記事
- 2014年11月04日 04:58
聖戦に向かう欧州の若者たち ―ソーシャルメディアで過激思想が入り込む
2/2シリアからの帰還戦士たちへの不安
今年5月末、ブリュッセルにあるユダヤ人博物館で何者かが自動小銃を乱射し、イスラエル人観光客を含む4人が亡くなった。実行犯として疑いがかかっているのはアルジェリア系フランス人の男性だ。後に仏マルセイユで拘束され、ベルギーに送還された。この男性はシリアで1年生活をしたことがあり、イスラム過激組織の一員であったとも言われている。9月上旬、先に亡くなったフォーリー氏やソトロフ氏とともにシリアで人質になった経験を持つフランス人ジャーナリストが、昨年、拘束中のシリアでこの男性に何度も拷問を受けたとフランスの雑誌「ル・ポワン」に語っている。
ユダヤ博物館殺人事件はシリアから帰還したイスラム戦士による暴力事件として欧州首脳陣に警鐘を鳴らした。事件発生直後、マニュエル・ヴァルス仏首相は自国で育った聖戦戦士による脅威に衝撃を受けたと発言している。
英国の元諜報機関幹部リチャード・バレット氏は「どの欧州の諜報機関もシリアから帰還した若者たちの動きに神経を尖らせている」と述べる(英フィナンシャル・タイムズ、6月4日付)。過去3年間でシリアにやってきた外国戦士の数は10年間でソ連に占領されていたアフガニスタンに集まった外国戦士よりもはるかに大きいという。後者からテロ組織アルカイダが生まれたことは記憶に新しい。オランド仏大統領によれば、当時アフガニスタンの戦闘に参加したフランス人戦士は20人だが、先の「エコノミスト」に掲載された調査では約700人がフランスらからシリアに向かっている。
英メディアが聞き出した戦士たちの生の声
何故若者たちがイラクやシリアに向かい、戦闘行為に参加するのか?英メディアは現地やこれから向かう人などに取材し、その声を聞きだしている。BBCニュース(8月15日付)が取材した1人は、これからイラクあるいはシリアに向かうつもりと言う「アーマド」である。BBC側はこの名前は本当の名前かどうかは確認できていない。顔を赤いスカーフで隠してテレビ取材に応じた。隠したままであること、声の質も放送時に変えることが出演の条件だった。
何故行くのかと聞かれ、「イスラム教徒が(イラクやシリアに)行って聖戦を行うように」と神が命じたからだという。具体的にはISが家を離れ、戦線に参加するよう呼びかけたからだ。「私の人生のすべてよりもこの呼びかけに応じることが優先する。イスラム教徒にとっては大きな意味がある」として、「殉教者として死ぬことは最高の天国に行ける約束を意味する」と続けた。
BBCの記者はロンドンに住むアブ・サーリハ氏という青年にも取材した。同氏はイスラム過激主義者シーク・オマ・バクリの生徒であると述べた。ISを支持し、ISが発するオンライン上のメッセージを世界中に拡散している。
サーリハ氏の部屋では聖戦主義者の動画が再生されていた。聖戦主義者と見られる人物がパスポートを焼き、小型の剣を振り回していた。動画の中の男性はイスラム教徒にイラクやシリアの戦いに参加するよう繰り返し訴えていた。
記者はこうした動画を見て英国の若者たちがISに加盟し、戦闘行為に参加すれば、命を失う可能性もあると指摘する。サーリハ氏は「みんな、神のために死ぬことを辞さない。死は勝利の殉教になる」。こうした発言に抵抗を感じるとしたら、それは「あなたがこちら側にいないからだ。こちらの側にいれば、(殉教)は行動のモーチベーションになる」と答えた。
しかし、英中部バーミンガムのムハマンド・サジャド導師はイラクやシラクで行われているのは「宗派の違いによる戦いであって、聖戦ではない」と記者に語る。
導師の言葉に耳を傾けていた2人のイスラム教徒はイラクやシリアに行って戦闘行為に参加することには反対だ。「過激主義者が宗教の名前をハイジャックするような状態を誇りに思う宗教はない」(ザルファー・カハタブ氏)。「イスラム教徒として心が傷つく」「正当化できない」(アーサン・アーマド氏)。どちらも若い男性たちだ。2人は自分たちが「イスラム教徒の大部分の気持ちを代弁する」という。
過激思想が直接入ってくる
2005年のロンドン・テロ発生後、多くの人が何故若者たちが自分の生まれ育った国で自爆テロを行うのかを分析し、答えを見つけようとした。青年たちに何か非がある、つまり「貧しさ、失業中だった、孤立していた」などの理由では十分な説明とはならなかった。ただ、一部の若者たちがあるときからとりつかれたようにイスラム過激主義に心酔してゆく過程が見えてきた。英国の中では、イスラム教徒のコミュニティーに何かできることがあるのではないかということで、イスラム教団体やモスクの導師、学者、大学の指導教官、あるいはコミュニティーの年長者などに政府が支援を求めた。
テロ防止法の整備・強化への動きは現在でも続いている。
しかし、近年の特徴として、コミュニティや大学、モスクなどの物理的場所や人を通さずに、過激思想が若者たちに入ってくる状況がある。この状態は何年か前から指摘されてきたものの、シリアの内戦(2011年―)以降、特に顕著になっている。
取り込む側もソーシャルメディアの活用に非常に長けている。
例えばISは世界中から聖戦参加者を募り、自分たちのメッセージを伝えるために洗練された動画やソーシャルメディア使いを工夫している。
英テレビ局チャンネル4の取材(ウェブサイト6月17日付)によると、ISが6月中旬に公開した動画にはISのリーダー、アブー・バクル・アル=バグダーディーの声が入っている。公開初日に3万人が視聴した動画の中で、アル=バグダーディはスンニ派イスラム教徒にISの聖戦参加を呼びかける。「トレーニング用キャンプと外国戦士用の宿はすべてのイスラム教徒に開かれている」「イスラムの若者よ、今こそ立ち上がれ」。
この動画と同時にいくつもの関連動画を複数の言語で制作・公開している。アラビア語やフランス語で作られた動画には英語の字幕が付いている。「アルハヤト・メディア・センター」が制作したとされる動画には「聖戦に出かけよう」という歌の歌詞が掲載されている。
こうした動画の1つには爆発の場面、銃撃の様子、スローモーションの画面が多用されており、まるでビデオゲームのようにも見えるとチャンネル4はリポートしている。
ISの構成員同士で使うツイッターの独自アプリも開発しており、これをダウンロードすると、ISのニュースを受け取ることができる。
一般市民が使うフェイスブック、インスタグラム、ユーチューブもISの構成員が利用しており、戦況や人質への処刑場面などがアップロードされている。フェイスブックやユーチューブ側はアカウントを凍結したり、動画をブロックしたりなどしているが、世界中に構成員がいるため、いたちごっこのような状態になっているともいえる。
具体的な解決策を提示するのは本稿の目的ではないものの、少々暗い結末になってしまった。
若干俯瞰して考えてみたい。まず、シリアやイラクからの帰還戦士が引き起こすテロに欧州の政治家や当局は警戒心を抱き、市民へのテロが起きないよう日々全力を尽くしている現状がある。イスラム教徒の欧州市民は「イスラム教という名前を借りて、犯罪行為を行う人々」に対し、怒りを感じている。また、欧州に住んでいれば、実際に帰還戦士によるテロ行為にあう可能性がある。
しかし、イラクやシリアでは市民に相当の被害が出ており、欧州が抱えている聖戦戦士問題は実は周辺の事象なのではないかと筆者は最近、思う。すでに「第3次世界大戦が起きている」と指摘するコメンテーターもいる。ただし、今回は欧州は主戦場ではなく、周辺なのだ、と。
英国に住むと中東関連のニュースが頻繁に入ってくる。わが身の安全も去ることながら、シリアの市民はどうなのかと比較して考えてしまう。
もう一つ気になる点として、宗教の解釈の仕方だ。キリスト教が主たる宗教となる西欧諸国では、いわゆる「政教分離」が進んでいる。宗教・信仰によって物事を決めたり、「急に信心深くなる」ような行為に対して、一定の懐疑の目を向ける傾向がある。西欧でキリスト教の最大のイベントとしてクリスマスがあるが、実のところ、多くの国で単なるショッピングイベント、商行為の1つになっている感じもある。
こうした面を考慮に入れると、自国内の一部の青年によるイスラム教への心酔、宗教の名の下での戦闘行為をするということなどが、西欧社会では非常に特異な、不審な、理解を超えた存在として見なされるーーそんな面もあるのではないだろうか。西欧社会に住みながら、そんなことも考えるこの頃だ(終)。
***
(新聞通信調査会の「メディア展望」10月号に掲載された筆者記事に若干補足しました。9月の執筆時点での情報を元にしていることにご留意ください。)



