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【特別寄稿】慰安婦問題の現状と安倍新内閣におけるこれからの対応 - 元外交官・東郷和彦

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私の見るところ、改造安倍内閣の対外関係で、この問題はいよいよ正念場を迎える。2007年以来述べている考え方に基づき、以下の点を提言したい。

第一に、この問題は、日韓関係においても、日本と世界との関係においても様々な日本にとって望ましくない事象を引き起こしている。全体の根源を断ち切り、日本にとって今後この問題が不要な政治問題化しないように対応する方策は一つしかない。それは、今韓国で生きている約50名の慰安婦の人たちと和解に達することである。この問題について韓国で最終的に絶対的な権威をもって発言しうるのは、この人たちだけである。この人たちとの和解こそ、必須である。最近筆者が韓国の関係者と議論している中で感ずるのは、慰安婦の人たちの心に沁みとおる気持ちの表明がまず必須であるということである。言葉にすれば3月14日の安倍総理の国会答弁で表現されるようなものを、いかにして表現するかであると思う。もう一つは具体的な行動であり、それはアジア女性基金で民間からの拠出によってまかなった償い金を政府予算で拠出することを核とするスキームを考えるということだと思う。以上の二つの和解の枠組みをつくるには、安倍政権としての明示的な行動とともに、朴大統領以下の韓国側の全面的な共同行動が必要である。韓国政府との協力なしに、和解は成立しない。

第二に、もしもこの人たちとの間で和解が成立しなかった場合には、韓国市民社会でこの問題の言わば「代表権」を持つのは、韓国挺身隊問題対策協議会(挺隊協)の方々である。筆者の見るところ、この市民団体は、植民地時代に日本帝国主義がなした悪の象徴として慰安婦問題を位置づけ、これに対する日本の反省と責任を、法的責任と犯罪性の受任という形で認めない限り和解はあり得ないという信念に立つ団体である。加えて、アジア女性基金が提示した謝罪を受け入れた61名の慰安婦の方々が韓国の利益を裏切ったとして、韓国社会から排除するという極端な行動をとった人たちである。この人たちがこの問題に関する決定権を持ったなら、慰安婦問題はほぼ永遠に解決しないことになる。

第三に、アメリカをはじめ世界各地で作られている慰安婦像の問題にどう対処するかの問題がある。この点は各国の内政の問題ともからみ、極めて複雑な問題となっている。しかし、世界で慰安婦像問題を推進している中心勢力は在外韓国人勢力であり、ただ今現在彼らと在外中国人勢力との連携が強化されるという状況にある。在外韓国人勢力が沈静化しない限り問題は解決しない。それには、ソウルと東京との和解という解決策しかありえない。

日韓関係は今歴史問題・領土問題を含む過去の問題によって、様々に引き裂かれ、大変難しい状況にある。けれどもその中で、もしも最初に解決を試みるとすれば、慰安婦問題ではないかと筆者には思われる。これは慰安婦問題の解決が容易だからというよりも、ほかの問題があまりにも難しいからかもしれない。けれども、同時に、今年に入ってからの一連の動きの中に、解決に向けての何がしかの動きが読み取れないでも無いように、見えるからでもある。朝日新聞の「虚偽報道」とその是正は、日本のジャーナリズムのあり方から考えれば大きな問題である。真剣に考えねばならない問題である。しかし、そのことによって、せっかく見え始めた慰安婦問題に関する解決の糸口をとざすことのないように、切に望みたい。
(2014年9月14日記)

プロフィール

東郷和彦(とうごう・かずひこ)
京都産業大学教授・世界問題研究所長。1945年生まれ。 東京大学教養学部卒業後、外務省に入省。主にロシア関係部署を中心に勤務し、条約局長、欧亜局長、駐オランダ大使を経て2002年に退官。その後、ライデン大学、プリンストン大学、ソウル国立大学ほかで教鞭をとり、09年ライデン大学で博士号。10年より現職。11年より静岡県対外関係補佐官。
主な著書に『Japan’s Foreign Policy 1945-2009』『北方領土交渉秘録』『歴史と外交』『戦後日本が失ったもの』『歴史認識を問い直す』、共著に『東北共同体からの再生』『日本の領土問題』などがある。(東郷和彦オフィシャルサイト:http://kazuhiko-togo.com

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