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逆転しつつある「オバマ」と「ブッシュ」の評価

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 政治指導者の評価は、相当な時を経ないと定まらないのだろう――。オバマ米大統領は9.11テロから13年目の日を前にした演説で「イスラム国」打倒を国民に誓い【Statement by the President on ISIL, The White House, Sept. 10】、ついにシリア国内への空爆作戦に踏み切った。先月の当レビューでも述べた通り、イラク国内から始まったこの軍事再介入が簡単に終わると思っている専門家はいない。地上軍投入もささやかれ出した。

大統領職失格者

 有力な米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』最新号は、ここに至るまでの約2年のオバマ大統領のジグザグコースをたどる特集記事を載せた。その2年をブッシュ前大統領の任期最後の2年と比べ、これまでの2人の評価を逆転させている。記事は、同誌の主筆で最高経営責任者(CEO)デビッド・ロスコフが来月出版する本からの引用だ。【National Insecurity, Foreign Policy, Sept./Oct.

 そこに描かれるオバマは、シリアの毒ガス使用について、記者団との懇談で不用意に「越えてはならない一線」(red line)を口走り、いざその「一線」がアサド政権に乗り越えられてしまうと、1人では対シリア軍事行動に走れず、キャメロン英首相の同道に頼る。キャメロンが英議会に肘鉄を食らわされ開戦への参加は不可能と分かると、今度は米議会に開戦決断の下駄を預けるが、議会とろくにコミュニケーションも図れない。明らかに大統領職失格者だ。

 これに対し、ブッシュ前大統領は任期最後の2年に、世論の批判も恐れず、イラクへの兵員増派を決断して、撤兵に向けてイラク情勢を安定化させた。深刻な金融危機に直面すると「果断な」対応をとり、その後の危機早期脱出への「多大な貢献」をした、とロスコフは評価する。

 オバマは対シリア開戦について議会に下駄を預けることを決めた時、側近らを集めて宣言した。「うまい考えを思いついた。君たちがしっかりやってほしい」――。一同口あんぐり。これに比べ、ブッシュは決めたことの実現には自ら身を粉にし、難局にあっては常に側近を励まし、未曽有の金融危機では、取り乱す閣僚の1人の両肩に手をかけてなだめる姿が、周りを感動させた。ブッシュ・オバマ両政権で要職に就いた元高官は「あの場面にいたならば、誰でもこの人物こそ大統領にふさわしいと思っただろう」と打ち明けている。

 特集記事に描かれるライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の対外折衝でのわめき散らしぶりにも、あきれる。シリア問題での折衝では、欧州の雄ドイツのホイスゲン首相補佐官をして「こんなひどい会談を経験したことはない」と言わしめ、ライスは対独折衝には出られない状態だという。

理想主義外交の舞台裏

 ノーベル平和賞まで受けたオバマの理想主義外交の舞台裏はこんなひどいのかと絶句していたら、フォーリン・ポリシーの先輩格の外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』最新号も、ウクライナ問題でいかに米国と欧州が対応を誤り続けてきたかを描くリアリスト(現実主義派)の重鎮ジョン・ミアシャイマーの論文を載せた。あくまでも大国間のパワーゲーム重視の現実主義の立場からだが、これもオバマ政権のウクライナ政策への厳しい批判となっている。【Why the Ukraine Crisis Is the West’s Fault, Foreign Affairs, Sept./Oct.

 ミアシャイマーは、そもそも冷戦後のクリントン政権時代に北大西洋条約機構(NATO)の加盟国を東方に広げ出したことに問題があった、と論じる。少なくともロシア側はNATOを拡大させないことで米欧側と暗黙の了解があったと思っている(この点は、今月の論壇の焦点であり、のち詳述)。冷戦期「封じ込め政策」の立役者、故ジョージ・ケナンはNATO東方拡大が始まったとき(1998年)、「悲劇的な過ちだ。こんなことをする理由が分からない」と強く警告した。

 まずもって「大国はその本土近くに脅威がうまれることにいつも敏感」。これは地政学のイロハのイだとミアシャイマーは論じる。もし中国がNATOのような軍事同盟をつくってカナダやメキシコを加盟させようとしたら、米政府は激怒して当然だ。

 それなのに、欧州ロシアを担当するヌーランド国務次官補(局長級)は、冷戦後これまでウクライナ民主化に50億ドル(約5000億円)をつぎ込んできたと豪語し、米政府系の民主化基金のトップが「ウクライナの欧州連合(EU)加盟が実現すれば、プーチンに代表されるロシア帝国主義の死が早まる」と発言する。ロシアを刺激するばかりだ。今年2月に親ロシアのヤヌコビッチ大統領が追放されたときには、ヌーランドはマケイン上院議員と一緒に反政府デモに加わっている。やり過ぎだ。

 ウクライナ危機の解決には、(1)米欧はウクライナをNATOとロシアの間の「緩衝地帯」化する(冷戦期のオーストリアがモデル)(2)米EUと国際機関にロシアを巻き込んでウクライナ経済復興を図る(3)米欧が率先して少数派ロシア人の権利をウクライナに守らせる――といった措置が必要だと、ミアシャイマーは提案する。

 米国にとって、アフガンからの米軍撤退、イラン核開発問題解決、シリア安定化などロシアにお世話になる課題は山積だし、興隆する中国の封じ込めに、いつかロシアの手を借りることになる。ロシアとの関係改善に向け、ウクライナで譲るべきだという、まさに現実的な提案だ。

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