- 2014年09月10日 09:00
【読書感想】日本の風俗嬢
2/2以前、身近な性風俗関係者に「10人面接に来たら、何人くらい採用?」という質問をしたことがある。
「求人で面接に来た女の子で採用するのは10人中、せいぜい3人くらい。外見で売り物になりそうなのが10人中4人、外見はよくてもコミュニケーション能力が低かったり、精神的に病んでいそうな女性は落とすから、それで3人。稼げる人気店はもっと厳しい。うちみたいなそんな稼げない普通のデリヘルはどこもそれくらいじゃないかな」(池袋のデリヘル店長)
「2~4人。半分以上は使えないレベルがくる。採用しても決められた日に来なかったり、時間通り来なかったりって女の子はすぐに断っちゃう。最終的に残るのは1人くらいかな」(歌舞伎町のデリヘル経営者)
このような話から推定すると、20~34歳までの女性の10人~15人に1人くらいは、風俗業界の経験者か、志望したことがある人ではないかと思われます。
先述した、「風俗で働く、どこにでもいる一般女性」の代表として、著者は「現役女子学生」を挙げています。
いきなり風俗じゃなくても、ホステスとかキャバクラ嬢みたいな「身体の接触なしでやれる水商売」で良いのでは……と僕は思ったのですが、著者は、それに対する答えもちゃんと書いてくれています。
ホステスやキャバクラ嬢は、お酒を飲めない人には難しい。よって、未成年では働けない。また、高度のコミュニケーション能力を求められ、拘束時間が長いし、時間の融通がきかない、ということで、短時間でコンスタントに稼ぐことは、風俗で働くよりも難しいのです。
そういう意味では、「学生生活を維持するために、まとまったお金が必要だけど、ちゃんと自分の勉強時間も確保したい」という、「真面目な学生」にとっては、心理的な抵抗さえクリアできれば「割の良いアルバイト」なんですね。
僕にとって衝撃的だったのは、「介護職のセカンドキャリア」として風俗嬢に転身する人がかなり多い、ということでした。
兼業女性の中で、これまで目立っていた職業は看護師、飲食店員、アパレル転院、美容師だった。また、6割が貧困レベルの生活を強いられていると言われるシングルマザーが多いのも特徴である。
性風俗に目立って人材を輩出している職業には、他業種と比べてなにかしらの深刻な問題を抱えていることが多い。看護師は命を預かる責任の重さが常につきまとううえに、女性ばかりの職場における人間関係で過剰なストレスを抱えがちだ。飲食店員、アパレル店員、美容師などのサービス業従事者の多くは低賃金であり、その収入だけでは人並の生活が出来ない。
そして2000年代後半以降、急激に増えているのが介護職員である。
全国各地で施設の介護職員や訪問介護員、ヘルパー二級や介護福祉士、ケアマネージャー(ケアマネ)の資格を有する女性が、今まで目立つ存在だった看護師や飲食店員、アパレル店員や美容師を抑えて、カラダを売る仕事に大量流入している。
「三年くらい前からサイトに募集広告を出すと7人か8人に1人くらいは、介護をしているって子が来るよ。給料が安くて一人暮らしなので苦しい、みたいなことをみんな言っているよね。でも介護の子は時間が限られていて、玉(タマ:外見)があまりよくないでしょ。断っちゃうことが多いよね。たまに介護している子が稼げちゃうと、介護の仕事を辞めてこっちが本業になるかな」(東京錦糸町デリヘル経営者)
介護職員は、シフト制で時間が不規則な仕事である。資格試験の受験に三年以上の実務経験が必要な愛護福祉士以外は、時給計算の非正規雇用が一般的で、フルタイムで働いても月収は15万~16万円にしかならない。親が低収入で仕送りの少ない地方出身の女子学生と同じく、普通に生活するのも厳しい金額である。正規雇用の介護福祉士になっても、月給は手取りで19万円程度。生活が厳しいうえに将来性のない、離職率の極めて高いワーキングプアの筆頭職種となっている。
(中略)
介護職員は、安月給で生活できない悩みから副収入の手段を探り、風俗の世界に足を踏み入れることが多い。全国的に人手不足の介護施設は、国家資格である介護福祉士を取得していれば、いつでもどこでも採用される。性風俗がだめになっても介護があるから大丈夫という保険があるので、大胆な行動がとれる。ダメになったら介護に戻ればいいという安心感が、性風俗の世界に積極的に向かわせるのである。この場合、介護業界のほうが「セーフティネット」として機能しているということになる。
「介護職」というのは、日本の高齢化にともなう「成長産業」ともてはやされ、多くの人が介護の世界に入ってきたのですが、仕事は精神的にも肉体的にもきつく、その割には給料は安い、というのが現実です。
「理想の介護」をやろうと業界に入ってきた人たちが、内部の現実に疲れ果て、離職する際に、同じ「サービス業」として、風俗を選ぶそうなのです。
著者自身も、実際に小さな介護施設を経営しており、現場でさまざな「実例」をみてきたそうです。
多くの介護施設は「笑顔、やりがい、成長、夢」など、ポエム的な常套句を一方的に職員たちに叩き込む傾向がある。洗脳してポジティブな状態を保たせて、なんとか低賃金で働かせようとする施設側の工夫だが、貧困レベルの生活をしている自分より、兼業風俗嬢の方がゆとりがあって幸せそうに見えるのは明らかで、よほど鈍い女性以外はその差を実感することになる。経済的に困っている様子のない兼業風俗嬢が入職して「実は私……」とカミングアウトすると、白い目で見るどころか、「私もやりたい」という者が現れる。こうしてまた誰かが性風俗への一歩を踏みだすという連鎖となる。
一対一での会話や肉体を使ったサービスが求められる等、共通項は多く、相手が高齢者全般から男性限定に変わるだけ。他業種よりも違和感なく性風俗に向かっていけるという面もある。性風俗店の男性客が求める「明るさ」「コミュニケーション能力の高さ」「気が利く」「優しさ」等々は介護職員に求められる適性と一致する。
ワーキングプアを次々と生みだしている悲惨な状況でも、介護施設側は「介護は熱い想いを伝えられる素晴らしい仕事、夢がある」などと必死に訴えている。しかし、介護職は蓋をあければ豊かさの欠片もない貧困女性の巣窟というのが現状だ。
高い志を持って介護の世界に足を踏み入れても経済的、精神的にすぐに追いつめられ、これからは外見スペックが高い女性は性風俗へ、低い女性はそのまま専業介護職員という流れが、一つの定番となるのではないだろうか。
「夢や理想」を掲げて、厳しい労働環境や安い賃金から目を逸らせようとしているというのは、介護業界だけではありません。
いわゆる「ブラック企業」の、典型的なやり方、なんですよね。
ネットや口コミで、他の世界を知って、そこで働いている人たちは、考え込んでしまうのです。
この仕事に、本当に将来性はあるのだろうか?
自分は、やっている仕事に見合った対価を受け取っているのだろうか?
「夢や理想」で目隠しされて、搾取されているだけではないのか?
同じような「一対一の会話や、肉体を使ってのサービス」ならば、「どんなに頑張っても対価が安く、今後上がっていく見込みも少ない」介護職よりも、「自分の努力が報酬に反映されやすく、高収入が得られる可能性もある」性風俗のほうが、まだ「やりがい」がある、と考える人がいるのは、わかるような気がします。
この本を読んでいると、「風俗嬢という仕事のこと」だけではなく、「風俗嬢が魅力的な仕事であることを認めざるをえない、いまの日本の若者の労働環境」も見えてくるのです。
著者が実際に取材した「風俗業界」のナマの声とさまざまなデータがバランス良く配され、「風俗嬢の現在」、そして、「夢や理想のもとに搾取され続けることに疲れた若者たちの、働くことへの意識の変化」を描いた好著です。



