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シリアの穏健派反乱軍への支援が失敗した理由 - 岡崎研究所

ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、10月2日付同紙論説で、シリアの穏健派反乱軍への支援の失敗は、思惑の異なる支援国が、気ままに諜報機関をシリアで活動させたことが大きな原因であった、と述べています。

 すなわち、2011年のアサド大統領への反乱開始当初から、シリアは、地域の主要国を巻き込んだ代理戦争の場であった。トルコ、サウジ、カタールは、いずれもアサド体制を倒したかったが、互いに地域のライバルでもあった。3国は、それぞれ、スンニ派反乱軍に資金と武器を供給したが、最終的には、それらは過激派の手に渡った。

 2013年には、米、サウジ、ヨルダンは、CIAが支援するヨルダンのキャンプで穏健派反乱軍に訓練と武器を提供しようとしたが、シリアに散在する1000近い部隊を統一できず、混乱を生ぜしめ、自由シリア軍の評判を落とすことになった。

 シリアの混沌とした状況を悪化させたのは、シリアで諜報部隊を気ままに行動させた外国である。シリアは、どのようにして、対立する各国の諜報部隊の「コックピット」になったのだろうか。

 シリアの反乱軍に武器と訓練を提供する最初の取り組みは、2年以上前にイスタンブールに設置された、「軍事作戦センター」である。カタール人の工作員が指導的役割を果たし、トルコとサウジの諜報部の高官たちが共に働いた。

 トルコ人の諜報員とカタール人の諜報員は、より攻撃的なイスラム主義の兵士を支援し始め、穏健なイスラム主義の部隊に送られた武器と資金が、Jabhat al-NusraやIS(イスラム国)のようなテロリストグループの手に渡るのを黙認した。こうしたグループは強大化し、自由シリア軍は日に日に弱体化した。

 サウジの努力は、2013年の終わりごろまで、当時のサウジの諜報の長であったBandar王子によって続けられた。Bandarは熱心だったが、混乱を鎮めることができなかったので、今年2月に、サウジはBandarを交代させ、Mohammed bin Nayef 内相にシリアへの対処の監督を任せた。混乱は小さくなったが、Jabhat al-Nusra とISをチェックする以上の効果は上がらなかった。

 北部戦線での主導権を握るべく、トルコは、アンカラに“MOM”として知られる作戦センターを設置した。MOMは反乱軍の行動を調整しようとしてはいるが、命令系統の構造は弱い。

 自由シリア軍内の無秩序は、資金提供してきた外部の勢力の混乱を反映している。彼らが真に協力し、単一の反乱軍に資金と武器を集中させるまでは、シリアの混乱は続くであろう、と述べています。

(出典:David Ignatius ‘Foreign nations’ proxy war in Syria creates chaos’(WP, Oct.2,2014))
http://www.washingtonpost.com/opinions/david-ignatius-foreign-nations-proxy-war-creates-syrian-chaos/2014/10/02/061fb50c-4a7a-11e4-a046-120a8a855cca_story.html

* * *

 イグネイシャスは、インテリジェンス関係者の動きを良く把握しています。この記事も、現地でアラブ人諜報員などに取材して、得られた話に基づいて書かれたものであり、彼の卓越した取材能力の産物と言ってよいでしょう。

 自由シリア軍が内部分裂し、それを支援する米国、トルコ、サウジ、ヨルダン、カタールが、それぞれ勝手に支援すべきグループを決めて支援したことが混乱に拍車をかけた、という指摘は、確かにその通りでしょう。実際、多くの人が、カタールは、アサドを倒すため、過激派への支援も辞さなかった、と言っています。

 「ISを弱体化させ殲滅する」ためのイラク・シリア空爆には、米国の指導下、アラブ諸国としてはサウジ、カタール、ヨルダン、UAEなどが「有志連合」を組んでいますが、この有志連合がまとまって、反乱軍支援の調整をするのが良いように思います。単一の反乱軍への支援に合意出来ればベストですが、その合意ができずとも、調整ができるだけでも価値があるでしょう。

 他方、穏健派シリア反乱軍の育成失敗については、各国の情報機関のばらばらな支援が主たる原因かと言うと、一因ではありますが、主たる原因ではないのではないかと思います。

 穏健派反乱軍の統制がとれない背景には、米国のオバマ大統領が反乱軍支援に熱心ではなく、各国の支援を調整する指導力を発揮しなかったこと、ちょうどフランス革命でジャコバン派が猛威を振るったように、革命状況では穏健派より狂信的な勢力が強くなりがちであること、さらに、穏健派自身に派閥抗争など多くの問題があったことがあります。

 シリアからの難民は、今や、全国民の3分の1以上になっています。この一部を訓練し、自由シリア軍に組み入れ、武器供与もすれば、自由シリア軍をある程度大きく強くすることは、不可能ではないようにも思われます。

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