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マタハラ、逆マタハラに企業が陥らないためにできること。 - 後藤百合子

■広島マタハラ事件判決で問題とされているのは何か?

先週、いわゆる「マタニティ・ハラスメント」問題で降格・減給された女性が職場を告訴した裁判で、最高裁は高裁での審議やり直しの判決を出しました。公開されている判決文を読んでみましたが、ちまたの「マタハラは違法」というセンセーショナルな見出しの、何がマタハラなのかさえもよくわからない一般報道と違い、問題点がかなりクリアにわかりました。

1. 理学療法士である原告女性は、平成16年4月、訪問リハビリチームから病院内リハビリチームに異動となり、リハビリテーション科副主任となって病院内リハビリチームの取りまとめを行う業務についた。

2. その頃第1子を妊娠した原告女性は、平成18年2月に育休後職場復帰し、訪問リハビリチームに異動し副主任として訪問リハビリチームの取りまとめを行う業務についた。

3. 病院側は平成19年7月、リハビリ科のうち訪問リハビリチーム業務を別組織である介護施設Bに委託し、原告女性は介護施設Bの副主任となった。

4. 平成20年2月、原告女性は第2子を妊娠し、身体的負担が軽いとされていた病院内リハビリチームに異動を希望し、病院は3月にBからリハビリテーション科への異動を行った。この際、原告女性は副主任職をはずされた。

5. 当時、病院側は原告女性に副主任職をはずすということを手続き上のミスにより伝えず、3月になってからリハビリ科長が説明し、原告女性はしぶしぶ承知したが、自分自身のミスによる降格とは思われたくないので、4月付ではなく3月付にしてほしいと本人が申し出た。

6. 原告は平成20年9月から平成21年10月まで産休及び育休を取得し、職場復帰後Bの訪問リハビリ業務に異動となったが、そこには原告女性より6年キャリアが短い副主任がいて業務のとりまとめを行っており、原告女性は副主任に戻ることができなかった。

7. 副主任手当は9,500円である。(原告女性には降格後この手当が支払われなかった)

今回の判決で大きな問題になっているのは、4~5です。

■妊娠中の降格じたいが最大の問題ではない。

判決要旨の中で述べられているのは、妊娠や産休・育休を理由に降格を行うことはならないが、本人が別のポジションを希望した場合、降格・減給などデメリットがあるのであれば、雇用者側はきちんと説明し、本人が納得した上で降格を行わなければならない。それを雇用者側のミスにより伝えてなかったのならば、たとえ本人が後で了承したとしても雇用者側に責任が発生する、というものです。

つまり、妊娠により降格や減給などは基本的にしてはならないけれど、本人がすべてを了解したうえで希望する場合には認められる、今回はその義務を雇用者側が怠ったので、再度精査すべきである、という判決内容なのです。

いっぽう、復帰後の副主任復帰がなかった件については、下記の通り明確に「問題ない」と裁判長が述べています。

■原告女性に配慮しつつも訴えられた雇用者

原審は,上告人が配置されるなら辞めるという理学療法士が2人いる職場があるなど復帰先が絞られ,軽易業務への転換前の職場であったBが復帰先になったところ,Bには既に副主任として配置されていた理学療法士がおり,上告人を副主任にする必要がなかったのであるから,均等法等に違反するものでも人事権の濫用に当たるものでもない旨判示する。 (裁判官櫻井龍子の補足意見)
降格時に「自分がミスしたから降格になると思われるがいやだから日付を1か月ずらしてほしい」と本人が希望したり、「原告女性が配置されるなら辞めるという理学療法士が2人いる職場があるなど復帰先が絞られ」とあることなどから、原告女性は職場の中でもかなり処遇が難しい人物であり、病院側としても腫物に触るような扱いをしてきたのではないかと想像できます。また、原告女性の2回の長期間の産休・育休後にも職場復帰が自然に行われていることからも、いわゆる「マタハラ」な雇用者ではなく、真剣に従業員のことを考え、対応してきた真面目な病院ではないかと思えるのです。

■逆マタハラ濫用の中国

これは以前、私が経営していた中国の会社で実際にあった話です。

出納係にAさんという女性がおり、入社後半年ほどしてから妊娠を告げてきました。またその頃から彼女はしきりに勤務時間中に外出するようになりました。もちろん、妊娠検診など理由のはっきりしたものはわかるのですが、銀行に行ってくるとか、文具を買いに行くとかと言って、ほぼ毎日2~3時間も外出するのです。

不思議に思っていると、他の社員が「Aさんが他社でアルバイトをしている」と密告してきました。出納係には経理の資格が必要で、どの会社も必ずその資格をもつ人を2人以上置かなければならないことが法律で決まっています。しかし、小さい会社では2人も雇う余裕がないため、アルバイトを頼むことがあるのです。Aさんはそのアルバイトを数社掛け持ちしていたようでした。

さっそくAさんを呼んで追及したところ、「絶対にそんなことはしていない」と言い張ります。「では今後、銀行や買い物は他の人にしてもらって、あなたはいっさい外出しないでください」と命令したところ「では辞めます」と言って辞職してしまいました。ここでやれやれと思った私は浅はかでした。

数日後、労働局から電話がかかってきました。Aさんが「妊娠を理由に会社を解雇された」と労働局に訴えたのです。もちろん担当者には「妊娠が辞職の理由ではなく、こういうことがあって」と事情を説明しましたが、「事情はわかるけど法律だから」と聞き入れられませんでした。その結果、会社はAさんがとっくに辞めてしまっているにもかかわらず、1年間の育休期間も含めた2年弱の給料と保険等一切を払い続けなければならないことになったのです(中国では育休中も100%給料が雇用主から支払われます)。もちろん、Aさんがこの間もアルバイトを続けていたことは言うまでもありません。

後で中国人の経営者に憤ってこの話をしたところ「中国じゃそんなの当たり前。Aさんは確信犯で、最初からそのつもりだったんだよ。だから僕たちは子供がいない女性はまず雇わないよ(一人っ子政策のため一人子供がいればそれ以上産めない)」と返され驚きました。まさに「上に政策あれば下に対策あり」です。この話を聞いてから、私も中国では必ず面接時に子供の有無を聞いて、子供がいる女性だけを雇うようにしました。

■雇用者はマタハラのみならず逆マタハラにも注意。

妊娠・出産という女性の人生の大イベント時に職場で差別があるというのはあってはならないことです。今回の判決でも男女雇用機会均等法の精神に鑑み、不当な扱いがなかったかどうか、という点について判決文の非常に大きな部分が割かれています。

しかし、私が経験した中国のケースのみならず、妊娠・出産を武器に特別扱いを求め「自分の希望する部署で賃金や待遇も変わらず」勤務したいというのは、少し違うのではないかと思うのです。今回の判決でも、雇用者側は女性の希望に沿って処遇したのにもかかわらず、降格・減給をきちんと説明・了承を得なかった説明責任を果たさなかったために差し戻し判決となったものであり、降格・減給が間違っていたとは言明していないのです。

■雇用者はもっと説明責任を果たそう。

もちろん、世の中には妊娠したと伝えただけで退職勧告をするような信じられない雇用者もまだまだいると聞きます。このような雇用者は言語道断ですが、それよりもっと気を遣わなければならないのは一緒に働く同僚たちでしょう。ワーキングウーマンの妊娠・産休・育休取得で一番影響を受けるのは、実は彼ら(彼女ら)なのです。

妊娠中仕事をフォローしたり、休暇中は臨時社員にその仕事を教えたり、場合によってはその社員の仕事を肩代わりしなくてはいけません。そのときに「私のためにみんなありがとう」という感謝の気持ちではなく、「妊娠・出産するのだから当然」という態度で接せられたらそもそも職場内で浮き上がってしまうでしょう。雇用者にとっては本人以外の周囲の同僚たちも大切な従業員なのですから、やはり困ってしまいます。ここをきちんと説明し、本人からも同僚たちからも同意を得ていくプロセスが非常に大切なのではないかと思います。

■ワークライフバランスに対応する政策を!

現在の法律では、従業員が妊娠・産休・育休中の職場でのフォローはすべて雇用者側の負担となっています。育休中の給与は支払義務がありませんが、通常、1年以上になる産休・育休時には派遣など代わりの社員を雇用してもいっさい国からの補助はありません。1年強という短期間ではなかなか職場に合うような方からの応募も少ないことから、中小企業ではこの期間を他の社員たちの協力で何とか乗り切ることが少なくありません。

少子化対策、女性のワークライフバランス対策を真剣に考えるのであれば、育休3年間など浮世離れした政策をぶちあげるのではなく、まず、妊娠・出産・育児期間の女性社員の代替をどう確保し、その財源をどうするのか、すべて企業に丸投げするのではなく、国として役割分担をするしっかりと政策をたててほしいと思います。それにより、今回のような事件も未然に防止できるのではないかと考えます。

【参考記事】
■上川新法相にみる「女子校力」。
http://sharescafe.net/41560081-20141026.html
■転職で出産適齢期を逃していませんか?
http://sharescafe.net/41169792-20141006.html
■転職を繰り返す人を採用したくない3つの理由
http://sharescafe.net/41119882-20141002.html
■貧困家庭サポートNGOが超豪華パーティー主催!?福祉も民間主導のシンガポール
http://sharescafe.net/41001459-20140925.html
■絶対に結婚したい30代女性は「三低」を選択肢に!
http://sharescafe.net/40783424-20140911.html

後藤百合子(経営者)

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