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ガス料金規制撤廃への反対論 ~ 欧州ガス自由化に関する大和総研レポートからの示唆(その3)

先のブログ記事の続編。

 更に、レポート(2)のイギリス編では、「電気・ガス一括契約の家庭向け年平均請求金額と内訳」でサプライヤー(小売り)関連コストを深掘っている。そこでは『小売自由化をしても結果的に上流と小売部門での自然垂直統合化が進展し、電気・ガスの6大小売サプライヤー(小売事業者)の自然発生的な寡占状態により新規参入の競争状態が停滞し、請求金額も増加している』旨の分析をしている。

 サプライチェーンのアンバンドリングは、公平かつ透明な取引が確立され、6大小売業者の便益は高まったはずだ。上記の平均請求金額と内訳のグラフ(レポート(2)のp3の図表12)を見ると、2012年を2009年と比較すると、「卸売関連費用」以外は、7倍増の「営業利益」も含めて全て増加していることがわかる。特に、競争による低減効果を果たすべき「サプライヤー関連費用(=小売関連費用)」が25%も増加しているのは、アンバンドリングと小売自由化が電気・ガス一括契約の料金低減には寄与しなかったことを示している。

ガス調達が輸入LNGに限定された日本でガス小売自由化をしても、ガス調達力と小売基盤を持つ電力・ガス会社による寡占状態が自然発生することは容易に想定される。日本では、電力・ガス自由化をこれ以上進めてはいけない。そういう強い警鐘がこのレポートから発せられていると私は思う。 また、イギリスの規制当局による自由化の評価として、『スイッチングレート(消費者によるガス小売事業者の変更率)の上昇により競争が促進されたことを評価する一方で、料金オプションの不必要な複雑化、提供される情報の質の低さ、それに伴う小売業者への信頼性の欠如などの問題点も挙げ、消費者にとって市場が効果的に機能していないとの懸念を持つ』(レポート(2)のp5)、或いは『自由化から16年経過した現状として、依然として既存小売業者間では弱い競争状態にあるとの結論』(レポート(2)のp6)といったことなども記述されている。

 仮に、消費者の小売事業者を変更する割合(スイッチングレート)が高まったとしても、それは自由化の究極目的であるガス料金低位安定のための手段の一つに過ぎない。その手段自体が評価されていても、消費者への小売コストが結果的に下がっていなければ何ら実益はない。むしろ有害なのだ。

 規制当局の次なる一手は、6大小売業者のグループ分割との“飽くなき分割の連鎖”なのであろうか。全面自由化により競争は見られたが小売コストは低減せず、料金メニューの複雑化や小売事業者の見極めなど特に家庭用消費者にとっては自由化前よりも取引コストが高まった、と私は読み取った。

 事業者は、自由化すればするほど競争上の地位を確保するため、自社に都合の良い最低限の情報しか提供しない。これは当然のことであり、これにより消費者に対する透明性は後退する。 レポートでは『伝統的な既存顧客と新規市場でのアクティブ顧客という2種類の顧客に市場が分断されている状態にあるため、小売業者間では潜在的かつ戦略的に緩やかな価格設定を行う“コーディネーション”が存在する可能性があること』、『市場が分断されていることにより、アクティブ顧客の圧力を受けるよりも、伝統的な顧客を中心に事業を行う小売業者が多く、緩やかな垂直統合による参入障壁に安住していること』(いずれもレポート(2)のp6)としたイギリスの規制当局の報告書として、“事業者による市場選別”との重要な視点を紹介している。 寡占事業者の意のままとなる”大人しい大多数の伝統的な既存顧客”は、自由化の恩恵の”蚊帳の外”となることは必然的な帰結であり、私としては”レポートの胆”として日本への大きな示唆と受け止めた次第である。

 規制機関による自由化に関する事後的評価と、それに基づく後追いの是正命令は、挙証に限界のある競争分析に係る規制コストの増大はもちろんのこと、是正されるまでの間に消費者不利益を増幅させることになる。『規制機関による自由化のレビュー・システムは、自由化を成功させる上では、重要な仕組みとなっている』とレポートは結論づけているが、果実の見込めない自由化に対す”モグラ探し・叩きの無限地獄の陥穽”に嵌り、最後のモグラを叩いた先には、実態的に自由化前への”先祖返り”になると危惧せざるを得ない。 レポート(2)の中で、自由化しつつ規制料金を維持する国に関するものであって、私が強い関心抱いたのは次の諸点だ。

〇規制料金が残る国では、料金メニューの多様化で契約や請求項目が複雑化し、料金の透明性が低下する点から、家庭では料金水準が不安定な自由化料金よりも、安定している規制料金を選択する傾向がみられる。規制料金が残るため、新規参入業者はコスト低減に係るインセンティブが減殺されるとの指摘もある。

〇フランスでは、産業用と家庭用で規制料金と市場料金が併存しており、特に家庭向け市場ではガスを契約している家庭全体の81%が規制料金を選択しているという。規制料金は市場料金と比較すると高く設定されているが、規制当局がチェックする規制料金に需要家も問題視していないものとみられる。

〇イタリアでも家庭用に規制料金が残っており、その販売比率は81%(2012年)。家庭向けの料金では2010年より“規制料金<自由料金”と逆転し、その平均差額は拡大傾向にある。 本来はフランスのように、規制料金は市場料金に比べて高く設定されて然るべきであり、イタリアの規制料金が、コスト割れをした料金設定であれば問題であり、その追求が待たれる。
そうでなければ、新規参入者に利幅の薄い家庭販売市場でのコスト低減インセンティブは期待できない、と私は考えている。 

それでもフランスの家庭全体の8割が、規制当局がチェックしている安心感から規制料金を選択しているようであり、イタリアのように自由料金が規制料金よりも高く、かつその差額が拡大する現象は、家庭用におけるガス自由化自体の意義を問われるべきだろう。

 小売を自由化しても、家庭消費者の大多数が規制料金を選択するのは、「中途半端な消費者の選択と競争では向上しない新規参入者に対する信用の欠如」や「新規参入者の料金適正性の判断基準として規制の関与による上限価格としての安定と安心のコスト」などを踏まえた当然の結果だということだ。家庭消費者は、ガス料金には「自由化の価格リスク」ではなく「安心できる価格」を望んでいるのだ。 

家庭ガス市場は利幅が薄く、新規参入者には大多数の家庭消費者に対してそのコストを更に削った廉価な料金提示して獲得するインセンティブが少ないことから、規制料金がプライスリーダーとなることは明らかだ。万国の家庭消費者にとっては、「規制料金の選択肢は奪われたくない」ことは共通の意識であろうし、当然に日本でも同じである。“料金規制による規制料金の歯止め”を撤廃すると、生活必需の財であるガス料金は、早晩、寡占価格による上昇は防ぎようがなくなる。だからこそ、家庭消費者に関するガス料金規制は維持されるべきなのだ。

【関連記事】
ガス料金規制撤廃への反対論 ~ 欧州ガス自由化に関する大和総研レポートからの示唆(その1)
ガス料金規制撤廃への反対論 ~ 欧州ガス自由化に関する大和総研レポートからの示唆(その2)

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