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「F1走る魂」マクラーレンの未来ビシネスにぶったまげた

まるで宇宙ステーション

来年からF1世界選手権に復帰するホンダのハイブリッドエンジンを搭載するマクラーレンのテクノロジー・センター(英サリー州ウォーキング)を見学してきた。

ロンドンから電車で40分余。マクラーレン・テクノロジー・センターは森林地帯を切り開いて建設された未来の宇宙ステーションのようなイメージを漂わせている。

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マクラーレン・テクノロジー・センター。車は650S(マクラーレン提供)

床の白いタイルにはチリひとつ落ちていない。このセンターでマクラーレンのF1マシンは整備されている。整備工場というより精密機械工場、いや最先端の手術室という表現の方がぴったりくる。

シミュレーションを繰り返して3センチの誤差も許さないコース取りなどレース・プランを練る。現場のサーキットから送られてくるマシンとドライバーのリアルタイム・データを分析して戦略を瞬時に組み立てるオペレーション・ルームもある。

緻密なレーシングカー・エンジニアリングから最先端のビッグデータ解析まで、微塵の妥協も許さないF1のハイテクノロジーを活かして、このセンターではスーパーカーのP1と650Sが製造されている。

アジアで売れる1億円スーパーカー

センターにはベルトコンベアーもオートメーション化されたロボットもない。作業員が手作業で組み立てていく。

オールカーボンのP1は最高時速350キロ。時速100キロまで加速するのに2.8秒。世界限定で375台を生産する予定で、1日1台が製造されている。

1台のお値段は86万6千~100万ポンド(現在のレートで1億4900万~1億7200万円)なり。

新しく売りだされる650Sは19万5250ポンド(同3300万円)からで、1年間に1500台生産する計画だ。

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中国・上海でお披露目されたP1(同)

中国などアジア市場で売れ行きが好調なP1に助けられ、スーパーカーの製造・販売で昨年初めて黒字を計上。収益は前年比7%増の2億8540万ポンド、450万ポンドの純利益が出た。今年は5億ポンドの収益を見込んでいるという。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、ポルシェやフェラーリ、ランボルギーニのスーパーカーに対抗できるようにP1と650Sの中間モデルとしてP13 を35万ポンド(約6千万円)周辺の価格帯で発売する予定だという。

マクラーレン・テクノロジー・センターでは2018年までに年間4500台を生産するようになると予測している。

「安くて良い車」を大量生産する日本の自動車メーカーとは対極の「贅沢で希少価値の高い車」をつくるモノづくりの精神が息づいている。

マクラーレンの狙い

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ビッグデータを活用するマクラーレン(同)

実はマクラーレンの見学で筆者が予想していたのは上記のようなストーリーだった。しかし、F1からスピンアウトしたマクラーレン・アプライド・テクノロジー(MAT)社のマグラス副社長らのプレゼンテーションを聞いて驚いてしまった。

F1レースではエンジン、燃料、サスペンションなど詳細なデータをリアルタイムで分析し、戦略を立てる。ドライバーのバイオロジカル・データも収集している。最近、はやりのビッグデータの活用を昔から実践してきたわけだ。

マクラーレンはレーシング用の自転車も発売している。無知な筆者は愚かにも「レーシング用の自転車は高額かもしれないが、マクラーレンがつくっているスーパーカーの値段とは比べ物にならない。それなのに、なぜ、自転車をつくるの?」と質問してしまった。

担当者は「自転車市場が狙いではなく、自転車に乗る人に装着してもらう健康装置がカギなんです」という。将来は耳の下に小さな金属のボタンを貼り付けると、そこから血圧、脈拍、血中濃度など、さまざまな健康データがデータセンターに送られる。

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F1のシミュレーション・ルーム(同)

健康データは瞬時に分析され、それぞれのかかりつけ医に通知され、病気の発症予防に役立てられる。さらに製薬メーカーの製造計画にも活用される。マクラーレン・アプライド・テクノロジー(MAT)社はすでに英国の大手製薬メーカーと提携している。

F1から得た経験と技術は健康産業に生かされつつあるほか、世界で最も忙しい空港の1つ、ロンドン・ヒースロー空港の航空管制や、エネルギー会社の経営戦略を立てるのに活用されている。

MAT社は国際金融都市シティからデータ・サイエンティストやアナリストを次々とヘッド・ハンティングしているという。21世紀はまさに情報革命の世紀である。世界の最先端企業は、いかにして大量の個人データを集めるか、F1レースのようにデッドヒートを繰り広げている。

マクラーレン・テクノロジー・センターは汗や油の匂いも金属がぶつかる音、エンジンの轟音もまったくしなかった。清潔で無音の世界が広がっていた。しかし、そこには決して過去や後ろを振り返ることのないF1の開拓者精神がみなぎっていた。ホンダも妥協なき世界で技術に一段と磨きをかけてほしい。

(おわり)

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