、病院の待合室で、私の記事を読んでくださいました。認知調停をやりたいということで、私に連絡がありました。
年が明けて(2007年)、国会に要望をしようということになり、同じ悩みを持つみんなが初めて集まりました。無戸籍の子を持つ不安を共有し、妙な一体感を覚えつつ、民法の規定がおかしいのだから、これを何とか変えなければいけないという原動力となったのです。
南部 認知調停によって、前夫が関わらずに済むようになる意義は大きいと思います。
井戸
親子関係不存在確認の調停では、裁判所から突然呼び出しが来て、それが数回続きます。そういう物理的な負担は、前夫に対してもかかります。
例えば実際にあったケースですが、自分とは子どもをつくりたくないと言っていた妻が、その後離婚し、次の夫との間で子どもを産み、「それが300日ルールにかかるから調停に協力しろ」と言われるのは、プライドが傷つくというか、精神的な負担が大きいという、前夫の立場からの話も聞きました。
バッシングや不合理と向き合って
南部 周囲からの反応はどうだったのでしょうか。
井戸
以前は、すごくバッシングも受けました。「何で離婚から300日くらい我慢できないのか」「貞操に欠ける」とか、いろいろ言われました。
しかし、貞操云々だったら、男性は、婚姻している期間であっても、婚外で子どもを持つことが法的に保障されているわけです。いくらでも認知できますから。また、未成年の子であれば、母子の了承なく、勝手に父親が認知して届けることだって出来てしまいます。
南部 同じ772条でも、200日ルールについては扱いが違っているようですが。
井戸
婚姻の成立の日から、200日を経過した後に産まれれば、現夫の子となります。でも、いわゆる「出来ちゃった婚」「授かり婚」というのは、本来なら婚姻中の懐胎と推定されないはずですよね、妊娠に気づいてから結婚するわけだから。つまり、200日ルールに外れるので、本来なら現夫は認知の手続きをしなければならなくなります。ところが、実務上は問題視されていないわけです。
772条は、男女差別という問題も含んでいますが、同じ女性の中でも「差別」があるんです。これは、合理的といえるのでしょうか。
南部 運用の問題も含めて、すべては子どもに降りかかってしまいます。
井戸
子は、親がどんな状況でも、法律婚であろうが事実婚であろうが、平等に戸籍に登録される権利があります。日本も批准している、国連子どもの権利条約でも、明確に規定しています(*2)。
出生届でも、真実の父ではない前夫、つまり、調停・裁判で事後に父ではないことが証明されるような者をいったん父としなければならないのは、子どもが将来成人し、戸籍をみた時、大変な苦痛を受けるのではないでしょうか。政府は、子の福祉や家庭の平和のために772条があると言い続けていますが、実際はまったく違います。
(*2)日本では1994年5月に発効した。
第7条 児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。
2 (略)
(聞き手・構成 南部義典)
(その2に続きます)



