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「福島放射線国際専門家会議」その2―放射線の影響はほとんどゼロ―


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真剣な討議が続く

原発安全神話が国民にほぼ定着していた中での福島原発事故は、地元福島は勿論のこと、日本中に衝撃が走った。放出された放射線に対する人々の恐怖心は想像を絶するものがあり、東京に駐在する原発大国の大使館員をはじめ、在日公館の多くも、関西方面は言うに及ばず、シンガポールや自国へ帰国した方々が多くいた。

管直人首相(当時)を中心とするドタバタ劇の中で情報は錯綜し、流言蜚語が飛び交った。避難地域に指定された人々は恐怖のどん底に落とされ、やむを得ず故郷を捨て、すでに3年半が経過した2014年8月現在、127,471名(県内80,322名、県外47,149名)の人々が避難生活を余儀なくされている。

原発事故から6カ月が経過した2011年9月、日本財団が主催した福島での国際放射線専門家会議で発言された言葉で最も印象に残ったのは、チェルノブイリ原発事故で10年間にわたって我々に協力してくれた長崎大学の山下俊一教授の『放射線を正しく理解して正しく恐れよう』という言葉であり、アベル・ゴンザレス(アルゼンチン原子力規制庁)の『最大の悲劇は故郷を離れることである』と語っていたことであった。

事故以来3年半が経過し、二人の発言が最大の問題となっている。当時、チェルノブイリで10年間の貴重な体験と専門的知見を持つ山下俊一教授に対する報道機関によるバッシングは、常軌を逸していたといっても過言ではない。知ったか振りで発言するテレビのコメンテーターや、実体験のない自称専門家と称する人たちの発言は、被災者に極度の恐怖心を与えたことを忘れてはならない。

『甲状腺ガンは10万人に達するであろう』、『福島から北海道へ避難した人に甲状腺ガンが発症した』と大きく一面で報道した新聞もあった。チェルノブイリ事故発生後、6本足の牛が誕生したニュースは日本でも大きく報道された。科学的検証のない報道は福島でも最大の問題となり、風評被害に大きな役割をはたしたことを自省してもらいたいものである。

事故発生後3年半が経過し、報道もようやく冷静になってきたものの、今なお127,471名の避難生活を余儀なくされている人々の諸問題については、1日も早く故郷へ帰れるよう、引き続き粘り強く、事実に基づいた報道を願いたいものである。

福島県立医科大学および他の日本人専門家、世界保健機関(WHO)、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の全ての報告書は、福島原発事故による被ばくレベルは、放射線による影響が認められないほど低く、将来的にもその可能性は低いだろうとデータが示しているという点で一致した。にもかかわらず、影響を受けた人々の間には、放射線状況に関する懸念が残っており、被災地の個人、家族そしてコミュニティの生活に深いインパクトを与えている。

シンポジウムの参加者の間では、住民の尊厳、自立、そして連帯の重要性を認識し、住民、専門家、専門的なコミュニティ・ワーカー、地域の世話役、そして行政当局の間のあらゆるレベルの協力を強化することが必要であるとの共通認識を得た。

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終了後の記者会見は2時間半にも及んだ


以上の観点から本国際会議の組織委員会は、9月10日、以下の通り6項の提言書を私から安倍首相に手渡し、善処を要請した。

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安倍首相に提言書を提出


提言

1.放射線防護基準は、地域の状況や個人・コミュニティのあらゆる生活局面に応じて柔軟に設定されなければならない。居住地域の被ばく管理は、空間線量や理論的に計算された線量ではなく、実際の個人線量に基づいてなされるべきである。個人線量は、空間線量が同じで、同様の防護行動を取っている地域でも、 人々の生活習慣によって大きく異なる。

2.被災した人々それぞれが個々の放射線状況を理解し、自分たちの放射線状況をコントロールすることができるよう、情報伝達のインフラを整備しなければならない。

3.避難を余儀なくされた人々が、十分な情報に基づいて決定を下して避難状況を終えることができるよう、個人の意志決定を支援する仕組みが必要である。現在、多くの個人は、避難を余儀なくされたが次の移転先を決めることができないという不安定な状況にとどまっている。自宅に戻ったり、移住したり、家族が一つになることを選択する人たちもいるだろう。地元の雇用再生、現在および将来の安全の確保、(教育を含む)適切なインフラの提供、補償の進め方などの諸問題およびその他の問題を、検証、再評価する必要がある。帰還以外の選択肢を取る者の権利も支持されなければならない。

4.地域の様々なレベルで、レジリエンス、復興、再活性化に関わる成功事例や活動事例の奨励、認定、支援、公表、共有、実施を進めるべきである。地域の人々や自治体は、自分たちの特定のニーズにもっともふさわしい解決方法を提供してくれるのは何かについての深い知見を持っており、その点でユニークな立場にある 。すでに多くの個人や自治体が、革新的で成功をもたらした解決策を開発している。

5.保健医療・地域福祉のサービス従事者の数を大幅に増やして、福島第一原発事故で被災した人々の心理的・社会的福利の向上とレジリエンスの強化を図ろうという努力が現在進められているが、これを支援することはきわめて重要である。個人とコミュニティの心理的・社会的な安寧の確保は、レジリエンスの核心である。震災後3年が経過し、現在のサービス従事者達は十分な経験と知識を持っている。彼らは、保健医療の従事者の数を増加させる上で必要とされるトレーナーの役割を担ってくれるだろう。

6.福島県民健康調査は、地域コミュニティに大きな価値を持つ健康情報を提供している。調査に対する支援と臨機応変な評価を継続すべきだろう。 利害関係者の 関与を柔軟に確保しつつ、現在の調査を強化していく必要がある。調査の結果明らかになった健康・心理面での問題に対応するための政策も策定される必要があるだろう。

第3回福島国際専門家会議組織委員会
笹川 陽平(委員長・日本財団会長)
アベル・ゴンザレス(アルゼンチン原子力規制庁シニア・アドバイザー)
菊地 臣一(福島県立医科大学理事長兼学長)
喜多 悦子(笹川記念保健協力財団理事長)
ジャック・ロシャール(国際放射線防護委員会副委員長)
フレッド・メトラー (ニューメキシコ大学名誉教授)
大戸 斉(福島県立医科大学副理事長兼副学長)
山下 俊一(長崎大学理事・副学長)
(英語版提言を本和文提言の原本とする)

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