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もうからなくていい?「兼業ネットメディア」の可能性

ネットメディアの世界では、ローコストで記事を拡散することを狙い、ヒット記事を「パクる」ことが問題視されつつあるが、ネットメディアが自ら記事を作ることにはどんなメリットがあるのだろうか。手間ひまかけて記事を作ることは、ビジネスとして成り立つのだろうか。各地の地域情報をネットで発信する「みんなの経済新聞」ネットワークで、「品川経済新聞」と「和歌山経済新聞」を手がける編集プロダクション「有限会社ノオト」の宮脇淳代表が語った。

ネットと足で稼いだ「1次情報」に力を入れる

ノオトは、インターネットを中心にメディアや広告記事の企画・編集などを行っており、主力事業は、企業のオウンドメディアのコンテンツ制作や、SNSの運営代行といった企業からの受託業務だ。「品川経済新聞」は、受託業務ではなく、自社独自のメディアとして位置づけている。「品川経済新聞」はどんなメディアなのだろうか。
「品川経済新聞」は、「みんなの経済新聞ネットワーク」の1つで、26番目の媒体として、ノオトが2007年4月に創刊しました。私が編集長で、社内記者3人とデスク1人とともに、広域品川圏の情報を発信しています。読者層は地元在住・在勤の20代〜40代の男女が中心ですね。
PR・コンサルティング会社の株式会社花形商品研究所が2000年4月に創刊した「シブヤ経済新聞」を皮切りに、全国各地で同様の「経済新聞」が創刊され、ネットワークが形成された。ビジネスからカルチャーまで多彩な地域ニュースをネットで発信している。事件・事故は記事にせず、ハッピーニュースを扱う点も大きな特徴だ。現在、国内で90紙、海外で9紙がニュースを発信している。
品川は東京の中でも広いエリアで、大きな商店街もあります。ニュースは地元密着で、個人経営の店舗などに注目しています。ネットの話題にも敏感で、例えばiOS6の地図で品川駅が消えたネタも扱いました。大手新聞が気づかないニュースを見つけるようにしています。
ネタは、ネットで見つけたものと足で稼いだ情報が中心だ。いずれも「1次情報」を手に入れることに力を入れており、「品川経済新聞」が発信したニュースをテレビやラジオが取り上げることもあるという。

写真が切れていてもヒットした「おっぱいラーメン」

では、どんな記事を出しているのだろうか。ヒットしたニュースの1つが2013年1月に出した「おっぱいラーメン」だという。
武蔵小山で元グラビアアイドルの店主が出している「おっぱいラーメン」の記事がヒットしました。ラーメンバーの記事なのに、ラーメンの写真が見切れていて、胸の谷間にピンがあっているのがネットで受けたのです。4700を超えるフェイスブックの「いいね!」が集まりました。
話題を呼びそうなネタだけでなく、地味なニュースでもヒットすることがあるそうだ。
五反田の「立ち食い寿司」の店が、和式便所を洋式に改装したことをニュース記事にしました。大将の「ようやく座れる席ができた」という言葉がサブタイトルになっています。ガード下の店で、管理しているJR東日本との契約上、改装ができなかったのですが、契約変更でオープンから22年後にようやくできるようになったそうです。トイレ1つからも、その店のストーリーが見えてきます。
このネタは、宮脇氏が街を歩き、この店に通い、トイレに入って手にいれたものだ。街の人間模様を発信している。

収益性の低い事業にリソースを投入する理由

宮脇氏は「1次情報」を見つけることに力を入れているが、それだと手間がかかってしまうのではないだろうか。そこには、受託事業という別の収入源を持っていることが背景にあるという。
最近は、バイラルメディアだとかキュレーションメディアだとかを名乗って、平気でテキストや画像を丸コピーして自サーバーに保存するような不届きなメディアが急増しましたが、コピペ記事を量産して何が楽しいんでしょうかね? 私自身、ネットメディア単体で利益を出すことは全然考えていません。これは、「みんなの経済新聞ネットワーク」のほかの新聞も似たような考えじゃないかと思います。ネットでニュースを出しても、残念ながらたいしたお金にならないんですよね。広告はかなり価格を下げないと売れませんし、新聞のような宅配システムによる実売利益がありませんから。
別の収益源があって、「兼業メディア」であるからこそ、仕事は意外な方向に広がる。「兼業メディア」に自社のリソースを投入する狙いは、金銭的な利益ではなく、別のところにあるというのだ。
あくまで弊社の場合、「品川経済新聞」は新入社員育成の機会として位置づけています。いかに情報を集めて取捨選択するのかという訓練ですね。電話の取り方や、名刺交換といった基礎的なことを学ぶこともできます。うちは小さな会社なので、大企業のように専門的な研修をすることができません。受託業務では手痛い失敗は許容されませんが、「品川経済新聞」でミスしても次への糧にすればいい。平日1本の記事を必ず出しています。新米記者にとっては、まさに「修行」ですね。
「新入社員の教育効果」以外にはどんなメリットがあるのだろうか。
収益源である受託業務を拡大するためのきっかけにもなります。営業という形で出向くと、なかなか話を聞いてもらえませんが、取材ということであれば顔をつないでもらえます。ざっと、年間200人くらい知り合いが増えるといえば、なかなかインパクトがあるでしょう。顔が売れると、他の仕事につながることもあります。
「品川」で生かしたノウハウを生かして、宮脇氏の出身地でもある和歌山県でも2013年10月、自らを編集長として、「和歌山経済新聞」を創刊した。こちらは「品川」と異なり、社内記者はゼロ。和歌山でコワーキングスペース「コンセント」を運営する2人の副編集長と、和歌山在住の外部記者5〜6人で日々のニュースを発信している。
「和歌山経済新聞」は、地元の若者を後方支援するボランティア事業として位置づけています。全国への情報発信を強化するとともに、地元にあるコワーキングスペースが地域活性の中心地としてより活性化していけばいいな、と。さらに会社としては、将来的な業務拡大につながる可能性も視野に入れています。今のところ、若干の広告収入はありますが、サーバー代できれいに消えてしまっていますが。
さらに、ネットだけでなく、リアルなイベントも仕掛けている。
「品経文化センター」というイベントをこれまで9回開催しました。テーマは、品川の新駅誕生による街の変化や、品川のご当地キャラビジネス論など、多岐にわたります。さらに、ノオト設立10周年の節目に会社を移転し、五反田にコワーキングスペース「CONTENTZ」を開設しました。リアルな場に人が集まることで、新しいビジネスの可能性を模索しています。
宮脇氏の話からは、とにかくPVを稼いで広告収入を得る「専業」のネットメディアとは異なる方向性が見えてくる。個人や組織が情報を発信することが容易になってきた中で、「兼業メディア」にどんな可能性があるのか、様々な模索が続くことになりそうだ。(編集・新志有裕)

※「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第13回討議(14年8月開催)を中心に、記事を構成しています。

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