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横手慎二『スターリン』

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 本書でスケッチされた(権力者となる前の)スターリンのキャラクターは、ぼく自身に重なる部分をたくさん見出す。そして、コミュニストとしていろんな活動家を身近に見てくると、「ああ、スターリンのこの部分って、身近にいる○○さんみたいだな」と思えるのである。

 たとえば、本書では、スターリンの蔵書についての記述がある(144~147ページ)。

 スターリンが蔵書の分類を秘書に指示している文書(1925年)があるのだが、その分類をみるとスターリンが何に関心をもっていたのかがわかる。そして、数万冊の蔵書のうち、明白な読書痕跡のある400点を調べると、その関心の角度も見えてくるのだという。

この指示は、スターリンの蔵書がきわめて実務的性格を持っていたことを示している。また同時に、彼の関心が非常に広かったことを示している。明らかに彼は、国家統治に関わるあらゆる分野に通じたいと考えていた。さらに言えば、高等教育を受けていなかった彼は、まさに独学で、役立つと思われる知識を貪欲に吸収していたのである。(本書p.146)

 米研究者・タッカーのスターリン伝で、スターリンが権力者となって以後の1930年代から急に知識をひけらかすようになったとしているが、横手は蔵書の存在を指摘してこの研究を批判している。

この主張は一面的である。スターリンはどう見ても権力者になる以前の時期から、人文・社会科学の広範な領域での当時の専門的知識を求めており、高度な書物を読むだけの知的能力を発揮していたからである。ただ、彼の場合にはあくまで実践的姿勢が優勢で、抽象的な論理に終始する理論的著作を読む知的訓練(高等教育)を受けていなかったというのが実情に近かったと思われる。彼が原理的演繹的に考えることを得意としたトロツキーやブハーリンに知的劣等感を抱いていたすれば、おそらくこの程度のことであった。(本書p.147)

 ぼくは「高等教育」は受けたものの、大学の先輩たちのひそみに習ってマルクスやエンゲルスをいくらか読んだ程度であった。むしろ社会人になってから実践的必要に迫られて読書をして、そのことが自分の身についた武器となり、思考の道具になっている。マルクスやエンゲルスもそれから再読した。大学時代に一度読んでいたことは、一つのアドバンテージになったのではあるが。

 実務のための読書は、実務に本当に必要な狭い範囲だけで終わることが多い。

 しかし、実務から分け入って近辺の領域までを踏破する知的作業は、小さな体系を頭の中につくりだす。ちょっとした眺望や俯瞰といったようなキモチよさを得られる。そしてそれは自分にとって「得意分野」となり、自信となる。そうしたものが積み重なって普遍へと迫っていく――本来これは、大学の一般教育・教養課程が採用している方法論である。専門教育を少しばかり深く立ち入ってみることを、何種類も重ねることで、自然観や社会観といった普遍的なものを鍛え上げるという、アレである(実際には、浅薄なガイダンスにとどまってしまう場合がほとんどであるが)。

 スターリンがその結果どのような知的水準に達したかはホントのところはわからないが、後でみるように、課題となった実務を徹底してとりくむ彼の集中力から考えれば、とりくんだ問題について、相当な鍛練が積まれたのではないかと想像する。

 ぼくの周囲のコミュニストでも、高卒であったり、偏差値ランク上は大したことのない大学の出であっても、こうした実務の必要から読書などの知的経験を重ねて、相当なレベルに達する人を知っている。

 このような、権力者になる前のスターリンのキャラクターに親しみを覚えてしまうのだ。「こういう人、身近にいるいる」みたいな。

 インテリ左翼が「革命がおきれば民族問題なんて解決しちゃうさ」みたいな感じでほとんど重きをおいていない時代に、自分の体験や現場感覚から民族問題を重視し、そのための理論的方向付けを生み出していたのがスターリンだと、横手は言う。「民族問題や組織問題に詳しい男」として頭角を現してきたのがスターリンなのだろう。

以上述べてきたように、コーバ〔「スターリン」を名のる前の変名〕からスターリンへと変貌していくヨシフ・ジュガシヴィリは、客観的に見れば、ひたすら現実の運動に集中することによって将来のソヴィエト・ロシアの統治者となるための基本的素養を蓄積していた。付け加えておけば、このような彼の方が、現在のロシア人の多くにとって、当時の最先端のヨーロッパ的教養を持ってロシアに社会主義革命を実現しようとしていた人々よりも、はるかに身近で、理解しやすい存在なのである。(本書p.93)

実務への集中力

 「こういうコミュニスト、身近にいるいる」パターンでもう一つ言えば、今述べた、実務や課題への集中ぶりがあげられる。

 スターリンが裏方の実務屋であったことは、すでに前から言われていることだが、革命運動において実務をこなすということは、「官僚的機構・システムの歯車となって右から左へ指示を忠実にこなす」ということではない。

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