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「燃料電池車時代」の幕開け

循環型社会への道
水素で走り排ガスゼロ




トヨタ自動車が「究極のエコカー(環境に優しい車)」と呼ばれる燃料電池車を2014年度中に市販すると発表。国内の各自動車メーカーも相次いで燃料電池車市場への参入を表明しています。燃料電池車の普及への課題をQ&Aで解説します。併せて、東京工業大学資源化学研究所の山口猛央教授に燃料電池の可能性について聞きました。

優れた環境性と走行性を実現

Q&A

Q 燃料電池とは何ですか。

A 水素を燃料にして発電する装置のことです。電池と呼ばれていますが、電化製品に使う「単三電池」などのように、電気をためる機能はありません。燃料電池車は、英語の燃料電池(Fuel Cell)に自動車(Vehicle)をつなぎ合わせ「FCV」とも呼ばれます。

Q 燃料電池車の仕組みは。

A 同じ水の中に、プラスの電極(電流を通す金属)と、マイナスの電極を入れて電流を流すと、水は水素と酸素に分解されます。これを「水の電気分解」と言います。燃料電池車は、水の電気分解の現象を逆に利用した装置で、外部から取り込む空気と水素から電気を生み出します。燃料電池で生み出された電気は、モーターへと送られ車輪を動かします【図参照】。

Q ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)との違いは。

A HVは燃料にガソリンを使うため排ガスを出しますが、FCVは燃料が水素と酸素なので、排ガスではなく無害な水が排出されるだけです。

EVも燃料が電気なので排ガスを出しません。ただ、充電には時間がかかります。一回のフル充電で最大走行距離は約200キロと長くありません。FCVは水素をガス状にして充?します。フル充?は約2~5分程度で完了し、最大走行距離は約700キロと約1400キロのHVとEVの中間です。

究極のエコカーと呼ばれる背景には、優れた環境性能と走行性を実現している点にあります。可燃性の水素ガスを使うため、安全性を疑問視する声もありますが、後ろから追突されてもガスタンクに衝撃が届かないような車体の設計になっています。

Q FCV普及の課題は。

A 燃料電池は発電に要する化学反応を促進する物質(触媒)に高価な白金を使っています。これが車両価格を押し上げる要因となっています。1台当たりの白金コストだけで平均50万円近いとされます。白金の使用量をいかに減らすかが、価格低下の鍵を握ります。

FCVに使う水素の供給基地となる「水素ステーション」の普及も課題です。経済産業省は水素ステーション普及のために、15年度予算の概算要求に100億円強の関連費用を盛り込みました。また、水素は天然に存在しないため、どのようにして大量製造するかという課題もあります。

Q 今後の展望は。

A 燃料電池車の製造は、国内でしか担えない技術や部品が多く、ガソリン車と同様に関連産業の裾野が広いのが特徴です。今後の経済波及効果は10兆円を超える見込みです。各メーカーはFCV市場の開拓に本腰を入れる構えです。ホンダは来年、販売に踏み切る予定で、日産は17年に「手ごろな価格のFCVを販売したい」としています。燃料電池は自動車以外にも、医療分野などで活用が検討されています。

太陽光と水道水で燃料製造

埼玉県庁で実証実験

洗濯機のような形をした水素製造装置(左端)。その右隣にはガスを車に送るポスト型の充?装置がある=埼玉県庁

FCVの普及には、水素ステーションの設置が欠かせない。環境省の委託を受けて埼玉県庁とホンダは、共同でステーション開発の実証実験を行っている。実験中のステーションは、駐車場の屋根に設置した太陽光発電と水道水のみで水素を製造する画期的な仕組みだ。課題とされる水素の確保について、その場で製造・貯蔵できる【写真】。さらに、実験で使うFCVは電気の外部供給装置を乗せ、非常用電源としても使用可能。一般家庭の約6日分の電力を補うことができる。実証実験でFCVを日常的に使っている県職員の評判も上々。

太陽光発電と水道水で製造した水素ガスを貯蔵するタンク=同

開発に携わるホンダの技術者によると、県庁のステーションは一般家庭にも設置できる。米国では小型ステーションを家庭に設置して使う実験が進行中だ。ただ、日本では大量の水素ガスを家庭で扱うことは“法の想定外”。普及には安全性を確保しつつ柔軟に規制を緩和する必要がありそうだ。

水素ステーションを住宅街に設置する場合、周辺住民の理解が不可欠。県担当者は「適切に管理すれば危険性は低いと住民に伝えることが重要。コマーシャルだけでは分からない安全性を自動車メーカーは積極的に伝えてほしい」と話す。行政と企業、住民間の信頼関係がなければ、FCVの普及は進まない。FCVの利用実験は同県以外でもさまざまな形で実施されている。そこで得られた安全性などに関する知見を幅広く発信することが求められている。

アルカリ型を医療現場に


東京工業大教授

山口 猛央氏に聞く

―FCVの普及に向けた課題は。

水素の供給・使用と電池自体です。水素ステーションの拡充は重要ですし、自動車に積む水素ボンベ(高圧水素容器)の低コスト化も重要です。自動車だけでなく、スタンド、エネルギー供給など、全体を進めなければなりません。

燃料電池としては、白金の使用量を低減することです。白金はガソリン車にも数グラム使われていますが、FCVは1台当たり50グラム以上と多い状況です。しかも1グラム当たり5000円程度と高価です。FCVの普及で価格は、さらに高騰するでしょう。燃料電池の改良で、白金の使用量を10グラムまで下げることが課題です。水素イオン(電気を帯びた微粒子)を通す「電解質膜」も水の管理が複雑でシステムが高価となるため、新しい材料が必要です。

―「アルカリ型」の燃料電池の研究をされていますね。

アルカリ型燃料電池の利点は、白金だけでなく、金属なら何でも触媒に使えます。白金触媒では、燃料として水素を使う以外に方法がないのですが、アルカリ環境なら、さまざまな液体燃料のための金属触媒が開発可能です。

アルカリ型なら液体のアンモニア燃料なども使用できるため、気体のボンベや水素スタンドも要りません。2030年ごろから燃料電池車にアルカリ型を使うことを想定しています。

―燃料電池の将来性をどうみますか。

自動車、家庭用以外に新しい可能性もあります。医療分野で私が考えているのは、リハビリ用の介助ロボットに付けるバイオ燃料電池です。

足を骨折した高齢者は寝たきりになるケースが少なくありません。お年寄りの体の動きを支援するロボットの動力源として、人体に無害な砂糖を使えるバイオ燃料電池を導入すれば、寝たきりになるのを防ぐことができます。

やまぐち・たけお
東京工業大学資源化学研究所教授。工学博士。著書に『マイクロ燃料電池の開発最前線』など。

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