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ギャンブル依存症4.8%が、如何にいい加減な数字かということ

現在、日本で使われているギャンブル依存症の判定スケールが、いかにいい加減なものであるかという事が、如実にわかるような調査結果が出てきて、眩暈がしております。


精神神経学雑誌 第116巻第6号
パチンコ・スロット利用者における病的賭博者の特徴とソーシャルサポート―インターネット調査による分析―
https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=abst&vol=116&year=2014&mag=0&number=6&start=475


パチンコ・スロット利用者を対象としたインターネット調査を行った.対象は,パチンコ・スロットに週2回以上行く人250人,週1回または月1回程度行く人250人,合計500人である.病的賭博のスクリーニングに用いられる日本版South Oaks Gambling Screen(日本版SOGS)を実施するとともに,ギャンブル依存症の自覚の有無,サポートの必要性,サポートの有無とその内容について尋ねた.その結果,病的賭博者に該当するのは351人(70.2%),問題賭博者に該当するのは143人(28.6%)であった.病的または問題賭博者に該当するのは全体の98.8%であった.


上記論文を簡素にまとめると、以下のような結果です。

調査対象: 計500人
 うちパチンコ/スロットに週2回以上行く人 250人
 うちパチンコ/スロットに週1回または月1回程度行く人 250人

手法: 日本版SOGSによる病的賭博、および問題賭博の有症判定

結果: 被験者全体の98.8%を病的賭博、もしくは問題賭博と判定
 うち被験者全体の70.2%を病的賭博と判定
 うち被験者全体の28.6&を問題賭博と判定

なんか、この結果がさも正しいかのような感じで報告がなされていますが、正直申し上げるとムチャクチャな結果ですわ。被験者となったのは、月1回、もしくはそれより高頻度でパチンコもしくはスロットを遊ぶプレイヤー500人となっていますが、ここで我が国におけるパチンコ/パチスロファンのプレイ頻度分布をみてみましょう。


日遊協2012年ファンアンケート調査 来店頻度 8割前後の人が週1回以上
http://www.nichiyukyo.or.jp/gyoukaiDB/data/fun_questionnaire_2012.pdf

来店頻度は平均週2.7回(前回調査2.9回)で、低下傾向が続いている。「週2~3回」が24%(同25%)と最多。以下「週1回」23%(同21%)、「ほぼ毎日」17%(同18%)と続く。週1回以上来店する人が8割前後を占め、固定的なファンが多いといえる。高頻度の人は男女とも50歳以上の高齢層だが、全体に高頻度の人は減少傾向にある。


上記、調査におけるパチンコプレイヤーの来店頻度をまとめますと、以下のようになります。

ホールへの来店頻度の分布
 ほぼ毎日 16.7%
 週に4~5回 14.2%
 週に2~3回 24.3%
 週に1回程度 23.2%
 月に2~3回 11.6%
 月に1回程度 3.9%
-----------------------ここまで「月1回以上」 累計93.9%
 2~3か月に1回程度 1.6%
 半年に1回程度 1.7%
 1年に1回程度 1.5%

一応、月一回以上の頻度でプレイを行う層までに横線を引いておりまして、それらを合計すると全体の93.9%のプレイヤーがこの層に含まれていることがわかります。…で、冒頭でご紹介した精神神経学会の論集に掲載された調査結果に戻るわけですが、かの調査では月一回以上の頻度でプレイを行う層のおよそ98.8%が病的賭博、もしくは問題賭博であるとしているワケですから、パチンコファンのプレイ頻度分布に当てはめると全プレイヤーのうち92.8%(=93.9%×98.8%)が病的賭博、もしくは問題賭博であるということになりますね(*1)。すなわち、アナタがあるパチンコ店の扉を開けて、店内を見渡したときに目に入るお客さんは、見渡す限りほぼ全員が「病気、もしくはその一歩手前」であるということです。

…んなワケないでしょという話ですよ。

アンチ賭博だとか、アンチ朝鮮だとか、特定のイデオロギーをもって「パチンコ叩き」している人たちからすれば、この結果をもって嬉々としてバッシングを行うのでしょうが、そうでない冷静な判断のできる皆さんにはぜひ考えて欲しいんですよ。「店内のほぼ全員が病気か、病気の一歩手前」なんていう調査の結果が、現実を本当に反映しているのか。そして、こんな判定結果が出てしまう日本版SOGSという判定スケールが、が果たして正しく機能しているのかってことを。

これは以前のエントリにも書いた事ですが、この日本版SOGSというギャンブル依存症の判定スケールの問題点はずいぶん昔から指摘されています。SOGSはアメリカの精神医学会で提唱されているアンケート調査をベースにした有症判定手法なのですが、これを日本語訳をしてそのまま我が国で利用することに関してはすでに専門家側から様々な疑義が投げかけられているのです。以下、以前の私のエントリより引用。


「カジノ、日本人はNG」:厚労省に聞きたいこと
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8496215.html

例えば先述のよく引用される2007年調査で使用されたのは修正SOGSと呼ばれる依存症の判定手法なのですが、この推計手法は脳内物質の分泌量や脳波の計測を行なったりといったような定量的な判定ではなく、非常に定性的なアンケート調査のような判定方式を採用していることで知られています。例えば、SOGSでは、

「身内とギャンブルに関して口論になった事がありますか?」
「ギャンブル行為やその結果に対して罪悪感を持った事がありますか?」

といったような、回答者が属する文化的背景がその回答結果に大きく反映されてしまうような質問を投げかけ、YESの数を数えて有症判定がなされます。このような評価方法を使えば、伝統的に賭博そのものを「害悪」と考えているような文化圏における調査結果と、そうではない文化圏における調査結果には大きな開きが出てくるのは自明です。そして、この種のスケールによる判定結果は同一地域内における経年の傾向を追うには意味があるものの、異なる文化背景を持つ地域の傾向を相対比較するには適してないという事は、これまで多くの専門家が指摘し続けてきたことです。


そしてここで言われている日本版SOGSこそが、先日、厚生労働省調査班による調査として広く報道された「我が国のギャンブル依存症有症率4.8%」という結果を示した調査においても使われている調査スケールです。すなわち厚生労働省研究班と呼ばれる調査チームは、かねてより問題点が指摘されているような、どう考えても実態を反映しない調査手法を用いてギャンブル依存症の有症判定を行い、全国民の4.8%がギャンブル依存症の疑いがあるなどという結果を出し、そしてそれを国際比較して「日本人はギャンブルにのめり込みやすい」などという確定的な結論を導き出し、大々的に発表してしまったということです。

今回の報道が行われた直後、厚労省の担当職員が某所に呼び出され、その説明を求められ、また叱咤を受けたなどという話はすでに私の手元にも入ってきています。上記のとおり、このスケールには様々な問題があるワケですから、当然ながらそこから導き出された結論は正しくありません。その結果、先の厚労大臣による報道内容の全否定会見に繋がったとといえましょう。

一応の解決:厚労省「日本人カジノ、NG」の怪
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8513094.html

田村大臣閣議後記者会見概要

厚生労働省が日本人の国内のカジノ利用を認めないよう求めていく方針、及びギャンブル依存症536万人であると報道が一部流れました。これに関しての厚生労働省の見解でございますが、8月18、19日に一部報道機関で今申し上げたような厚生労働省がギャンブル依存症対策のために日本人の国内のカジノ利用を認めないよう求めていく方針であるという報道があったわけでありますけれども、そのような事実はございません。厚生労働省として、日本人のカジノ利用に対して否定的な意見を申し上げたことはないわけでございますので、そのように御理解いただきたいと思います。[…]


今回の研究班による報道発表は、あまりにも軽率かつ思慮の足りない事案であり、関係者は猛省の上で、特にその問題の原因となった日本版SOGSの実効性検証を早急に進めて頂きたいと思います。

*1)より正確な数字を出すにはもっと細かなプレイ頻度ごとの割り付けが必要ですが、現段階で出ている情報ではここまでが精いっぱいです。ご容赦ください。

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