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関東大震災における朝鮮人虐殺――なぜ流言は広まり、虐殺に繋がっていったのか - 加藤直樹×山田昭次×荻上チキ

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91年前に起こった関東大震災。そこでは、「朝鮮人が武器を持って暴動を起こしている」、「井戸に毒を入れている」などといった流言が広まり、日本人によって多くの朝鮮人が命を奪われる事態になった。では、なぜそのような流言が広がり、朝鮮人の虐殺に繋がっていったのだろうか。ヘイトスピーチが問題となる今、関東大震災について考えることで、私たちは歴史から何を学ぶべきかを追求していく(TBSラジオ 荻上チキSession-22 「加藤直樹×山田昭次『関東大震災』もうひとつの記録」より抄録)。

なぜ、関東大震災への関心を持ったか

荻上 今夜のゲストをご紹介します。まずは今年3月に、関東大震災時の朝鮮人虐殺の証言や記録をまとめた『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』を出版されました、フリーライターの加藤直樹さんです。よろしくお願いします。

加藤 よろしくお願いします。

荻上 続きまして、歴史家で立教大学名誉教授の山田昭次さんです。山田さんは著書に『関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後―虐殺の国家責任と民衆責任-』などがあり、近代日本の、アジア侵略に関する問題の追及を続けています。

山田 よろしくお願いします。

荻上 まずは、加藤さんにお聞きできればと思います。この『九月、東京の路上で』は僕も拝読し、新聞書評も書かせていただきました。なぜこのタイミングで、こうした内容の本を執筆することになったんでしょうか。

加藤 関東大震災に焦点を当てて本を書かなければいけないと思ったのは、2000年の「三国人発言」がきっかけですね。

当時東京都知事だった石原慎太郎が、東京で大きな地震が起きた際に、「三国人」が大きな暴動を起こす可能性があると。その時は自衛隊が治安出動してほしいということを言いました。

当時これは非常に問題になって、石原都知事がかなり批判されたんですけれど、どうしてもその焦点が「三国人」(終戦直後に使われていた朝鮮人、台湾人を指す差別語)という差別表現を使ったという言葉の問題だけに終わってしまっていたんですね。でも、そもそも地震の時に外国人が暴動を起こすという、その発想自体が「なんかおかしいな」と思ったんです。

そこで、いろいろ調べているうちに、そんなことは過去に起きたことがないし、むしろ災害時に外国人やマイノリティを攻撃する流言が広まり、そうした人々が暴力を振るわれたり、殺されたりするという事態が、世界的に繰り返し起きてきたことが分かったんですね。

そういうことが分かってきた後で、もう一度関東大震災について調べた時に、本当にこれは恐ろしいことだと思いました。関東大震災時に起きたのは単なるパニックではなくて、行政が流言を広めてしまったために事態がさらに悪化したという出来事だったわけです。災害時の流言に対して行政が適切に対応するのか、あおってしまうのか、そういう問題意識をもって振り返ると、関東大震災は単なる昔の話じゃないと思ったわけです。

荻上 なるほど。石原さんの発言は、災害時における流言のステレオタイプでもあると。「三国人」発言について、僕は当時大学一年生なので分からなかったんですけど、ちょっと歳を重ねて統計を見ると、彼が言ったような外国人犯罪が増えているという認識自体も、実際は問題がありましたね。

でも、そうした認識が「ホントそうだよね」という感じに広まってしまうと、結果として誰かが一線を越えたとしても、それを止めることが難しくなってしまう。ですので、関東大震災を現在の教訓として、改めて今日は色々考えていきたいと思います。

そして、山田さんにお聞きしたいのですが、山田さんはこの問題を長らく研究されておりますが、どうして関東大震災、時の朝鮮人虐殺の問題を研究しようと最初は思われたんですか。

山田 うーん、僕は日韓条約反対闘争の頃から、朝鮮問題に関わっていますからね。それで、朝鮮人学校に対する弾圧問題なんかの場にもいてね。そうした経緯で、いろんな朝鮮人の苦しみを聞いて、朝鮮の方たちが抱える問題が、他人事とは思えなかったんです。

荻上 テーマとしても、自分の中にあった。

山田 ええ、付き合って行く中でね。そうした中で、日本の左翼も朝鮮人に理解がないってこともよくわかった。私の動機には、左翼に対する憤慨もあったんですよ。

本当に虐殺はあったのか

荻上 今日はまず、この質問を読みたいと思います。

「今日のテーマですが、本当に虐殺はあったんでしょうか。このようなテーマ設定をすることこそが、無実の日本人を貶めることに繋がると考えないのですか」

というメールをいただきました。昨今、朝鮮人虐殺はそもそもなかったのだ、という主張も出ていますので、その妥当性は番組内で少し取り上げたいと思いますが、こうした意見は山田さん、いかがですか。

山田 (朝鮮人虐殺は)ありました。あったというより、他ありません。実に残酷な殺し方をしたんですよね。特に女性に対しては、陰部をわざと刺すとか、妊婦だと腹を裂いて、中の胎児を引き出すとかね。

男性に対しても、竹やりで殺したり、火の燃えている中に投げ込んだり、そういうことをやっているんですけど、女性に対する殺し方は更に残酷でした。民族差別と女性に対する性的な差別が、二重になっていたと思います。

加藤 僕からもそのご質問に対しては、簡単にお答えできると思います。たぶんその方は忘れているんでしょうけれども、昔から、歴史の教科書で朝鮮人虐殺に触れていないものはほとんどないんですよね。中学か高校で目にしているはずなのです。今でも、中学の歴史教科書で朝鮮人が虐殺されたことに言及していないのは、一番右寄りの自由社の教科書だけです。

あるいは、内閣府中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」で出した「1923関東大震災報告書第2編」の中でも、「混乱の拡大」「殺傷事件の発生」というタイトルで、虐殺をメインに取り上げて、それがどのように展開したかということを論じているんです。

荻上 2009年だから、自民党政権の時ですよね。

加藤 そうですね。この報告書では、虐殺によって殺された人々(朝鮮人と、誤殺された日本人、中国人)の数は、震災全体の死者数の1%から数%に上るだろうとまとめています。当時震災で死んだ人は10万5000人ですから、1%はほぼ1000人です。そういう規模の虐殺があったことを、内閣中央防災会議の報告書が明らかにしているわけです。つまりこれは、歴史学の常識なのであって、まともな歴史学者の範疇に入る人で、「朝鮮人虐殺はなかった」と言っている人は一人もいないのです。

また、震災後の2年後に出た警視庁の報告でも、「朝鮮人が暴動を起こした」といった話が流言であって事実ではなかったということを前提に書かれています。そうした流言がどのように発展し、どのように広がっていったのかということも分析しています。多くの朝鮮人が殺傷されたことについても書いています。

当時のメディアでもそれは同様です。例えば、戦前を代表する保守派のジャーナリストである徳富蘇峰も、「かかる流言飛語―即ち朝鮮人大陰謀―の社会の人心をかく乱したる結果の激甚なるを見れば、残念ながら我が政治の公明正大と云ふ点に於て、未だ不完全であるを立証したるものとして、また赤面せざらんとするも能はず」と書いています。

要するに朝鮮人虐殺が実際にあったこと、朝鮮人暴動などデマだったことは当時から常識だった。今になって、暴動はデマじゃなくて本当にあった、虐殺はなかったというようなことを言い出すのは、90年経って当時を知る人がもはやこの世にいなくなったのと、それをいいことに歴史を改ざんしようとする人々が増えたということです。

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