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過労死寸前の教師

1日11時間以上も学校で仕事をしている。これでは子どもに向き合える時間がおろそかになる…、現場の教師の声だった。世界的に見ても忙しすぎる。

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■過労死ラインの

11時間以上の数字は、武蔵野市を含む公立小中学校の教職員、1162人へのアンケート結果から明らかになったもの。2013年5月に東京都教職員組合北多摩東支部が実施したもので「授業の準備の時間がほしい!」とアンケート結果を知らせるチラシには書かれていた(画像上参照)。

 アンケートによると、超過勤務(残業)は1日3時間10分(休憩時間10分と計算)×22日=1か月で約70時間。これに持ち帰り仕事と休日出勤の仕事を加えると、月に100時間を超える超過勤務となり、厚生労働省の過労死ライン(※)に相当するとしている。過労死寸前状態というわけだ。

 教師の勤務時間の長さは、国際比較をしても明らかだ。
 2013年に実施されたOECD(経済協力開発機構)による国際調査「国際教員指導環境調査」(TALIS)の結果では、1週間の勤務時間は加盟国平均の38.3時間に対し、日本は53.9時間で最長だ。授業などの時間は平均よりも若干少ないが、授業以外に費やす時間が多いのが特徴となっている(画像中参照:「A Teachers'Guide to TALIS 2013」より)。

 具体的には、課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が特に長い(日本7.7時間、参加国平均2.1時間)ほか、一般的事務業務(日本5.5時間、参加国平均2.9時間)、学校内外で個人が行う授業の計画や準備に使った時間(日本8.7時間、参加国平均7.1時間)等も長い傾向にある。(国立教育政策研究所:「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS2013)のポイント」より)。

 つまり、授業関連以外の時間が多い。

 課外活動についての概要は分かるが、一般的事務作業は何をしているのか。このことを現職教師に聞くと、何かにつけて報告書を書くことが多い。いろいろなアンケートや調査依頼がある。同じような内容が多く、年々増えている。前年の倍以上になっている実感があると話されていた。

 アンケート結果にも「勤務時間後に設定されている会議が多い。おかげで教材研究に費やす時間すらとれない」「時数報告、在籍報告各月する必要があるのだろうか?長時間勤務:授業+準備・評価の他に本業に関係のない仕事が多すぎる」とある。
 また、「市の学力テスト・全国・東京都からもあり3種類もやる必要があるのか?」「学力調査は結果が学校教育に生かされているとは思わない。競争を煽るだけである」との批判もあった。学力テストの採点は、教師が行なっており、本来の授業以外に時間が必要となっている。

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■教員は増えない

   この環境に拍車をかけているのが、教師の不足だ。伺った話によると教職員定数への充足率は全国で70.8%でしかなく約47万人が不足している。仕事が増えているのに数が足りないとされていた(出展データは未確認)。

 教師不足は文部科学省も把握しており「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案(H25~H29)」を作成し、毎年5500人~5600人を増やし、総数2万7800人の教職員を増やしたいとしている。  この計画により改善されると、教員1人当たりの児童生徒数は、小学校で現状の17.7人→16.4人に。小学校で14.1人→13.0人となりOECDの世界水準平均並になるという。  ただし、計画通りだとしても世界平均並で"教育先進国"ではないことには注意が必要だ。

 文部科学省は教員を増やしたいとしても、財務相の諮問機関、財政制度等審議会は、少子化があり2020年度までに1万4000人減らすべきだと反対の主張をしている(日本経済新聞2013/10/28)。当然ながら、悪化する国の財政が背景にはあるだろう。その結果として、26年度文部科学省の予算では、教職員定数の増として15億円が付き、全国で703人が増えるとなっていた。

 計画数の約12%でしかないが、少しでも増えたて良かったと思ってしまいそうだが、資料を読むと、定年退職などの自然減で3800人、統合による313人、合理化による400人減もあるので、実際には増えるどころから、さらに減っていた(画像下参照:「平成26年度文部科学関係予算(案)のポイント」より。予算は案どおり成立)。教員がさらに少なくなっているのが現状なのだ。


■財政難は分かるが、どこに集中させるかだ

 教師に対しては、指導力のなさ、組合活動への疑問、さらには事務能力自体がどうなのかのなど批判意見もあることは承知をしている。  しかし、数字だけで考えても、かなり劣悪な環境で働いていることは確かだ。その仕事は子どもへの教育であり、これからの将来をつくる子どもたちへの環境だ。これで良いとは思えない。

 教育環境には、非正規職員が増えている問題もある(「1年で失業…非正規教員、小中学校で12万人」読売新聞 2014年07月08日)。国の26年度予算案を見ても、いじめ対策や特別支援教育の充実への予算が増えているのは良いとしても、シルバー人材などを活用した補習等のための指導員等派遣事業(当然ながら非正規)や道徳教育の充実へなどが特徴的で通常の強化や教職員環境の改善に向けた予算は見て取れないものだった。人への予算は増やさず、道徳強化へは予算をつけたという現政権の考えを示しているとも言える。

 国の借金が増え、財政状況が困難なことは多くの人が分かっていること。限られた財源をどこに使うのか、集中させるのかが問われ、教育へ必要ではないだろうか。
 
 民主党政権のキャッチフレーズとして「コンクリートから人へ」があった。民主党政権には多くの課題があり失望が多かったことは私も思っているが、この考え方は今でも色あせていないと思う。
 東日本大震災により必要な公共事業が増えているため一概には言えないが、平成26年度予算は、『2011年度予算以来、逆転してきた文教科学費が再び公共事業費に追い抜かされるというシンボリックな節目』だったのだ(※2)。教員の環境をよくするか否かは、政治を選ぶことでもあるのだ。


■武蔵野市の場合

   武蔵野市の場合はどうか。教員へのパソコンなどICT機器を導入することで教員の事務負担を減らし、子どもと向き合う時間を増やすことはこれまでに行なわれているからだ。教育関係者からの意見も聞くと、ICT機器を導入することで事務負担は減った。しかし、減った以上に新たな業務が増え、忙しさには代わりがないのだという。  

武蔵野市にはさらにセカンドスクールがある。長期間での自然体験自体は良いとしても、その準備や引率による時間、さらには報告書作成など他の自治体よりも事務作業が増えるのは明らかだ。自分の子どもの時を考えても、セカンドスクールに行く学年以外の授業にも影響があることや運動会や学芸会が重なることでいったいいつ授業をするのかと思えてしまうほど過密な時間繰りになっていた。教職員への負担が全くないとはいえないだろう。  

教育をよりよくするには、誰かをバッシングする、あるいは経費を削減するだけではできない。どこに課題があり、どうすれば良いのか。労働環境も含めてもう一度、今を見直す必要がある。現状のままで良いとはとても思えない。教職員定数などは、国や都が主体的であるため武蔵野市独自でできることは限られてはいるが、ICT機器以外にもできることはあるはずだ。そこをさらに考えもみたい。


※過労死ライン
厚生労働省は、平成13年12月12日、「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」を発表し、「過労死」の新たな労災認定基準を通達した。発症前1か月間ないし6か月間にわたって、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる。発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は過労死との関連性が強いとしている。
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※2ダイヤモンド・オンライン「医療・教育が"倒され"公共事業増強へ再転換~ 自民党型予算成立に見る予算配分構造の限界昔のようにコンクリート優先に~/鈴木寛 [東京大学・慶応義塾大学教授、元文部科学副大臣]より)

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