- 2014年10月14日 05:00
無人航空機「ドローン」 流通革命にとどまらないその影響 データ収集が導く「新たなフロンティア」
前回の連載は3Dプリンターと並んで次世代の産業を担うとされる「モノのインターネット」をテーマに、技術革新と人々が「新しい」と感じる価値創造の困難さを論じた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4214)。
もちろん、創造性の困難の一方で、技術そのものが我々の生活形式を変化させていくということは、まぎれもない事実だ。無人航空機の「ドローン」もその一つ。以前は主に軍事開発が主流だったが、現在では商用利用のためにアマゾンやグーグルをはじめとしたIT企業も参戦している。IT技術とドローンが交差するとき、どのような現象が生じるのだろうか。単なる流通革命にとどまることなく、ビッグデータと相まったドローンは、我々を新天地へと導いていく。それが良いことかどうかは別として。
大きさ、目的も様々なドローン
ドローンとは「無人航空機」あるいは単に「無人機」と呼ばれるものの総称を指す。ラジコンのように手のひらサイズのものから、軍事用の爆撃機まで大きさは様々に存在し、用途も軍事や農業、輸送等の多様な目的で活用される。中でも注目されてきたものは軍事用ドローンだ。
ドローンは主にアメリカ軍が力を入れて開発しており、偵察や無人爆撃等の用途に用いられる。なぜアメリカなのかといえば、軍事大国であることはもちろん、いわゆる「テロとの戦い」が深く関与している。アフガニスタンの山岳地帯や、イラクの砂漠など、人間が潜入しづらく、またテロリスト側に地の利があることから、ドローンによる偵察や爆撃が作戦上効率が良いとされる。実際アフガニスタン紛争およびイラク戦争では、プレデターと呼ばれるドローンが大量に投入された。
軍事用ドローンは、攻撃にかかわる操縦者の精神的負担の軽減や生命の保護などの目的のために開発されてきたが、同時に誤爆も多く、アフガニスタン紛争以降、長らく誤爆による民間人殺害事件が多発し、倫理的にも問題を呼んでいる。そのため筆者も当初はドローンに良いイメージはなかった。
農業、災害現場でも活躍
とはいえ、目的次第ではドローンが魅力的であることに異論を唱える者はいないだろう。実際、「空の産業革命」とも呼ばれているドローンには数多くの用途がある。
まずは農業だ。広大な農地への農薬散布を目的とする農業用ドローンは、近年のスマホ開発と平行したセンサー技術の向上によって、種類別の農薬散布や雨天でも観察可能など、活用手段の広がりを見せている。また台数についても、日本では2013年度の普及機数は2550機(速報値)であるが、これは2000年度に比べると1.8倍となる。
次に災害現場での観察だ。原発をはじめとして、人が立ち入ることができない場所に偵察機を送り写真を撮影したり、災害現場に救援物資を送ることが求められている。さらにいえば、航空機写真やヘリコプターを使うまでもない作業はドローンで賄うことができる。実は昨年話題となったNHKの朝ドラ「あまちゃん」のオープニングの撮影にもドローンが用いられているのだ(ちなみに、原稿執筆時点で話題となっている香港のデモをドローンで撮影した動画がウェブにアップされており、このような利用法も考えられる http://www.huffingtonpost.jp/2014/10/02/drone-captures-incredible-footage-of-hong-kong-protest_n_5918282.html)。
IT企業がこぞってドローン事業に参戦
最後に、今話題となっているのが輸送手段としてのドローンであり、近年この分野が非常に活発になっている。
米アマゾンは2013年、「Amazon Prime Air」と題したプロジェクトで、注文から30分で商品をドローンによって配送することを目指していると発表した。アマゾンの意気込みは本物で、最近も宇宙工学分野の専門家として、NASAの宇宙飛行士やMicrosoftの研究者等を雇い入れている。米FAA(連邦航空局)はドローン配送に否定的であるが、一部の報道によれば、アマゾンに米国内での飛行試験の許可を出したという。ただでさえスピーディな配達のアマゾンが今度は空から商品を届ける時代が本格的に到来するだろう。
このアマゾンに対抗するのがグーグルである。グーグルは2014年8月に「Project Wing」と題したプロジェクトを発表し、オーストラリアで行ったテスト動画を公開した。グーグルも商品配達のためのドローン開発ではあるが、アマゾンが30分程度の輸送時間を構想しているのに対し、グーグルは10分以下を構想している。グーグルが具体的にどういった商品輸送を考えているのかは現時点では不明だが、両社ともに異なる角度からドローンを開発しているようだ。
こうしたプロジェクトの発表の中、2014年9月26日、ドイツの運送大手「DHL」がドローン配達プロジェクト「「Parcelcopter」(パーセルコプター)によって、実験的に配送を開始したと発表した。重量は5kgで最高速度は64km。ヨーロッパで初の飛行許可が下りた背景には、薬品などの緊急医療品を離島に配送するという目的がより公共的であったことや、距離にしてわずか12キロと限定的な輸送空域であったことが挙げられるだろう。
このように、配送手段としてのドローンはますます進化を遂げている。各社が重量や配送時間等様々な目的を定めて開発していることから、近い将来には空を小型ドローンが飛び交うことも考えられる。無論、世界中の航空法等の観点から多くの規制が課されることが予想されるが、DHLのように、緊急物資を離島や山岳地帯等に速やかに運搬することが可能となったことは、ドローン技術発展にとって大きな進歩であろう。
さらなる進化をみせるドローン
さらにドローンの進化は止まらない。
アマゾン、グーグルとくればフェイスブックも黙っていない。フェイスブックは、なんとジャンボジェット機のボーイング747型と同等サイズのドローンの飛行実験を2015年に予定していると発表した。その目的は、ドローンを大型のWi-Fi接続器として飛ばすことで、地政学上インターネット接続が困難な地域にもインターネット接続を可能にさせるというもの。機体に設置された太陽光発電パネルによって、飛行とWi-Fi電波の送受信に必要な電力を発電し、最長で数カ月から一年飛び続ける予定とのことだ。
インドやアフリカをはじめとして、ネット接続が不十分な地域を飛行する。技術的問題に加え、各国の法等問題は山積みだが、今後3〜5年で本格的に実用するとのことだ。無論フェイスブックとしては、これまでインターネットに触れられなかった人々をフェイスブックに登録させることを目的としている。またこれと同様に僻地へのネット接続を目的としたドローン計画はグーグルも行っている。
ドローンの発展とビッグデータが導く「新天地」
前述のとおりドローンは「空の産業革命」とも呼ばれているが、ここまでの発展は単なる技術発展では説明がつかない。IT企業のドローン開発の背景には、スムーズな流通という理由の一方で、広くドローンによるデータ収集というもう一つの理由がある。
近年のIT企業の発展に、ビッグデータと市場の拡張は不可避のテーマだ。インターネットという「サイバー空間」によってビジネスの領域を拡張してきたこの数十年で、サイバー空間そのものは一種の飽和状態、頭打ちの状態となってきた。そこで新たな領域を模索してきたマーケティング業界が、人間の内部、あるいは脳に着目することになる。
実際、IT企業は社会心理学的な実験を繰り返し、ネットを通じて人間の趣味・嗜好を分析し、それをもってビジネスや政治に活かしてきた。人間の思考がビッグデータによってよりよく理解されれば、この知見は即座に大衆の政治意識の操作に利用される恐れがある。ドローンは広い意味でデータ収集ツールである。デモの現場を撮影し、人々の感情を読み取ることも可能だ。ドローンを経由して多くの人々をネットに接続させれば、そこからより多くの人々の心理を読み取ることも可能だ。人々の心理という内面もまた、ドローンやIT技術が切り開く新しい領域なのである。
無論第一の目的として、僻地や途上国のネット接続など、物理的な水準で開発されていない領域を、ドローンが開発することは間違いない(実際ドローンは「空」という空間を拡張している)。一方で、広く人間や空間のデータ収集が、ヒトの行動原理を発見し、それがビジネスや政治、ひいては軍事等に幅広く適用されるのも確かだ。したがってドローン開発は、物理的な僻地やサイバー空間に未接続の人々を新たな「フロンティア(新天地)」へと導くとともに、データ収集によってヒトの内的な行動原理を把握し、より深い人間の深層という「フロンティア」へと我々を導くのだ。
フロンティアに辿りついたとき、我々はどのような境地にたどり着くのだろうか。ヒトの原理がより深く把握され、政治的にも経済的にも技術が我々を理解したとき、我々はどのような未来に導かれるのだろうか。とはいえフロンティアはどこまでも続く。宇宙や海底、さらに深いヒトの深層心理へと、我々の探求は続くだろう。
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