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画一的なリクルートスーツをくだらなく思っているのは誰か

 大学3年生は、そろそろ就活を睨んだ様々な活動に躍起になっている時期だと思う。東洋経済は就活生向けの情報として「リクルートスーツは、「黒系」を選べ!」という記事を掲載した。(*1)

 その記事は服装に関してはできるだけリスクを避けるために、特になにも思われない、目立たない黒系のスーツで行くべきであり、ネクタイなどはコーポレートカラーに合わせるなど、ちょっとした工夫をするといいという内容だ。

 ところが、この記事に脳科学者の茂木健一郎氏が「こんな記事、意味ある? くだらねぇ」という旨のツイートを行い、それを見た劇作家の鴻上尚史氏も「実に同感。この国の息苦しさを後押ししてどうする」と、茂木氏のツイートに答えている。

 就活生のリクルートスーツが同じであることの異様さについては、2010年に日本経済新聞が夕刊で、JALの新入社員の服装を比較している。20年前は個性的な格好をしていたのに、現在の新入社員はスーツも髪型も靴もそっくりだということで、ネット上でも話題になっていた。(*4)

 これをみて「気持ち悪い」と思うのも当然だし「これでいいのか?」と疑問に思うのも当然だと僕は思う。しかし、では仮に僕が就活生から着ていくものの相談を受けたとしたら、どう答えるか。それはもちろん「黒か紺系のスーツを着ていけ」である。

 だって、就活生の目的は特に色とりどりのリクルートスーツを着ることではなく、内定を勝ち取ることなのだから、スーツの色なんかにこだわったって意味は無い。ましてやスーツの色で目立ってリスクを負うくらいなら、黙って周りに合わせておけというのが当然のアドバイスだろう。

 ここから本題。
 茂木氏らの怒りは、果たしてどこからくるのだろうか。僕は彼らの怒りに疑念を抱いている。

 それはやはり「ひとりひとりの個性ある人間が、こうして画一的に扱われていることに腹を立てている」のだろう。彼らの年代は中学高校などで「脱制服」や「私服化」などが叫ばれた時期に思春期を送っており、服装は個性であるのだから、服装の多様さを認めるということが、イコール個性ある人格を認めることだという考え方なのだろう。

 ところが現在、就活をしている学生たちは、むしろ画一的な制服に慣れ親しみ、それを上手に利用してきた世代だ。過去に私服化した学校が、生徒や親からの要望で制服を復活させたという学校の話も耳にする。

 制服も当時のような古臭い学ランやセーラー服ではなく、男女ともおしゃれなブレザーが多くなった。また、私服でいるよりも、制服を着て生徒であることをアピールするほうが、何かと有利だった世代でもある。特に「女子高生」という記号はアイコン化され、消費社会にとって極めて「消費されやすい存在=社会に価値を認められる存在」として、女子高生たちは制服であることの利益を一身に受けてきた。

 そうした彼らだからこそ、同じ黒系のリクルートスーツであってもそのことに疑問を抱かない。それは茂木氏らが主張する「くだらなさ」や「息苦しさ」というものは、茂木氏らの世代だけに存在し、就活生にとってはまったく存在していないという可能性が極めて高い。

 そう考えると、僕の茂木氏らへの疑念の正体がハッキリする。
 同じ黒系のスーツを就活生が着る光景に「くだらなさ」「息苦しさ」を感じているのは、茂木氏や鴻上氏自身ではないかということ。そしてその怒りは結局のところ、就活に挑む就活生を、自らの自尊心を満足させるために代理戦争のコマとして利用しているだけではないか? という疑念である。

 そしてそれは、新卒学生に個性ではなく画一化した労働力であることを望む企業側と逆ベクトルなだけで、本質的には同じ欲望ではないかと、僕は思うのだ。

 黒いリクルートスーツを着せるにしても、個性的な衣装を着せるにしても、それを望む大人がいて、それに就活生が合わせているだけでは、本質的な意味で「個性的」とはいえない。実際、数十年前に「個性」を望まれて、望まれたままの個性を発揮して就職した世代が、今は人事部長として黒スーツに身を包んだ学生を望んでいるのだろう。

 そしてなにより、就活生は個性のために就職活動をしているのではない。彼らが同じような黒系のスーツに身を包み、就活に挑むのは、就活が「自らの生死を賭けた戦い」だからである。

 比喩のつもりは全くない。
 実際に、大卒というタイミングでの就活に失敗すれば、その後大きなハンデを背負って生きていくことになる。それを彼らは子供の頃から身にしみて理解している。大卒後にぶらぶらしていてもどこかの誰かが拾ってくれるような社会観の我々以前の世代とは全く違う。就活に失敗するということは人生を失敗するのと等しいことだと、本津的な意味において今の世代は理解しているのだ。

 ならば、本当に僕達が怒らなければならないのは、そうした「就活に失敗すれば、人生において大きなハンデを背負う社会である」という、この社会そのものだ。

 役に立たない社会保障や、労働者を食い物にするブラック企業、そして「努力すれば報われる」などという自己責任論を紐帯とした、本当に心底くだらない安直な社会観(*5)といった、本当に人を殺している概念に対してこそ、怒りをぶつけるべきであろう。

 そうした意味でも、たかだか就活生が黒のスーツを着ているなんてことは、心底どうでもいい話である。
 そんなことに怒りを浪費するヒマがあったら、もっと真正面から社会に対する怒りを表明してもらえないだろうか。
 そういう軽々しい偽問題のほうが、メディア受けはいいのかもしれないけれど。

*1:リクルートスーツは、「黒系」を選べ!(東洋経済オンライン)
*2:茂木健一郎(Twitter)
*3:鴻上尚史(Twitter)
*4:【JAL】 25年前と今の入社式が全く違うと話題に! ネットユーザー「日本は個性を失いつつあるのか」(ロケットニュース24)
*5:チャレンジ日本 成長戦略(政府広報オンライン)

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