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久々に垣間見た「大阪」の意地〜ディスプレイフォント事件控訴審判決が示した創作者救済の道筋

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テレビ放送で用いる「ディスプレイフォント」をめぐって、フォント製作事業者とテレビ局が争っている事件がある。

昨年夏に大阪地裁で出された第一審判決については、このブログでも紹介したところで*1、「フォント」が著作権で保護されない、という前提に立っているがゆえの原告(フォント製作事業者)側の苦しさ、を察しながら、当時コメントしたものであった。

エントリーの末尾で、

「個人的には、もうあと一審級くらいは、判断を仰ぐ機会があっても良いのではないかな、と思うところである。」

と書いたものの、平成23年の北朝鮮映画事件*2以降、「著作権による保護を受けられない創作物」の保護について、冷淡な姿勢を示し続ける裁判所の傾向からすれば、大きなサプライズはないだろうな・・・と、当時は漠然と思っていたものだった。

だが、先月出された大阪高裁の判決(公表されたのは先週)は、結論こそ「控訴棄却」にとどまっているものの、判決文をよく読むと、「おっ」と思わせる内容になっている。

近年の裁判例の傾向に一矢報いた感のあるこの判決を、以下でご紹介することにしたい。

大阪高判平成26年9月26日(H25(ネ)第2494号)*3

控訴人(一審原告):株式会社視覚デザイン研究所

被控訴人(一審被告):株式会社テレビ朝日ホールディングス、株式会社IMAGICA

被控訴人による控訴人フォントの使用状況や、提訴に至るまでの交渉状況等については、一部、高裁で事実認定を補充しているところがあるものの、原審判決で認定された内容と大きく異なるものではない*4

・・・で、興味深いのは、裁判所の争点に対する判断のうち、「控訴人が主張する本件フォント又はそのライセンスビジネス上の利益について」という小見出しが付された3(1)の章の内容である。

「ア 現行法上,創作されたデザインの利用に関しては,著作権法,意匠法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を設定し,その権利の保護を図っており,一定の場合には不正競争防止法によって保護されることもあるが,その反面として,その使用権の付与等が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしている。上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,ある創作されたデザインが,上記各法律の保護対象とならない場合には,当該デザインを独占的に利用する権利は法的保護の対象とならず,当該デザインの利用行為は,各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(以上の点につき直接に判示するものではないが、最高裁判所平成13年(受)第866号、同第867号平成16年2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁、同裁判所平成21年(受)第602号、同第603号平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。」(31~32頁)

冒頭に書かれていることは、ここ数年、東京地裁を中心に、多くの下級審判例の中に登場する内容であり、これ自体は珍しいものではない。

だが、ギャロップレーサー事件の最判と、北朝鮮映画事件の最判を両方引っ張ってきていること*5、そして、その引用の前提として「以上の点につき直接に判示するものではないが」と付されているところから、“俺たちは盲目的に最高裁判決をコピペしてるわけじゃねーよ”という大阪高裁知財部合議体の心の声が聞こえてくるようである。

そして、大阪高裁は、ここから、控訴人が侵害された、と主張する「利益」の内容について、細かく場合分けをしながら、独自の論旨を展開していくのである。

「イ 本件では,控訴人は,本件フォントの著作権侵害を理由とする請求をしないことを明らかにしているほか,意匠法や不正競争防止法による保護も一切主張していない。したがって,控訴人が主張する本件フォントという財産法上の利益とは,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益として主張される必要がある。ところで,本件で控訴人は,本件フォントは知的財産であり,法律上保護される利益(民法709条)であると主張している。ここで控訴人が主張する法的利益の内容・実体は必ずしも明らかでないが,不法行為に関する控訴人の主張からすると,他人が本件フォントを無断で使用すれば,本件フォントの法的利益を侵害するものとして直ちに違法行為となり,無断使用について故意又は過失があれば不法行為を構成するという趣旨であると解される。しかし,この主張は,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいから,そのような利益は,たとえ本件フォントが多大な努力と費用の下に創作されたものであったとしても,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とはいえず,前記のとおり法的保護の対象とはならないと解される。」

「この点について,控訴人は,本件タイプフェイスないし本件フォントが知的財産基本法上の「知的財産」(同法2条1項)であり,控訴人は「知的財産権」(同2項)を有すると主張するが,同法上の「知的財産権」とは,「法令により定められた」権利又は法律上の利益であるところ,タイプフェイスに関しては,その法的保護のあり方について未だ議論がされている途上にあること(証拠略)からすると,本件タイプフェイスないし本件フォントが仮に同法上の「知的財産」に当たるとしても,「知的財産権」に当たると解することはできない。また,控訴人は,被控訴人らは本件フォントを放送番組やDVDに最初に化体した者であり,このような者の無断利用行為に対して不法行為による法的な保護を与えたとしても,著作権に匹敵するような法的保護となるものではないと主張し,F教授の意見書(証拠略)においても同様の見解が述べられている。しかし,本件フォントは本来広告,ロゴタイプ,ウェブページ,テレビ番組等の商業的な利用を想定していること(前記補正して引用した原判決1(1)エ(ウ))からすると、この見解による場合であっても、通常想定する媒体での本件フォントの無断利用行為があれば直ちに不法行為としての違法性を有することになり,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しいことに変わりはないから,そのような独占的利用の利益が,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益であるということはできず,法的保護の対象とすることはできない。また,上記の主張が,本件フォントを放送番組やDVDに最初に化体して使用する行為のみについて無許諾の利用行為を違法とするものであることから,著作権法が規律の対象とする利益とは異なる利益の保護を主張する趣旨であるとしても,ある創作物の利用行為をどこまで創作者の許諾に委ねるかは,まさに知的財産権関係の各法律が種々の観点から勘案して定めている事柄であるから,上記の点をもって,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益であるということはできない。」(32~33頁)

「ウ 他方,控訴人は,そのライセンスビジネス上の利益も本件での法律上保護される利益(民法709条)として主張しており,この趣旨は,控訴人が本件フォントを販売・使用許諾することにより行う営業が被控訴人らによって妨害され,その営業上の利益が侵害されたという趣旨であると解される。そして,その趣旨であれば,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということができる。もっとも,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業上の利益が侵害されたことをもって,直ちに不法行為上違法と評価するのは相当ではなく,他人の行為が,自由競争の範囲を逸脱し,営業の自由を濫用したものといえるような特段の事情が認められる場合に限り,違法性を有するとして不法行為の成立が認められると解するのが相当である。」(33~34頁)

簡単にまとめるならば、大阪高裁は、「イ」で「フォントの(単純な)無許諾利用行為」については、いかなる論理構成をしようと「知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる利益」ではない、として、法的保護の対象となることを否定する一方で、「ウ」の「ライセンスビジネス上の利益」については、「・・・とは異なる利益」として、法的保護の対象となることを明確にした、ということができる。

そして、これまでどちらかと言えば、地裁レベルの判決や知財高裁の判決が、“著作権で保護されないものについて不法行為による救済を求めても、無駄無駄無駄ァ・・・”という、ディオ的な冷淡さを見せていたことと比較すると、“俺たちが最高裁判決の正しい読み方を教えてやろうじゃないか”と言わんばかりの丁寧さが、この判決においては際立っている。

もちろん、これまで判決が出された事例に比べると、本件では、控訴人側に現実の使用許諾実績があり、「ライセンスビジネス上の利益」を主張しやすい(そしてそれが認められやすい)事例だった、という事情もあるし*6、控訴人側の代理人がそこを丁寧に主張したことが、上記のような説示につながった、とも言えるのだろうが、北朝鮮映画判決以降、不法行為による救済の途があまりに狭くなっているのではないか?ということが、危惧されていたところだっただけに、「知的財産法による保護の微妙に外側」のところでビジネスを営んでいる事業者にとっては、これが一筋の光明になったのではなかろうか*7


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