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ヘイトクライムの根を考える――新しい物語の必要性 - 青山樹人

日本に向けられた国際社会の厳しい目

 この夏、国連から日本政府に対し、相次いで〝勧告〟がなされた。
 7月には、拷問禁止・表現の自由などに関する国連人権規約委員会が、ヘイトスピーチなど人種や国籍差別を助長する街宣活動を禁止し、犯罪者を処罰するよう日本政府に勧告した。

 さらに8月には国連人種差別撤廃委員会が、ヘイトスピーチを行う個人や団体については、捜査をし、場合によっては起訴すべきであり、法整備を急ぐべきだと重ねて勧告した。

 在特会(在日特権を許さない市民の会)など特殊な価値観を持つグループが各地でおこなっている過激な街宣活動やネット上を含むヘイトスピーチに、国際社会は極めて厳しい目を向けている。NHKの調査では、少なくとも全国15の都道府県で、こうしたヘイトスピーチが確認されているという。

 同時にNHKの調査では、「表現の自由」への配慮という理由で、自治体などが対応に及び腰な実態も浮き彫りになった。だが、人種やジェンダーなど本人の意思で選択できない属性に対して、それを理由に排斥や憎悪を煽ること、まして「殺せ」などというあからさまな殺意を公然と示すことについて、国際社会は「暴力による威嚇」と見なしている。

 また、こうした「大量虐殺」まで公言するような団体の人物と、一部閣僚や与党幹部が過去に交友があり、記念写真に収まったり著作に推薦の辞を寄せていたことは、NHKや全国紙がほとんど報じない一方で、世界各国のメディアでは報道されている。

 安倍首相が国連総会に出席している渦中の9月23日も、東京や大阪、兵庫などで、こうした排外主義者たちの街宣活動が繰り広げられた。

 2020年の東京オリンピックを控えていることはもちろん、安倍首相が国連常任理事国入りをめざし、国際社会から信頼と尊敬を受ける国をめざすというのであれば、なによりもこうした恥ずべき異常な日本の状況を早急に改善するべきだ。

「私たちは誰なのか」という問い

 近年、この種の排外主義的言動が広がりを見せている背景のひとつには、インターネットによる影響が指摘されている。ネットを通して特定の民族や国籍属性へのネガティブ情報に接した人々が、「自分の知らなかった〝真実〟に出合った」と受け止め、ネットを介して憎悪感情を共有し合っているのである。

 だが、ネット検索というのは基本的に、その人に都合のいいストーリーを引っ張り出してくれるツールであり、多くの人はそもそも検索に自分のバイアスがかかっていることを自覚しない。

 そして、より本質的な問題は、自分自身への不安や不満の解消、自尊心が、そのような他者への敵意や憎悪感情を求めなければ満たされないという、この国をどんよりと覆っている気分であろう。

 この9月、モスクワ大学出版会から『法華経の智慧』ロシア語版の第1巻が刊行された。池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長のロシア初訪問40周年を記念したモスクワ大学の事業で、ロシア科学アカデミー哲学研究所長グセイノフ博士と、法華経研究の世界的碩学である同アカデミー東洋古文書研究所のヴォロビヨヴァ博士が「まえがき」を寄せている。

 40年前に池田会長が友誼を結んだノーベル賞作家ミハイル・ショーロホフ氏の令孫で、国立ショーロホフ博物館館長のA・ショーロホフ氏は、祝意のメッセージの中で次のように述べている。

 『法華経の智慧』の冒頭でも語られているように、現在の状況下、世界は再び「自分は誰なのか」「どこから来たのか」「どこへ向かうのか」、池田会長の言葉を借りれば「いずこより来り」「いずこへ往かんとするか」という難題に向き合う必要に迫られています。
 しかし残念なことに、「私たちは誰なのか」、そして「いずこより来り」という問いに対して、今日、我々に与えられている答えは、民族主義的な気運を起こさせるために作り上げられたものばかりです。(「聖教新聞」2014年9月20日付)

 ショーロホフ館長が指摘するとおり、東西冷戦の終結によって世界はイデオロギーの対立から解き放たれたものの、「では、自分たちは何者なのか」という新たな哲学的問いの前に立ちすくみ、時計を巻き戻す形でナショナリズム(国家主義)やエスニシズム(民族主義)にアイデンティティを求める人々を生み出してきた。

 つまり今日の世界は、民族や国家、特定の宗派といった〝フィクション〟を越えた、より普遍的でより大きな、そしてより豊かな物語に基づいた、互いを結ぶアイデンティティの自覚を必要としている。

 私たちの社会の中にあるヘイトクライム(憎悪犯罪)のような他者への憎悪や排斥が、単なる知性や教養の欠如といった要因だけでなく、より根本的に〝哲学の貧困〟〝精神性への飢餓感〟に根差しているという認識は重要である。だからこそ新しい豊かな物語を紡ぎ出し、共有し合っていくことこそが、迂遠に思われてもより根本的な超克の方途になるのだと思う。

あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『宗教は誰のものか』(鳳書院)など。

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