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虎の尾

 最近、文化行政関係で2つの大きなニュースがありました。一つ目が「日展が内部報告書を誤りと認めて撤回した」、二つ目が「日本芸術院会員選考に際して、日展審査員経験者を外すよう文化庁が要請」というものです。これだけでは何のことか分からないと思いますので解説します。

 日本の芸術界では、「上」に行こうとすると、日本芸術院を頂点とする非常に強烈なピラミッド構造があります(なお、そのピラミッド内にいないとダメだということではなくて、下記に述べる構造を忌避しながらとても良い作品を作っておられる芸術家の方はたくさんいます。)。

 簡潔に言うと、日展入選→特選→審査員・会員→日展理事→日展常務理事→日本芸術院会員→文化功労者→文化勲章みたいな感じです。日展は公益法人で、日本芸術院は文部科学省の特別の機関という扱いです。(終身の)日本芸術院会員になると、それぞれの分野で揺るがぬドンになります。

 この構造の中で出世しようとすると、日本芸術院会員を始めるとする「上」の方の覚えがめでたくないと無理です。そこにカネが絡んでいるというのは昔から言われてきたことです。なお、一般職の非常勤国家公務員である日本芸術院会員になるためにカネをばらまくのは、刑法上の贈収賄に当たるというのは先の国会での質問主意書で確認されていますが(ココ)、そんなこと当事者は意識したことがないはずです。

 そんな中、1年前に日展五科(書)の世界で、審査に際して、日展顧問(日本芸術院会員)による「天の声」があったとの朝日新聞スクープがありました。カネの絡みもあったとされています。それを受け下村大臣は「膿を出し切る」とまで言っています。

 それを踏まえて、日展は外部調査委員会を設けます。詳細は省きますが、第一次調査委員会では「天の声はあった」ということが認定されております。第二次の調査委員会では、書以外ではそういうことはなかったという結論になっています(私は第二次委員会の結論は疑わしいと思っていますが、それはここでは触れません。)。そして、上記引用の質問主意書にもある通り、それに対して政府は「遺憾である」と言っています。

 しかし、この辺りから風向きが怪しくなります。日展内部で「身内の大先生」を守ろうとする巻き返しの動きが強まります。6月頃に、それまでの外部調査委員会の結果を無視するように、日展は内部に独自の調査委員会を設置し(ただし、メンバー等不明)、「やっぱり、日展顧問による天の声はなかった」という結論を出します。要するに、外部調査委員会の結論を無き者にして、身内の大先生庇いを露骨にやったということです。日展総会後の記者会見では、内部調査委員会を主導したとされる日展顧問弁護士は「この結論には自信がある」と言い切っています。

 しかし、下村大臣はこの段階で不愉快そうな顔をしながら「今後の日展の改革は、外部調査委員会の報告をベースと考えている。」といった趣旨の事を言っています。日展は完全に下村大臣にケンカを売ったかたちになりました。

 ここまでが大まかな経緯なのですけど、その後、「どうなっていくのかな」と思ったら、冒頭の2つの記事が目に留まりました。恐らく、激怒した下村大臣主導で文化庁が日展にガツンとやったのだと思います。日展は内々で不祥事をもみ消そうとしましたのを「あの内部調査委員会は誤りでした」と言わされました。

 これだけでも相当なインパクトですけども、「日本芸術院会員選考には、日展審査員経験者は含めない。」という要請を文化庁が日本芸術院にするに至っては、下村大臣を頂点とする文部科学省が「膿」を出すために、ピラミッド構造を一旦ぶっ壊しに来たということです。日本芸術院令という政令では、日本芸術院会員については最終任命権者は文部科学大臣です。日本芸術院側は「特定の系列の人物だけを排除した選考は出来ない。」と表向きはやんわりと断っていますが、文部科学大臣がダメと言っている以上、日本芸術院が選考結果を上申しても任命してもらえないでしょう。

 日展という組織の中で出世していった先に、日本芸術院会員→文化功労者→文化勲章が見えてこないということになると、これまでのカネまみれの秩序は壊れていくでしょう。この「日本芸術院会員選考における日展審査員経験者排除」が恒久的な措置なのか、一時的な措置なのかは分かりません。理屈の上で考えていくと、なかなか恒久的にそうやっていくのは難しいのかなと思いますけども、一時的であったとしても相当なインパクトです。下村大臣のメッセージは「なめるな」でしょう。

 恐らく、今年の日展には文化庁の後援は付かないでしょう。文部科学大臣賞も出ないでしょう。きちんと改革が進まなければ、陛下の来臨を得ての日本芸術院賞(昨年度分は芸術部門のみ選考無し)もダメになるでしょう。

 思うに、日展にせよ、日本芸術院にせよ、内輪の論理に籠ってしまい聖域化してしまったのです。しかし、現代社会の中において、これまでのような不透明かつ不適切な慣行が続くことが許容されるはずもありません。もっと言うと、日本芸術院が国の機関であり、かつ日展が色々な意味で政府との関係の中で成立している以上、文部科学大臣にケンカを売って勝てるはずがないのです。

 本来、こうやって芸術の世界に政治が乗り出していくのは望ましいことではありません。しかし、そうせざるを得ないくらい今の日展や日本芸術院には問題があり過ぎます。さっさと改革を進めて、カネが絡まないようにすること、能力のある方が正しく評価されること、そういったことを実現してほしいと思います。そこまで行けば、政治の役割は終わりです。

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