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国と企業が支援する海外留学奨学金で、留学生は倍増するか - 若松千枝加

文部科学省が官民協働で推進中の海外留学推進プロジェクト『トビタテ!留学JAPAN」の一環として、9月5日と9日の2日間にわたって 『トビタテ!留活フェア』 が開催された。このプロジェクトでは、直面する日本のグローバル化に対応すべく、海外留学渡航者数の倍増を目標に、民間企業からの支援による奨学金制度も実施される。

筆者は個別留学相談を受ける留学カウンセラーの立場として同フェアに参加した。本記事では、相談に訪れた学生たちの声を踏まえて、同プロジェクトの価値と今後の在り方について考察したい。

■『トビタテ!留学JAPAN』とは?

まず「トビタテ!留学JAPAN」の概要について触れておこう。

「トビタテ!留学JAPAN」 公式ホームページでは同施策を、日本の若者を日本と世界で活躍できるような人材として育てるべく、官民協働のもと社会総掛かりで取り組むプロジェクトであると説明している。支援団体として名乗りを上げている民間企業はソフトバンク、三菱商事、TOYOTA、東進ハイスクール、NTTグループなど87社(2014年7月31日現在、公式HPに記載の企業)。これら企業・団体からの支援により 『トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム』 なる奨学生が応募学生から選ばれ、その第一期生323名はすでにこの夏から日本を飛び立っている。

9月5日に同志社大学で、9月9日に明治大学で開催された 『トビタテ!留活フェア』会場 では、その『日本代表プログラム』 第二期生募集についての説明会も行われた。私が参加した9日/東京会場での説明会にも多数の学生が参加し、およそ200名~300名ほど座れる会場はほぼ満席。 説明会は同日2回行われたので、この日一日で500名ほどは参加していたのではないかと思う。

■留学に向けて考えを大きく変えた日本政府

この奨学金の最大の特徴は、学位にこだわらなくてもよいことだ。一般に公開されている多くの奨学金は、大学や大学院で単位を取得し学位を得ることが前提となっている。その点 『トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム』 ではインターンシップや新興国での実践的トライアルなど、フィールドワークを伴う海外活動も「留学」と認め、研修費用を支給している。

これは、文科省の取り組みとしては歴史的に画期的なことと言える。文科省は毎年、「日本から海外への留学者数の推移」を発表しており、平成26年に文科省が集計し発表した同資料では平成11年の留学渡航者数は57,501人。この5万人は、学生ビザを保有し高等教育機関に在籍する日本国籍保有者の集計である。学生ビザを持たずに渡航する短期の語学留学生や、インターンシップビザを取得しての就労体験研修、ワーキングホリデー、海外での経験的ボランティア、などは含まれていない。すなわち、過去、文科省における「留学生」とは、「学生ビザ」をとって大学・大学院・高等職業訓練機関へ進学する人というのがその定義であったのだ。

しかし、学生ビザ保有者以外を含めた留学生の実態数は5万人をはるかに超える。ビザ発給数で単純に計測できないがために、その総数を正しく算出することは困難なのであるが、いくつかの機関・団体が試みた留学生総数予測では、2011年1年間でおおよそ18万人~20万人とも推計されている。そして文科省も、このプロジェクトで従来の掟を破り、大学・大学院進学者以外も留学生と認識。 「奨学金の対象者にしようじゃないか」 という大きな一歩を踏み出したのだ。

■留学生を「倍増」させるには?

さて、『トビタテ!留活フェア』に話を戻そう。同説明会では、国はこのプロジェクトを通じて「留学生を倍増させる」と、はっきりと述べていた。大きな課題はここからだ。

会場内で留学相談に訪れた多くの学生は、全員がすばらしく優秀で意欲にあふれていた。将来を真剣に悩み、そのために今、一生懸命に動きたいのだと言う。そして、一部の経済的課題を抱える学生を除いて「この奨学金プログラムがなくても留学するつもりだった。奨学金選考から漏れても留学する。」とも言っていた。

そう、彼らはこのプロジェクトがあろうとなかろうと、もともと留学する気だったのだ。留学生を倍増させたいのなら、留学する気のなかった学生に火をつけなければならないところだが、このプロジェクトは今のところ、もともと優秀な学生をさらに優秀にしているという側面が強い。むろん、私ひとりが話を聞いた学生の意見=来場者全員の意見ではない。 私の雑感が、全体を表しているとは断言できない。 しかし、私以外の留学カウンセリングスタッフ数名も、それぞれの相談内容を通じて類似の感想を持ったようだった。

ある都内大学の国際交流部門関係者はこう語っていた。 「留学に興味があるだけでは、学生は国際交流課まで足を運びません。 ドアを叩くまでには、大きなハードルがあるんです。 友達の目も気になるから、学内で私と顔を合わせても敢えて知らないフリをする学生もいるんです。」 と。 夏期休暇中にも関わらず留学フェア会場を訪れる学生というのは、ほんの一握りだということに、私たちは改めて気が付かなければならないのである。

会場で言葉を交わした文科省のプロジェクトスタッフも、これは留学を啓蒙するエヴァンジェリスト育成の機会であると口にした。奨学金の出所が支援企業の財布なのだから、いずれ日本産業に貢献するエリート人材がおのずと対象になるのも理解はできる。

しかし、それで留学生は「倍増」するのだろうか。巷には「はたして倍増させるべきかどうか」という根本に関わる議論もあろうが、とにかく、文科省は「倍増させるぞ」と断言している。それが本気なら、エヴァンジェリストは本当にエヴァンジェリストたる存在になるのか、その他大勢の学生の気持ちを推測してみることも、ある時点で必要になるのかもしれない。

《関連コラム》
■ 海外で学んだ。帰国した。仕事はありますか?
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留学ジャーナリスト 若松 千枝加

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