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再び格差拡大が進行する

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日銀の量的金融緩和の拡大は何をもたらすか

10月31日に、前夜に米国の株価が221ドル上昇したのを受け、政府はGPIFで年金の株式運用を倍にするニュースを流し、日銀は追加的金融緩和策を打ちました。政治とカネ、経済指標の落ち込みで安倍政権が苦しい状況で打った株価つり上げ策は、「効果」を上げました。

10月31日の株価は755円上昇。為替レートも112円につける円安になりました。さらに11月4日も、株価は大幅な株価上昇で、株価は一時1万7千円を超えました。円も114円まで下落しました。

そもそもこうした株価をつり上げ策は、年金を使い国民の財産をリスクにさらし、日銀は独立性を失って出口を失うという問題があります。加えて、こうした株価引き上げ策で本格的に経済がどれほど好転するだろうかという問題もあります。

いくつかの現象に着目する必要があります。

●ミニバブルのように株価だけ上昇しても、給与が上がらなければ、消費はなかなか増えません。この間、実質賃金は低下しており、実際、9月も家計消費は5.6%も減少しています。円安は輸入物価を押し上げますから、家計消費にとってマイナス要因です。

●他方で、円安が進行しても、日本企業の国際競争力低下、工場のアジア移転に伴う逆輸入の増加、原材料の輸入額増加で貿易赤字は改善しません。潤うのは一部輸出企業だけで、むしろ原材料の値上げで中小企業は一層苦しくなります。

●より問題なのは、アベノミクスの政策を見ると、格差が一層拡大しかねない点にあります。まず第1の矢である、金融緩和よる株高や大都市中心部の不動産価格の上昇で、大手企業や富裕層が潤います。しかし、その一方で、第3の矢である雇用・医療・介護などの「岩盤規制」を打ち破るという「成長」戦略を実行すれば、格差と貧困を拡大させて、日本の社会は底割れを起こす危険性があります。

小泉政権時代がそうだったように、金融緩和政策と「構造改革」の組み合わせは、格差と貧困を拡大するのです。

雇用流動化政策は何をもたらすか

今国会に「労働者派遣法改正案」が提出されています。派遣労働者は部署さえ変えれば3年の派遣期間がなくなり、ずっと派遣にとどまるために「生涯派遣法案」と批判され、派遣社員は一生、派遣から抜け出せなくなる可能性が高くなります(もっとも50代60代になって派遣では働けませんが)。

この法律の恐ろしさは、日本の労働市場全体をブラック化させてしまうことです。

いま20代、30代の労働者の3割~4割が〝非正規社員〟と失業者です。彼らの中には不本意ながら非正規になっている人も多く、正社員になりたがっています。ブラック企業の初任給は、表向き年収400万円前後もあり、年収200万円以下の派遣社員にとっては、すぐにでも飛びつきたくなる金額です。

しかし、この年収には〝固定残業代〟という形で残業代込みになっているケースが多いのです。そのため、どんなに残業しようと給料は増えません。しかもごく少数しか「選抜」されて上にいけないようになっており、給料のカーブもずっと寝たままです。いわゆる「使い捨て」を前提に給与体系が組み立てられているのです。とくに飲食チェーン、小売り量販店、IT、建設、運輸、レジャーなどのサービス産業において多くのブラック企業が存在し、時には過労死などを引き起こしています。これらのブラック企業では早期の離職率が異常に高くなっています。肉体的にも精神的も、もたないからです。

いくつかの潜入ルポルタージュなどを見たり、学生や働いた経験のある者に聞くと、ブラック企業では、夜10時にタイムカードを押し、その後、深夜まで働いてもカウントされなかったり、ある有名な外食チェーンでは、若い店長は、朝5時に店を閉めた後、後片づけとレジ締めをやり、朝9時には昼食の食材が運び込まれるので、店内で仮眠をとって働く状態になっています。また、ある運送会社では、一日では絶対に運びきれない荷物をノルマにされるため、荷物をもって走り、早朝から深夜まで配達を強いられています。

ブラック企業にとっては、どんなに社員を酷使しようが、次々と社員が辞めていこうが、正社員になりたがっている派遣社員が数多くいるので、補充はいくらでも利きます。こうして派遣の拡大は、働き方まで壊していくのです。

にもかかわらず、政府は「労働者派遣法改正案」を成立させて、さらに派遣を固定化させようとしています。しかも、残業代をゼロにする「ホワイトカラーエグゼンプション」まで導入しようとしています。当面、年収1000万円を超える社員を対象にしますが、第1次安倍内閣で打ち出されていた年収400万円にいずれ引き下げる可能性が高いでしょう。そうなったら、いまブラック企業が行っている過酷な長時間労働はすべて合法化されてしまい、こうした壊れた働き方がさらに多くの企業にまで波及してしまう恐れがあります。

社会保障の削減と負担増:消費税増税はどこへ消えた

他方、低所得者に重くかかる消費税増税の実施は、「税と社会保障の一体改革」だったはずなのに、税収アップ分は公共事業と法人税減税に消えてしまい、社会保障の拡充にほとんど結びついていません。

むしろ、社会保障のサービス削減と負担増が続いています。いくつかあげてみましょう。

●すでに成立した「地域医療・介護総合確保推進法」では、介護施設に入居できるのは要介護3以上の高齢者に限られるようになります。しかも認定が厳しくなっています。また介護報酬の引き下げが検討されていますが、これではただでさえ低賃金の介護従事者はますます減ってしまうでしょう。そのうえ、要支援の訪問介護などは市町村に丸投げしてしまいます。いずれ財政基盤の弱い弱小市町村は、これらの介護サービスを維持できなくなる危険性があります。

●すでに介護報酬に組み込まれている入居費について、低所得者には配慮するとしていますが、1万5千円ほどを新たに利用者から徴収するように検討されています。

●政府は、75歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療保険」の保険料の「特例措置」を段階的に廃止する方針を打ち出しています。9割減免されている、年金収入が少ない高齢者にとっては、保険料の減免廃止は生活に大きな打撃となります。

●生活保護の住宅扶助の削減も検討されています。

●さらに従来、年金の伸びを物価の伸びより低く抑える「マクロ経済スライド」は物価が下落するデフレでは適用されませんでしたが、デフレでも給付を削る方向を打ち出しています。

いま高齢者は格差が拡大し、二極化しています。これらの負担増が実施されれば、わずかな年金収入に頼っている高齢者の生活は成り立ちません。すでに問題化している「老後破産」がますます現実味を帯びてきます。

これまで述べてきたように、一方で、日銀の金融緩和は、株価と大都市中心部の不動産価格を上昇させます。他方で、円安に伴う輸入物価の上昇と消費税増税が家計を直撃し、雇用流動化と実質賃金の低下は家計消費を縮小させます。こうして格差が再び拡大していきます。

アベノミクスという新しい衣をまとっていますが、格差を拡大し国際競争力を低下させた小泉「構造改革」と同じパターンになっていることがわかります。しかも、日銀の金融緩和の規模は「異次元」なので、財政赤字=国債を買い続ける日銀は出口を失っていきます。

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