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【読書感想】浮浪児1945‐: 戦争が生んだ子供たち

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内容紹介

終戦直後、焼け跡に取り残された多くの戦災孤児たちは、どこへ消えのか? 1945年の終戦直後、焼け跡となった東京は、身寄りのない子供たちで溢れていた――全国では、12万人以上。復興と共に街が浄化され、居場所を失い歴史から〝消え去った〞彼らを、残された資料と当事者の証言から上野を中心に現在まで追う。戦後裏面史に切り込む問題作にして、戦争が生み出したものを見つめなおす必読の書。

 ここに、もうひとつの「忘れられようとしている戦争体験」がある。

 この本で紹介されている「元浮浪児」たちの証言を読んで、僕は「戦争によって傷つけられるもの」のことを、あらためて考えさせられました。

 「歴史」として戦争について学ぶのは、戦闘での勝利や敗北、残酷な略奪や虐殺、飢えや民間人の犠牲、そして、英雄たちの逸話などがほとんどです。

 それらは、ひとつの「点」として語られるのだけれど、生き残った人たちは、その後も生き続けていかなければなりません。

 東京大空襲の直後に地下道に身を寄せた罹災者は、千人に及んだといわれている。このうち浮浪児は全体の1割から2割を占めていたというから、百人から二百人にもなったはずだ。地下道が占拠される日が長くなるにつれ、衛生環境は劣悪になっていった。人々が腐って食べられなくなった残飯を投げ捨てたり、排泄物や吐瀉物が放置されてそこに虫がわいたり、ネズミやノミ、寄生虫が繁殖するようになったりしたのである。

 石原伸司(終戦時7歳)は、地下道の状態について語る。

「地下道は入り切らないほど大勢の人が集まっていて、寝るために横になることもできない状態だった。今で言やぁ混雑している電車みたいな感じで、眠ろうとしたら膝を抱えてすわるか、立ったまま人によりかかるしかなかった。

 地べたは、ゴミ箱をひっくり返したように汚かったな。とにかく臭いがすごいんだ。夜中にトイレに行きたくなっても、何十人もの人たちをまたいで行くのが面倒だし、一度外に出てしまったら寝場所を奪われかねない。だから地下道の壁に小便を引っかけてまた眠るんだけど、数十人、数百人が毎晩そんなことをするもんだからものすごい臭いになる。

 女もいたけど同じことをしてたよ。便意を催せばパンツをずり下ろして、隅っこにおいてあるバケツにまたがって用を足す。それが当たり前だった。俺もそんなもんだと割り切っていたから『臭せえな』と思いつつそっくり真似していた」

 それでも、多くの人々がこの上野駅にいたのは、こんな状況でも、他のところにいるよりもマシだったから、なんですよね。

 この本は、空襲などで親や身寄りを失ったり、戦後の混乱期に「不良少年」として、上野駅などで自活していた「浮浪児」たちの証言を集めたものです。

 太平洋戦争末期から、戦後にかけては、そんな「身寄りのない子供」が、12万人以上もいたのです。

 なかには、「自分の名前さえわからない子供」もいました。

 愛児の家に集まってきた子供の中には、素性がまったくわからない子供も混じっていた。さたよが引き取るにあたって確認をしようと思っても、自分が何者かを答えられなかったり、答えようとしなかったりするのだ。

「幼い子だと、自分の名前が言えないことは珍しくはありませんでしたよ。空襲で焼けだされて親と離ればなれになってしまったら、小さな子供は何も手がかりがなくなってしまいますから。単に親の名前もわからないような年齢だったり、記憶が飛んでしまったりしているんです。

 このような場合、母がその子の戸籍をつくっていました。名前を適当につけ、外見から何歳ぐらいだろうと判断して年齢を決める。いい加減なものですよ、たとえば坂の下にいたから、坂下君にしようとかね。戸籍に乗っている彼らの情報は何一つ本当ではありませんが、戦争というのはそういう子供を生み出してしまうものなのです。

 また、子供たちの中には、自分の名前をわかっているのに名乗らなかったり、わざと別の名前や年齢を言ったりする子もいました。路上で悪いことをくり返しているので、罪悪感から決して本当の名前を明かそうとしないのです。

 いま、2014年の、とりあえず平和な時代を生きている僕にとっては「記憶喪失でもないのに、自分の名前がわからない子供がいるのか?」というのが実感なんですよ。

 現在なら、記憶喪失であっても、「誰か」が自分の名前を覚えてくれているはず。

 ところが、戦時下では、そういう「ありえないこと」が現実に起こってしまうのです。

 この本のなかには、飢えと周囲からの蔑視のなか、生き延びようとする子どもたちの姿が活写されています。

 そして、「浮浪児」たちに対する世間の目も描かれているのです。

 戦時中は、みんながつらい状況だからと優しくしてくれていた周囲の人も、戦争が終わると、浮浪児たちを「犯罪予備軍」として白眼視するようになっていきました。

 浮浪児のなかには、戦争で身寄りを失い、そうやって生きていくしかなくなってしまった子どもが大勢いたにもかかわらず、「自分が生き延びられる可能性が高くなった」とたんに、「同情心」を失ってしまう人が多かったそうです。

 ああ、でも、戦争というのは、国家というのをひとつの「災害ユートピア」にしてしまうものなのかもしれないなあ、とも。

 戦後、闇市に「協力」することによって、浮浪児たちは自活の道をえて、あるものはテキヤやヤクザに「就職」し、またある者たちは施設に「収容」されていきます。

 この施設も千差万別で、良心的なところがあった一方で、子どもたちを奴隷のように働かせたり、虐待が常態化していた施設もあったそうです。

 この本には、浮浪児たちに愛情を注ぎ、私財を投げ打って育てようとした「愛児の家」の創設者、石綿さたよさんの話も出てきます。

 ああ、こういう人が、いてくれたのか……

 この本を読んで打ちのめされたのは、施設の前に捨てられていた混血児の赤ん坊(おそらく、進駐軍と日本人女性のあいだの)を、アメリカの里親に養子として引き取ってもらうことを決めたときの話でした。

 さたよはメリーちゃんをどう扱うかについて悩んだ。彼女は一目で外国人とわかるような顔立ちだった。成長するにつれ、周りからは「パンパン(売春婦)の捨て子」として激しい差別を受けて生きていかなくてはならなくなる。そこでさたよは悩んだ末に、日本で差別を受けて生きるより、アメリカ人の里親を見つけてアメリカ人としてのびのび生きてもらった方がいいと判断した。

 このことを進駐軍の知人に相談してみた。すると、サリバンという夫婦が養子にできる子供を捜しているということを教えてもらい、翌年の春にメリーちゃんを引き取ってもらうことになった。メリーちゃんは海を渡ってアメリカで育てられることになったのである。

 まだこうした赤ん坊が「混血児」と呼ばれて激しい差別を受けていた時代だった。

 また、ある施設の職員は、子供たちを積極的にカナダに移民として送り出していたそうです。

 日本にいたら、「元浮浪児」というだけで仕事はなく、差別され続けるけれど、外国に行けば「日本人ということでは平等に扱ってもらえる」から、と。

 日本の戦争で犠牲になった、日本で生まれた子どもを最も差別していたのは「日本人」たちだった。

 これは、本当に重い事実です。

 そんななかで、こんな「善意の人々」もいたのです。

 裕は、戦後の困難な時代を子供たちをともにやっていけたのは周りの人々の協力があったからこそだという。

「母は本当に必死だったと思います。ただ、母一人の力では、あれだけ多くの子供を抱えて戦後の時代を乗り切ることはできなかった。周りの助けがあったからこそなのです。

 この話をして思い出すのは、愛児の家の向かいで開業していた「渡辺耳鼻科」の渡辺健三先生のことです。うちに住んでいた子供たちの多くは、路上での生活が長かったため、疥癬というひどい皮膚病に侵されて苦しんでいました。ダニが寄生して血を吸って皮疹が起きて、昼夜の区別なくいてもたってもいられないほどの猛烈なかゆみに襲われるんです。

 渡辺先生はそうしたことを知って、毎日病院の診察が終わると薬を持ってうちにやってきてくれて、一人一人の症状を無料で診て薬をくれた。疥癬ばかりでなく、病気や怪我の治療もしてくれました。まだ20代の新婚ホヤホヤのお医者さんだったんですけどね。そういう人たちが大勢いたから、うちはやっていけたんですよ」

 愛児の家は、近所の鷺宮に暮らす多くの人々に支えられて歩んでいった。だからこそ、子供たちはそこに愛着を抱き、住みつづけたにちがいない。

 漫画家・こうの史代さんは「好きな言葉」として、ジッドの「私はいつも真の栄誉をかくし持つ人間を書きたいと思っている」を挙げておられます。

 石綿さたよさんや、この渡辺先生のような、愛児の家を支えた人々が「偉人」としてきらびやかな場に立つことは無いのでしょう。

 でも、こういう人こそ、「真の栄誉をかくし持つ人間」であり、きっと、そういう人たちが、いつの時代にも存在していたのです。

 著者は、浮浪児たちの生き様を、「戦争の被害者で、かわいそうな存在」だという哀れみの視線では描きませんでした。

 もちろん、そういう「悲惨さ」が伝わってくる描写もあるのですが、むしろ、「厳しい時代を、がむしゃらに生き抜いた人々」として、いきいきと書いているのです。

 だからこそ、僕も、「いま、この時代を生きている自分、そして、自分の子供のこと」を考えずにはいられなかったのです。

 これを読んで、興味を持たれた方は、ぜひ一度、読んでみてください。

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