- 2014年10月28日 17:31
儲かる漁業へ! 大学と現場が共に考える ‐ 磯山友幸
1/2地元水産業の衰退を目の当たりにして、「象牙の塔」を飛び出した長崎大学水産学部。生物学、経済学、環境などを融合させた「海洋サイバネティクス」という学問的アプローチと、現場のアイデアによって「儲かる漁業」への転換を図る。
長崎県南島原。江戸初期に起きた島原の乱で、一揆軍が最後に籠城した原城址のすぐ足元に広がる小さな漁港は、ここがかつて激戦の地だったことなどすっかり忘れたかのように、のんびりと穏やかだった。
「大学なんて敷居が高かって思っとりましたから、何時間もかけて先生たちがここまで気軽に来てくれるとは、正直、驚きでした」
係留した小船の上で、村田国博さんは日焼けした顔をくしゃくしゃにして笑った。
画像を見る師弟関係にあった長崎大学・橘勝康教授(左)と、島原半島南部漁業協同組合代表理事組合長・村田国博さん(右)
高校を卒業して漁業の道に進んだ村田さんが無縁だと思っていた大学と出会ったのは2010年夏のこと。長崎大学水産学部が2007年度から始めた水産業活性化のための人材育成プログラム「海洋サイバネティクスと長崎県の水産再生」という講座を知ったのがきっかけだった。
画像を見る研究発表会には学生も参加し、熱心に耳を傾けていた
漁業者や水産加工業者、自治体職員などを対象に長崎大が募集。長崎大と現場で行われる集中講義や実習に参加するのが条件だが、受講料は無料だった。
さっそく応募した村田さんは、2年間の「増養殖コース」を修了。さらに2012年からは「水産食品コース」に入り、2年間にわたって受講してきた。長崎大の先生たちとは、すっかり親しくなり、今では、気軽に漁業の現場での悩みを相談できるようになった。
島原半島南部漁業協同組合代表理事組合長を務める村田さんは、組合員がもっと儲けられる漁業ができないかと長年考え、様々な取り組みを続けてきた。
画像を見る船上でわかめを持つ村田さん
豊かな有明海で育った南島原産のワカメは柔らかく味が良いと評判で、「原城わかめ」として人気が高い。村田さんは、「わかめ養殖会」を組織して、南有馬の海での増産に取り組んだ。最近はひじきの養殖にも力を入れている。「漁師の先輩から教わって技術はマスターしているが、科学的見地からはどうなのか」と考えていた村田さんの目に「増養殖コース」という文字が飛び込んできたのは必然だった。
村田さんが「儲かる漁業」にこだわるのは、このままでは南有馬の漁業は廃れてしまうという危機感があるからだ。「親が子どもに漁業を継がせたいと考えなくなった」と村田さん。若者は将来が読めない漁業からどんどん離れていく。村田さんの組合で90人いる組合員のうち20代は1人、30代も1人40代でも6人に過ぎない。ご多分に漏れず南有馬でも次世代は育っていない。
儲けるためには、水産品をそのまま出荷するのではなく、加工して付加価値を付けることも重要だ。村田さんは水産加工品の開発にも取り組んできた。
画像を見るわかめ麺の「ひょっつる」
ちょっとしたヒット商品になったのが「ひょっつる」。養殖した「原城わかめ」をゼリー状に溶かして、細い麺状に加工した「わかめ麺」だ。島原名物のそうめんと同様に、麺つゆで食べたり、酢の物やサラダに合う。海藻なので煮崩れないため、鍋物にも合う。カルシウムやミネラル分が豊富なうえ、100グラムあたり6キロカロリーしかないため、ダイエット食としても注目された。今では養殖わかめに匹敵する売り上げを稼ぐ南有馬の特産品に育った。
他にも加工品が作れないか。立て続けに水産食品コースに進んだのはこのためだ。
「村田さんはアイデアマンなので、私たちが教えるというより、一緒にいろいろ考えたり試したりしてきたんです」
この2年間、村田さんの担当主査を務めてきた橘勝康教授は語る。橘教授は2010年4月から今年3月まで水産学部長を務め、「海洋サイバネ」を推進してきた中心人物のひとりだ。
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