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<障害児の親を泣かせるCM>なぜソフトバンクが障害者向けに開発したスマホCMに親は涙するのか ‐ 横田雄紀

横田雄紀[東京都自閉症協会 おやじの会所属/著述業]

***

「障害児おやじ(障害を持つ子どもの父親)」が思わず涙する1組のネットCMがある。ソフトバンクモバイル株式会社が販売する「アシストスマホ」のプロモーション映像だ。

一人の青年の出勤風景を追う“お仕事篇”と、同じ青年が鉄道テーマパークに遊びに行く“休日篇”の2本があり、どちらも母親らしい女性が自宅のパソコンで青年の様子をトレースしている。

映像の大部分は青年の持つスマホか、母親の見つめるPCのモニター画面。つまりアシストスマホの機能を説明する製品紹介映像だ。いわゆる“泣ける”CMはドラマの最後にオチのように商品が映し出されるという構成がほとんどなのと対照的だ。だがその機能の背後にある事情が、障害児おやじを泣かせるのだ。

【CMお仕事篇】※掲載許諾済

 

【CM休日篇】※掲載許諾済

 

アシストスマホは厚労省の障害者自立支援機器等開発促進事業に採択されている。つまり知的障害者の自立を支援することを目的に開発された製品だ。

これは言わずもがなのことではあるが、障害者も成長する。就学期を終えれば、誰しも次のステージに向かわなければならない。その一つが就労だ。ところが障害者を雇用する企業のほとんどは雇用条件として、単独で通勤できることを掲げている。それは、自宅を出てから勤務先に到着するまで、どんなトラブルに直面しても一人で対処しなければならないということであり、障害者にとってはこの上ない不安を伴う冒険になる。

その不安は親にもつきまとう。わが子を送り出した後、“いっそのこと後をついていこうか”と考える保護者は少なくない。もちろん、休日は休日でまた違った不安にさいなまれる。毎週のように障害児者につきあい外出する「障害児おやじ」はごまんといる。そうして水族館や動物園や鉄道博物館に足を運ぶたびに、“もしも俺に何かあったら、誰がこいつをここに連れてきてくれる?”と思わずにはいられない。

アシストスマホのプロモーション映像の背後にはこうした知的障害者家庭特有の不安がきっちり練りこまれている。

アシストスマホを企画開発した、ソフトバンクモバイル株式会社戦略商品企画課・村山貴一郎さんに話を伺った。

「アシストスマホのアイディアはもともと社内の企画コンテストに上がってきたものでした。実をいうとこのコンテストから実用化に至ったケースは少ないのですが、これはいけるんじゃないかと思い開発に取り組みました」

それ以前に村山さんは知的障害者と深く接した経験はなく、アシストスマホの可能性についても直感でしかなかったそうだが、

「ソフトバンクグループには、障害のある方を積極的に雇用する会社があり、そこからリサーチを始めると次々に協力的なNPOや就労支援施設とつながり、実用性を高めていくことができました」

と述べる。

そうした実用性の一つがアシストスマホ本体の住所録やスケジュールなどを保護者のPCやスマホから遠隔操作で更新できるという機能だ。遠隔から位置情報の確認機能もつけているのだから、この機能もその延長線上にあるようにも思えるが、

「リサーチをしていて、発達障害にはスマホを親に渡すことを極端にいやがるケースもあるということを知り、必要な情報を外部から更新・入力できるようにしました」

で、あるという。そうだ、いるいる。取り上げられると思って激しく抵抗する子どもが。こうした配慮にも、おやじは思わず胸がきゅんとなる。

一つ断っておかなければならないのは、「障害児おやじ」といえども、このアシストスマホさえあれば就労や休日の問題が一気に解決されるとは思っていないということだ。

発達障害に万能グッズはない。障害の現れが多様であるようにサポートも多様でなければならない。アシストスマホが役に立つ人もいればそうでない人もいる。ただ、障害者に関わり、その生きづらさを軽減しようと努力してくれる人がいることは、障害児おやじとしてこれほどありがたいことはない。アシストスマホにはぜひ成功していただき、さらに莫大な開発費を投入して実用性を高めていってもらいたい。

とかなんとか偉そうなことを言っているけど、障害に偏見を持っているのは実は障害児おやじの僕だったりすることをこの取材で思い知らされた。

プロモーション映像の青年。僕もさすがに“本物”の当事者とは思っていないが、“実に見事な演技だ。電車を見て浮かべる恍惚の表情も実にそれっぽい”と感心していた。そこで映像制作を担当したプロデューサーの松村智規さんに、どのような演技指導をしたのか尋ねてみた。

「いえ、彼には動きや表情について特別な指示は出していません。ただ、自然に、感じたままにふるまってくれとだけお願いしました」

何てこった。「障害児おやじ」としてまだまだ未熟です、僕は。

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