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米国映画賞ノミネートと業界の中心/周縁構造、あるいは「部内者、部外者、文化的場における神聖化をめぐる闘争」 Cattani et. al. 2014

Gino Cattani, Simone Ferriani and Paul D. Allison, 2014, "Insiders, Outsiders, and the Struggle for Consecration in Cultural Fields: A Core-Periphery Perspective," American Sociological Review, Vol.79 No.2, pp.258-281.
どのような映画関係者が米国の映画賞でノミネートされやすいのか、オーディエンスのタイプや場の中心/周縁との関係で論じた論文。文化的な場 (field) では、同業者や批評家による評価が、その場の内部での権威や権力、富の配分に大きく影響する。

例えば、文学賞の選考委員が同業の小説家であったり、批評家の評価が小説の売れ行きを左右するような場合がこれにあたる。同様に法律家の評価は主に同業者である法律家によって決められていると思うが、法曹界の事情に通じているジャーナリストや学者、政治家、等などの部外者の評価も、多少は法律家の権威や権力に影響をおよぼすだろう。

このように、ある文化的な業界の中での権威、権力、富の配分には、同業者と、同業者ではないがその業界に通じている人々の評価が強い影響を及ぼす(もちろん市場での商品やサービスの売れ行きも重要だろうが、そこはこの論文の主要な論点ではない)。つまりブルデューや新制度派の経済社会学の用語を借りるならば、文化的な場 (field) の部内者 (insiders) と部外者 (outsiders) の評価の両方が、場の内部での階層構造に大きな影響を及ぼすと考えられる。

部外者と部内者では、文化的な活動に対する評価基準が異なることがあることが、先行研究で報告されている。

部内者は、自分と類似した文化的な活動を行う者を高く評価する傾向がある。これは自分に対する評価を堅固なものにするための戦略的な行為かもしれないし、単に自分が本当に素晴らしいと思う文化的活動を高く評価するし、自分自身もそのような活動を行っているというだけのことなのかもしれない。いずれにせよ、部内者が文化的な場の中での生存競争に生き残ってきた人々であることを踏まえると、自分と類似したものを評価するということは、これまで高く評価されてきたような活動を行う者が同業者には評価されやすいということになる。

このことは、文化的な場の中核 (core) に位置する行為者の評価を高める。ここでいう「中核に位置する」とは、文化的な場における支配的な価値観や考え方に同調していることを意味する。また、友人や知人の方が赤の他人よりも高く評価されやすいというバイアスが存在するはずである。それゆえ、部内者のネットワークの中心に近い者ほど高く評価されやすいはずである。つまり、ここまで述べてきたことを要約すれば、部内者の評価のほうが保守的だということである。

いっぽう部外者にはこのようなメカニズムや傾向は想定できない。もちろん批評家も他の批評家に同調したり、逆に差異化を試みたりするということはあろうが、どちらかと言えばむしろ新しいタイプの優れた作品を発掘することで自分自身の批評眼の評価を高めようとするインセンティブがあると考えられる。それゆえ、当事者の意図はどうであれ、部内者は文化的場の構造を再生産することに貢献することが多いのに対し、部外者は、相対的に見れば、ゆらぎや変化をもたらしやすい、ということになる。

このような部外者と部内者の評価基準の相違が本当に存在するのかを確かめるために、Cattani, Ferriani and Allison は米国の映画賞のノミネートに関するデータを使って検証している。データは1992年から2004年までの間に 8つの主要なスタジオによって公開された 2,297 の映画のうち、ひとつ以上で仕事をした

  1. 監督
  2. 役者
  3. 編集者 (editor)
  4. カメラマン
  5. 美術監督 (production designer)
のパーソン・映画・イヤー・データで、従属変数は、
  • 映画人(つまり部内者)が選ぶ映画賞(例えばアカデミー賞)    にノミネートされたかどうか、と、
  • 批評家(つまり部外者)が選ぶ映画賞(例えば全米映画批評家協会賞)       〃
である。また、主な説明変数は、上の監督、役者、編集者、カメラマン、美術監督(以下、これらを総称して映画人と呼ぶ)が、映画人ネットワークの中核に位置するか、周辺に位置するかを示す、時間とともに変化する (time-varying) 二値変数である。ただし、これらの人々が制作した映画の属性も、映画人の評価に影響を及ぼすので、それらもモデルに組み込む。つまり、一種のマルチレベル分析である。

(この段落はネットワーク分析のテクニカルな話なので、興味のない人は読み飛ばしてよい)
この中核/周辺変数は、事前のネットワーク分析によって作られている。データは映画人と映画の所属行列、あるいは2モードのネットワークになっているので、これから映画人の隣接行列を作る。この隣接行列をもとに、映画人を中核と周辺に分割する。中核の内部は理念型的には、密度が1であり、中核の映画人は相互に直接つながっている。

いっぽう周辺の映画人は中核の映画人の一部とだけつながっており、周辺の映画人どうしに直接のつながりはない。これはブロック・モデリングで世界システムを中核と周辺に分割する時と同じイメージであるが、探索的なブロック・モデリングでは必ずしも中核/周辺構造にネットワークが分割されるとは限らないのに対して、この分析ではできるだけ、理念型的な中核/周辺構造に近づくようにネットワークを分割している。つまり、一般化ブロック・モデリングにおける検証的なアプローチによく似ているのだが、実際のアルゴリズムがどのようなものかは先行研究が示されているだけで、この論文には書かれていない。

コントロール変数として、映画のジャンル、レイティング(性的な内容や暴力表現があるかなどを示すもの)、続編映画ダミー(ターミネーター2とか)、過去の評判(具体的には、過去3年以内に映画賞にノミネートされた回数の平均)、(同じ映画の制作に参加した他の映画人の過去の評判(本人の評判と同じ方法で操作化)、当該年に関わった映画の数、映画の売り上げトップテン入り・ダミー、が用いられている。また、層化して条件付きロジット分析がなされているが、映画賞の種類、年度、どのタイプの映画人か(監督か、役者か、それとも ...)で、層化して推定が行われている。

分析の結果、中核の映画人は周辺に位置する映画人よりも、映画人が選ぶ映画賞にノミネートされやすいという傾向が示されている。いっぽう批評家が選ぶ映画賞に関しては、両者の間に有意な差がない。これは映画や年度、映画人のランダム効果や固定効果をモデルに投入しても同じであり、ロバストな結果が示されている。コントロール変数の効果でほぼすべてのモデルで一貫しているのは、

  1. 続編映画での仕事はノミネートされにくい、
  2. 評判のいい映画人と一緒にした仕事はノミネートされやすい、
  3. 過去にノミネートされたことのある映画人は、再びノミネートされやすい、
という点である。いっぽう、映画人が選ぶ映画賞と批評家の選ぶ映画賞で、有意な違いが見られるのは、
  • 映画人は、たくさんの映画製作に関わっている映画人をノミネートしたがらないのに対して、批評家は多産な映画人をノミネートしやすい、
  • 映画人は、売上トップテン入りの映画の制作に関わった映画人をノミネートしやすいのに対して、批評家はそのような影響を受けない、
という点である。総じて、映画関係者は身内びいきで嫉妬深く(たくさんの映画に関わっている同業者を低く評価する)、商業主義的であるのに対して、批評家はニュートラル、という印象だが、そこまで言うのは言い過ぎであろう。批評家だって、このモデルでは特定されていない要因によって評価を左右されている可能性は十分あるのだから。
いずれにせよ、私の漠然とした印象としては、批評家だって十分に商業主義的で嫉妬深くえこひいきをする人々のような気がしていたのだが、この分析からはそうとは言えず、いささか意外な分析結果であった。

この論文を評価する上でのキーポイントは、中核・周縁ダミーという変数の妥当性にあるように思われる。中核・周辺という2つのカテゴリに映画人を分類するよりも、映画人の中心性を連続変数として特定したほうが適切なように思えるのだが、なぜこのようなカテゴリー分けをしているのかは不明である。もしかしたら、中心性と関わった映画の数が強く相関するからかもしれない。

また、中核という概念の定義が曖昧で、映画界という場での支配的な規範を内面化しているという意味で使われたり、単にネットワークの中心にいるという意味で使われたりしている。ネットワークの中心にいる映画人のほうが業界の支配的規範を強く内面化しているという理屈が背後にあるのだろうが、本当にそうなのだろうか?

しかし、データも分析結果もたいへんおもしろく、理論的にもいろいろ考えさせられた。日本の映画賞のデータを使って、誰か同じような分析をやってくれないだろうか。日本と米国では映画業界の文化はかなり違っていそうなので、どの程度、同じ(あるいは違う)結果が出るのか興味深い。

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