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危険ドラッグ対策を問い直す・シリーズ1

様々な対策が投じられているにもかかわらず、依然として販売されている危険ドラッグ・・・この現実に苛立って、抜本的な対策を求める声も聞かれます。
今日は、野党が連携して薬事法の改正案を衆議院に提出することで合意したそうです。週末にも改正案を共同提出する構えとか。

<ニュースから>
●危険ドラッグ規制強化へ法案=野党
民主党や維新の党など野党8党の政策責任者が8日、国会内で会談し、衆院に議席を持たない新党改革を除く各党が危険ドラッグの規制を強化する薬事法改正案を10日にも衆院に共同提出することで合意した。改正案は、指定薬物の成分が検出されなくても、毒性が確認されれば製造・販売を規制できるようにする内容。
時事通信(2014/10/08-20:56)
こんな発想が出てきたのは、いま各地の自治体で進められている、危険ドラッグ条例で脚光を浴びている、「成分を特定しなくても規制できる仕組み」にヒントを得てのことでしょうか。

たとえば、和歌山県(2012年に条例導入)の「知事監視製品」、鳥取県(2013年に条例導入)が最近の改正案に盛り込んでいる「危険薬物」、そして兵庫県が導入準備中の「知事監視店舗」などは、いずれも、化学的に成分を特定しなくても、外形的な特徴に基づいて規制対象を指定する方式です。現在、条例制定の準備を進めている府県でも、こうした目新しい方式に注目し、採用を検討する例が増えているといいます。

たしかに、危険ドラッグの流通品を分析して成分を特定し、その危険性を科学的な方法で評価するためには、極めて高度な専門技能が必要で、すべての都道府県がその水準に合う設備や人材を備えているわけではありません。ある県では、一台のガスクロで食中毒から指定薬物まで、対応しているという実情を漏れ聞いたこともあります。そのなかで、「成分を特定しなくても規制できる仕組み」を活用することは、何らかの対策を打ち出さなくてはならない自治体にとっては現状に沿った(やむを得ない)選択であり、自治体レベルではそれなりの意義があると思います。

しかし、国の法制度として、そのようなやり方を採用することは、まず考えられません。ニュースによれば、改正案は「毒性が確認されれば製造・販売を規制できるようにする」内容だといいますが、そもそも、現行の指定薬物への指定プロセスは、まさに「毒性」を確認する過程であり、科学的な合理性に基づいて「毒性」を確認するための最低条件なのです。

この過程を早くするには、化学分析や様々な試験に当たる機関や人材、設備を拡充することが必要であり、評価の基準を引き下げたり、規制範囲を不明確なものにまで拡大して乗り切ろうとするのは、物事を規制するための文明国として最低の原則(明確性の原則など)を無視するもので、目的を見失った愚策といわなければなりません。

危険ドラッグ対策が十分な成果を挙げていないのは、法規定の不備によるものではなく、法を執行する体制の不足・不備によるものだと、私は考えています。危険ドラッグの構造推定ができる分析官はわが国には10人程度しかいないという専門家の発言は、わが国の問題点を的確に指摘したものです。現行の指定薬物制度がとくに優れたものだというつもりはありませんが(私は弁護士として規制の基準が緩やかに流れすぎるという危惧を絶えず抱いています)、危険ドラッグ対策法としては柔軟性に富んだ、実用向きの制度であるとは思います。

現行の制度でどこまで対応できるのか、ざっと考えてみましょう。各論点については、次回以降で、具体的に検討していくつもりですが、ここではとりあえず、大まかな方向をみておくことにします。

■危険性の高そうな薬物が出回り、社会に危害が及んだ場合、いまの制度で手が打てるのか?

答えは、イエスです。緊急指定+検査命令で対応できるのです。池袋暴走事件の場合、事件発生から17日目に未規制成分2種を特定、21日目にその2種を指定薬物に緊急指定しました。東京では、それと並行して販売店に一斉立入検査を行い、2物質の含有が疑われる商品について注意喚起し、任意提出を促す作戦もとられました。もし、この時点で検査命令と販売禁止措置をとっていたなら、さらに効果的な抑え込みができたことでしょう。

仕組みはあります。実施した経験もあります。でも、有効なタイミングで対策を投入し、しかもコンスタントに実施し続けることができるかどうか、その答えはまだ見えません。

■成分の特定を待てないほどの緊急事態に対して、打つ手はあるのか?

その答えもイエスです。無承認無許可医薬品を取り締まるには、対象となる成分の特定は必ずしも必要ではなく、対象の物品に「医薬品」に相当する作用があることが確認できれば、これを取り締まることが可能なはずです。これこそ、まさしく「成分を特定しなくても規制できる」手法なのです。

厚生労働省は、最近、この手法の活用を表明し、効果的に実施するための準備をしているようです。また、未規制の物も含めて、多様な合成カンナビノイドの作用の強さを簡単に判定できるツールも開発されたといいます。

しかし、取締まりをかわそうと知恵を絞ってきた販売業者を相手に、どこまでやれるかは今後の動きをみないとわかりません。

■欧米の法律によくある暫定規制、緊急規制が日本にも必要ではないか?

そのような考えは、誤解から生まれたものだと思います。たしかに、欧米の薬物規制法には、暫定規制、緊急規制と呼ばれる制度がよくあり、米国では新たな薬物の多くが司法長官の命令による暫定指定によって規制対象に組み入れられています。

しかし、「暫定」「緊急」とはいえ、規制導入までのプロセスは概して厳格で、米国の場合の運用を検討してみると、わが国で新たに指定薬物に指定するよりはるかに時間も手間もかかっています。

■日本の危険ドラッグ対策は世界の水準より遅れているのではないか?

私が知る範囲では、新たな薬物を法規制下に置くスピードに関して、日本は欧米各国よりはるかに先を行っています。つまり、欧米諸国ではまだ規制されていない薬物の多くが、日本では、すでに指定薬物として規制されているのです。

しかし、日本が大きく立ち遅れている分野もあります。たとえば、市場に出現した新薬物に関する情報収集能力や、次々に規制対象に追加される新たな薬物に関して、取締まり、救急医療、予防教育など関連分野へも必要な情報を届ける体制などは、情けないほど弱体です。

■対策強化が叫ばれているが、事態は逆に悪化しているのではないか?

たしかにかけ声の大きさに比して、成果は決してめざましいとはいえません。
でも、これだけは明言できます。2011年から12年ころ、日本の各地に「合法ハーブ」と称する薬物を売る店が現れ、打つ手がないまま、急増を許してしまった時期に比べ、販売店はかなり減少しました。また、急性中毒での救急搬送者も減りました。限られたデータですが、若年のユーザーも減少しているようです。

警察による摘発は増加していますが、これは、警察が取締まりに力を入れるようになったことを反映した数字だともいえます。

池袋暴走事件以来、メディアがこぞって危険ドラッグを取り上げたことで、問題が急速に拡大したかのように感じる方も多いでしょうが、冷静に見直せば、このマーケットはすでに下降線を描いているようです。
ただし、ユーザーの固定化、実態の潜在化など問題が複雑化していく様相もみられます。

危険ドラッグ対策をめぐって様々な意見が交わされている、こんな時期だから、あらためて基本から考えてみたいと思います。いま使える取締まり手法には、どんなものがあるのか。世界にはどんなモデルがあるのか、日本の対策はどこへ向かって舵を切ればいいのか・・・・。途切れ、途切れのシリーズになるかもしれませんが、しばらく連載してみます。

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