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三浦まりさんに聞いた (その1)「ジェンダー平等」の実現がなぜ必要なのか?

安倍政権は、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする目標を掲げ、10月17日には女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案(女性活躍法案)を閣議決定させました。しかし果たしてそれだけで本当に「女性が輝く国」になるのでしょうか? 現代日本政治がご専門で、ジェンダーの問題にも長らく取り組んでこられた、三浦まり上智大学法学部教授に、日本の政治社会において「ジェンダー平等」の実現がなぜ必要なのか? そのためには何をすべきなのか、についてお話をお聞きしました。

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三浦まり(みうら・まり) 上智大学法学部教授。専門は比較福祉国家論、現代日本政治、ジェンダーと政治。著書に『壁を超える―政治と行政のジェンダー主流化』(共著、岩波書店)、『ジェンダー・クオータ 世界の女性議員はなぜ増えたのか』(編者、明石書店)ほか。

「男女平等」だけど「男女は違う」!

編集部
 これまで、日本で「女性の社会進出」とか「男女平等を」といったことが語られるときには、主に「男女の能力に違いはないんだから、扱いを平等にすべきだ」という観点からの議論が中心だったと思います。一方、以前にマガジン9に掲載されたコラムでもレポートされていたように、「ジェンダー平等」の先進国である北欧・スウェーデンなどでは、むしろ男女の違いを当然のものとして受け止めた上で、「だからこそ政治の場をはじめとするジェンダーバランス、多様性を確保することが社会にとって重要なんだ」という考え方が主流なんですね。とても新鮮な視点でした。

三浦
 そうですね。例えば複数の男性の中に女性が1人という状況になったときに、いろいろなことに対する発想とか考え方が自分だけ違うと感じた、というような経験は、多くの女性が持っていると思うのです。
 もちろん、同じ女性、男性でもいろいろな人がいるし、個人差はあるのですが、それでも全体的な傾向として、女性のほうが暴力に対して非寛容、あるいは、他者に共感する力が強く、誰かが犯罪行為をしたときには、男性は「その人自身が悪い」と割り切る傾向があるのに対して、女性は貧困とか人間関係とか、社会全体の中に犯罪を位置付けて見る傾向があります。1980年代にキャロル・ギリガンが『もうひとつの声―男女の道徳観のちがいと女性のアイデンティティ』を刊行して以来、発達心理学の領域では男女の異なる道徳観が注目され、政治思想の分野では「ケアの倫理」として、ケアに従事してきた女性たちの経験を基礎にした民主主義理論が構築されようとしています。実証政治学においても、自己肯定感や政治的野心の男女差、関係性・リーダーシップの男女差が研究されています。

編集部
 原発再稼働や憲法改正などの問題についても、男女によってかなり意見は分かれますね。

三浦
 生命を大切にする傾向は女性のほうが強いですね。どの世論調査を見ても、原発再稼働への反対や憲法9条への支持は女性のほうが男性より20ポイント以上高いです。この男女差がどこから来るものなのか――身体構造の違いとか、生物学的なものに起因する部分があるのか、男女それぞれが社会の中でジェンダー・アイデンティティを身につけていく過程で生まれてくるものなのかは常に論争になっています。ただ、重要なのは男女でものの見方が違うのであれば、その多様性が政治に反映されないと、政策決定に歪みが生じてくるということです。

編集部
 衆議院に占める女性議員比率が10%以下という日本社会は、まさにそういう状況ですね。男性と女性の考え方や選択基準がそれだけ異なっているのに、男性が圧倒的多数を占める場でいろいろなことが決められていくとすれば、国民全体の選択とは「ずれ」が出てきて当然ということになります。

三浦
 ただ、注意しなくてはならないのは、「男性と女性は違う」ということが、いわゆる「男らしさ」「女らしさ」を押し付けることにつながる危険性があるということです。男女は本質的に異なるという考え方は本質主義と呼ばれますが、フェミニズムは本質主義とずっと闘ってきたわけですから、男女差を認めることと本質主義は異なることを常に注意する必要があります。

 特に日本にはそうした「男らしさ」「女らしさ」の規範が強固にあるので…男女ともに生き方を自由に選べるという方向ではなく、「女性は家庭を最も重視すべきだ、政治に口出しする必要はない」という、誤った方向に行ってしまう可能性が常につきまといます。そうではなくて、男性と女性には違いがあることを認めつつ、でもいわゆる「男らしさ」「女らしさ」という規範に必ずしも乗らなくてもいい、それに男性のあいだ、女性のあいだでも違いは大きいという認識を、うまく共有していく必要があると思います。そのためには、男性も女性も、あるいは例えば障害があったり外国人だったりしても、法の下では人として平等だということをしっかりと前提にしなければいけないと思います。

 今、「平等」というと「画一的」というイメージを持たれることも多く、小学校の運動会でかけっこに順位をつけないとか変な方向に行ってしまいがちなので、言葉としては「対等」のほうがしっくり来るかもしれません。重要なのは、すべての人を人として対等に扱うという考え方です。どんな人も法的、政治的には平等に扱われるという出発点が共有されないと、男女平等もそれ以外の人権の保護もあり得ないですし、多様性も尊重されません。

リベラル・フェミニズムと
ラディカル・フェミニズム

編集部
 では、その認識を共有した上で、具体的にどう女性の社会参画を広げ、ジェンダー平等を実現していくのか、ということですが…。

三浦
 フェミニズムにおいては従来から、大きく分けるとすると、リベラル・フェミニズムとラディカル・フェミニズムという二つの考え方がありました。
 前者は、これまでの男性中心社会の構造そのものは特に変えないで、そこに女性が「男並み」に入っていけるようにしようという考え方です。女性が男性ほど社会参画できていないのは、女性を排除するいろいろな壁があるからだと捉え、その壁を打ち破る運動へと繋がっていきます。この思想が一番強いのはアメリカですが、これを突き詰めていくと女性も男性と同じように軍隊で活躍できるようにしろという話になります。
 一方、ラディカル・フェミニズムというのは、そもそも今までの男性優位の社会構造や男性目線の基準自体がおかしいと捉え、女性が男性と同じ地位に上りつめるのではなく、男性優位の社会のあり方そのものを変革しようという考え方です。

編集部
 「男性的な傾向」が強い社会――力で問題を解決しようとしがちだったり、効率を重視するあまり弱者が切り捨てられる傾向にあったりする社会そのもののあり方を変えよう、ということですね。

三浦
 日本の女性運動は、かねてから平和運動と密接に連携してきましたし、資本主義に対する抵抗も強いので、ラディカル・フェミニズムの考え方のほうが伝統的に強いんじゃないでしょうか。一方リベラル・フェミニズムのほうは、いわば企業の中で「バリキャリ」を目指すということになりますが、日本の場合は労働環境があまりに過酷なため、弱い動きにとどまっているのだと思います。男性にだって大変な長時間労働が求められるのに、女性が子どもを持っても同じように働こうとすると、その大変さたるや…。
 女性が男性と同じように働けるようにするのなら、ワーク・ライフ・バランスを充実させるとか、男性の働き方のほうも変えていかないと難しい。そう考えると、雇用に関しては、日本のリベラル・フェミニズムはラディカル・フェミニズムと対立するというよりも、かなり近い主張になっていく気がします。

編集部
 社会全体が、今までのような体力勝負で心身ともに疲弊してしまうような競争社会ではやっていけなくなっていますからね。

三浦
 男性も、そこに気づきつつあるとは思いますよ。今の厳しい社会状況の中で押しつけられる男性規範には乗っかりたくないという男性もたくさんいるし、乗らざるを得なくなって乗っかった人も、非常に窮屈な生きづらさを抱えている。男性の自殺率が非常に高いことからも分かるように、ジェンダー規範が持っている暴力性を、男性自身が徐々に認識し始めているんじゃないでしょうか。「男性学」に興味を持つ男子学生も増えてきているし…。

編集部
 男性にとっても、今の社会のあり方は決して楽なものではない、と。そして、そのことに気づき始めている男性も多いのかもしれません。

三浦
 それなのに、政治の場では相変わらず行け行けどんどんの、ワーク・ライフ・バランスもサステナビリティ(持続性)もまったく考慮しないような決定ばかりが出てくるというのは、女性議員が少ないことも含めて、政治権力、決定権を本当に一部の特殊な人たちが握っているからだと思います。国民全体で単純多数決を取れば、違う道を選ぶだろうなというようなことでも、政治の場にはまったく反映されない。政治の意思決定の場にいる人たちが望む日本社会のあり方というのが、実は国民のマジョリティが望むそれとずれてしまっているのです。だから有権者のほうも「投票になんか行ってもしょうがない」とあきらめてしまって、投票率が下がる。下がるからますます「ずれ」は大きくなる…。この悪循環をどこかで断ち切らないといけないですね。

(構成・仲藤里美)

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