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発信者の責任を明らかにする「ジャーナリスト登記」の可能性

他のサイトの記事や画像、動画を引っ張ってきて、引用元も明記せず、自分で作ったものであるかのように掲載する。こんな「パクリ」記事の存在がネットメディアで問題になっている。ネットコンテンツの著作権侵害は以前から問題視されてきたが、ソーシャルメディアでの拡散を狙った「バイラルメディア」が急速に普及する中で、改めてクローズアップされるようになった。メディアを取り巻く環境を「マトモ」なものにするためには、どんな制度や仕組みが求められているのだろうか。

「誰」が書いたのか、明示することの重要性

かつては、インターネットで流れるニュースは、元をたどれば新聞社やテレビ局などのマスメディアのニュースであったが、最近はネットのオリジナル記事も増えて、多様化が進んでいる。信頼性も高いものから低いものまで混在している。Yahoo!ニュース編集部の伊藤儀雄氏が指摘する。
キュレーションアプリの普及などによって、ユーザーはより多種多様なメディアの記事に接する機会が増えました。どんどん新しいメディアが増えていて、ユーザーは、今読んでいる記事がどのメディアの記事で、誰が書いたのかということを気にしなくなってきている印象があります。その記事は十分信頼に値するのか、それとも割り引いて読むべきなのかわからないばかりか、時には「ステマ」や「広告記事」を知らないうちに摂取する可能性が高まっているともいえます。注意深く調べればどういう性格の記事かわかるのですが、そこまでするユーザーはごくわずかでしょう。ですから、「誰」が書いているのかをわかりやすく明示することは重要なことだと思います。
インターネットの地域ニュースサイト「品川経済新聞」と「和歌山経済新聞」を運営する有限会社ノオトの宮脇淳代表も、
苦労して作った記事をパクるサイトが増えています。いわゆる「バイラルメディア」に多いのですが、サイト内に運営会社を明記していていないことがほとんど。あったとしても、申し訳程度の投稿フォームだけです。もちろん、ライター署名もありません。

ネットメディア版の「法人登記」が必要?

ネットメディアの信頼性を担保するためには、具体的にどうすればいいのだろうか。弁護士ドットコムニュース編集長の亀松太郎氏が提案する。
株式会社における「法人登記」みたいなものがあってもいいのではないでしょうか。テレビ局や新聞社のような既存のマスメディアは、本社の所在地が明らかにされているなど実態が明確です。しかし、ネットメディアは誰がやっているのか分かりにくい場合も少なくない。しかし事実を扱うニュースは「誰が」書いているのかも重要な情報です。食品のトレーサビリティと同様に、その記事がどこから来たのかがわかるようにするため、ネットメディアは運営主体の情報を「登記」して、誰でも参照できるようにしたらよいのではないかと思います。
では、何を登録すればいいのか。法政大学の藤代裕之准教授は、
誰が編集長なのかという情報と、どこから出資を受けているのかという資本構成の情報が必要ではないでしょうか。また、トラブルが起きた時のために、連絡先を明記することも重要になるでしょう。
そこで重要になるのは、「匿名発信者」の扱いだ。東京大学の生貝直人特任講師は、
諸外国の制度を参考に、誰が運営していて、どこに連絡先や紛争解決窓口があるのかが明確に分からないと、第三者の投稿コンテンツでトラブルが起きた時に、その掲載メディア自身が「免責」されないというような制度設計が考えられます。ネットメディアのビジネスモデルを大きく左右するプロバイダ責任制限のルールは、未だ国によって多様な部分がありますから、様々な可能性を議論する余地があると思います。
ただ、掲載しているメディアを規制するのか、記事を書いたライターを規制するのか。情報発信の手法が多様化しているだけに難しいところもある。伊藤氏は、
複数の媒体に同じ人が書いているケースもあります。そういう場合は、どう考えればいいのでしょうか。
立命館大学の西田亮介・特別招聘准教授は、制度で対応するのではなく、情報の出口の「ボトルネック」の部分で対応すべきであることを主張する。
制度が精緻になりすぎて機能していない印象があります。実名の人が損をしないようにすれば良いかもしれませんね。例えば、法的な対応でなくとも、ヤフーニュースが倫理的でジャーナリズムを追求するならば、実名に限定する方針を明示して、「従わないところと取引しない」と宣言すれば済むかもしれません。そのインパクトは、十分なものではないでしょうか。このようにボトルネックとなることができる企業はそうは多くありません。末端の悪事を全て取り締まろうとすると、キリがありません。
全体を規制すべきなのか、それともYahoo!のような「ボトルネック的存在」が対応すべきなのか。実効性も含めて論点になりそうだ。

「訴えられた」場合でなく、「訴える」場合も想定

では、実際に、トラブルが発生した場合、どんな仕組みが求められるのだろうか。藤代氏は、
保険を導入することを考えてはどうでしょうか。訴えられたら、対応にすごく手間がかかります。弁護士に頼む事ができるようになるだけで、リスクは減ります。マーケットが立ち上がれば、どの程度のリスクがあるのかも把握できるようになるでしょう。著作権侵害の逸失利益を取り戻すということであれば、まともなメディアは保険にはいるのではないでしょうか。
亀松氏は「訴えられる」だけでなく、「訴える」場合の活用も提案する。
たとえば、個人でブログを運営している人が、パクった相手を訴えるのは大変です。保険を利用して、どんどん訴えることができるようになればいいのではないかと思います。今でも発信者情報の開示などは定型的な法的手段として活用されています。
生貝氏は、保険ではなく、団体を結成して対応することを提案する。
フォーマルな意味での保険は統計的な設計の難易度が高そうですが、職業団体、ギルドのようなものは考えられると思います。職業団体と言うと利益団体のようなイメージが強いかもしれませんが、自分たちの「職業倫理」を結束して守り、育てていく上でも重要な役割を果たします。多様な主体が関係するネットメディア分野での設計は容易ではありませんが、それこそネットを活用した、新たな枠組みの設計の余地は広いと思います。
保険制度であれば、幅広い情報発信者が利用することができる半面、リスクの計算が難しそうだ。一方で、業界団体を作って対処しようとした場合は、そこからこぼれ落ちてしまう組織や個人が出てくる可能性がある。現状は西田氏によると、
まさに悪貨(コピー)が良貨(オリジナル)を駆逐しやすくなっています。
このような状況の中で、どうすれば「良貨」を流通させることができるのか。それは制度で実現できるのか。様々な手法を議論する必要があるだろう。(編集・新志有裕)

※「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第13回討議(14年8月開催)を中心に、記事を構成しています。

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