- 2014年11月10日 05:00
「今日の世界が直面する脅威は西側が自ら作り出した」 ウクライナ危機後のプーチン演説 プーチン大統領が描く21世紀の世界(前篇) - 小泉悠
1/3ロシア政府は2004年以降、ヴァルダイ会議(ヴァルダイ・インターナショナル・ディスカッション・クラブ)という有識者会議を組織している。ヴァルダイというのは第1回会議が開かれた古都ノヴゴロドのヴァルダイ湖にちなんだ名だ。
ヴァルダイ会議の立ち上げに関して中心となったのは、国営ノーヴォスチ通信や外務省付属国際関係大学(MGIMO)、対外政策NGOの外交防衛政策会議(SVOP)などで、現在では運営のために専門の財団が設置されている。
ヴァルダイ会議は普段から世界各国の著名なロシア専門家による会議や論文の発表といった活動を行っているほか、その総決算とも呼ぶべき大規模な国際会議を毎年開催している。これは普段からヴァルダイ会議と関係を持っているロシア専門家を一同に集めたもので、我が国の場合は、袴田茂樹・青山学院大学教授、下斗米伸夫・法政大学教授、畔蒜泰助・東京財団研究員などがこれまでに常連メンバーとして参加してきた。
会議には毎年テーマが設定される。ソチで開催された今年のヴァルダイ会議のテーマは「世界秩序:新たなルールか、ルールなきゲームか?」というもので、25カ国から108人の専門家が集まって議論が行われた。
世界秩序の転換と厳しい対米姿勢
興味深かったのは、この会議の初日にプーチン大統領が行った演説である。ウクライナ危機後の世界情勢を、プーチン大統領が包括的に語った初めての演説であったためだ。演説は1時間にわたる長大なものであるが、以下、2回に分けてこの演説の注目点をご紹介していきたい。なお、演説の全文はロシア大統領府のサイト(http://kremlin.ru/news/46860)に掲載されている(ロシア語)。
第1に注目されるのは、世界秩序の大規模な転換が発生しつつあるという視点がはっきりと打ち出されていることである。しかも、プーチン大統領によれば、それは大きな波乱を呼ぶものである。たとえば以下の発言を見てみよう。
現代の状況を分析するにあたって、歴史の教訓を忘れてはなりません。まず何より、世界秩序の変化(そして私たちが今日、目にしているのはこのようなスケールのものです)は、必ずしも世界大戦を引き起こした訳ではないにせよ、常に戦争を伴ってきたのであり、やがてそれは烈度の高い地域戦争の連鎖へと繋がったのです。第二に、グローバル政治は、経済的なリーダーシップ、戦争と平和の問題、そして人権を含む人道的な次元の全てに関わるようになっています。
現代の世界は矛盾に満ちています。私たちは率直に、互いに問わねばなりません。我々は信頼に足るセイフティ・ネットを持っているか? と。残念ながら、現在のグローバルな安全保障システム及び地域的な安全保障システムが我々を激動から守ってくれるという保障も確実性も存在してはいません。このシステムは、深刻な弱体化、分裂、そして歪曲に晒されているのです。国際的及び地域的な政治、経済、文化に関する協力機構もまた、困難な時代を迎えつつあります。
そうです。我々が世界秩序を維持するために用いているメカニズムは、第二次世界大戦の直後を含む、かなり昔に創設されたものです。強調しておきたいのは、当時創設されたこのシステムの信頼性は、力の均衡と戦勝国の権利だけに依拠していたわけではないということです。このシステムの創設者たちは互いを尊重し、他者を圧迫しようとはせず、合意に達するよう努めたのです。
重要なことは、数々の欠陥はあるにせよ、このシステムを発展させ、少なくとも現在の世界の諸問題を制御し、国家間で自然に発生する競合の烈度を抑制できるようにしておく必要があるということです。
過去数十年、しばしば努力と困難を伴って我々が築き上げたチェック・アンド・バランスのメカニズムは、それに代わるものをつくることなく損なわれてはならないと確信します。さもなくば、我々は暴力以外に拠って立つものがなくなってしまうでしょう。
我々が必要としているのは、それを合理的に再建し、国際関係システムの現実に適合させることです。
以上の発言に見られるように、プーチン大統領は第二次世界大戦後の秩序が今や危機に瀕しており、その一方、まだ新しい秩序が形勢されていないと指摘する。
そして、このような世界秩序の転換の中で、「冷戦の勝者」を自認する米国が冷戦後の新たな秩序作りに真剣に取り組まず、超大国としての地位を誤って用いてきたことが現在の世界の矛盾を呼んでいるとプーチン大統領は指弾する。
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