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『「人は集まった理由で去っていく」のか』

広報誌「経済同友」2014年9月号のコラム「リレートーク」冒頭、「給与が高いからと入ってきた人は、給与が低いからと去っていく。ロイヤリティが低いのでもうかりそうだと集まってきた投資家は、ロイヤリティが高くてもうからないと去っていく。おおむねの傾向として、こう言いきれる」と、ある社長が述べています。

此の方が「日々実感している」という上記傾向は、ある意味何の不思議もなく主義を一貫させた上での当然の帰結だと思いますが、他方「この傾向の真理を追究すると、考えを広げる力と深める力の弱さ、そして目的思考の弱さに行き着く」とするのは、私として少し飛躍し過ぎな感がします。

一たび集まった人が他の状況を全く気にしないのであれば、そこに集った理由で去るということもあるのかもしれませんが、少なくとも私自身は「人は集まった理由で去っていく」という実感を得たことはなく、恐らく去って行った人の事の次第はそう単純なものではないでしょう。

人間ある所に集まった瞬間から、そこに新たな人との繋がりができ、その繋がりも良きものと感じるのであれば、それを維持したいと思う人が多くいるはずでしょうし、その中でまた自分が存する新たな価値・意義というものを、集った当初の理由の外で見出すこともあるでしょう。

拙著『何のために働くのか』(致知出版社)にも書いた私自身のエピソードを御紹介しますと、今から40年程前株式会社三菱銀行に就職するつもりだった私は野村證券株式会社の人事担当者の意気に感ずる姿を見、「士は己を知るもののために死しても可なり」という『史記』にある言葉を思い出し野村證券への入社を最終決断しました。

そして入社して後、熱心に誘ってくれた野村の熱意に応えるべく、私は土日祭日もなく必死で仕事に打ち込んできたのですが、このように誰かの勧誘に影響されての入社であれば、そのリクルーターとの御縁がそこから始まって行くわけで、人が集まる理由自体もそう単純なものではないでしょう。

短期的な話として、例えば言われていたよりも初任給が低かったから退職するという人、あるいはそうした事柄をいい加減に扱うといったような会社を私は聞いたことがありませんが、スパンの問題として、例えば10年間の累積給与が低いとか先々見通しても生涯給与が低い等々の理由で以て、ベターオフしたいと考える人は当然いるのかもしれません。

しかし私の経験上「人はパンのみにて生くる者に非ず」ということは、確かではないかと感じています。給与の高低等を主に退社の判断材料とするというよりも、自分の会社における使命や役割といった類に重きを置いて行く人が多いように思います。

あるいは、「いま自身の仕事が如何にチャレンジングであるか」「将来の自分のポジションは期待できるものか」といった具合に、人が去って行く事情を分析してみるにそこには様々な要素があるわけで、単純に「人は集まった理由で去っていく」と割り切れる話ではないと思います。

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