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イヤな予感しかない「シビック・ジャーナリズム」

 『ハフィントン・ポスト』日本版の松浦茂樹編集長が退任するとのこと。

 ハフィントンポスト日本版編集長を退任致します。ありがとうございました

 当初、「どうなるのかなぁ」というバタバタな感じで、拙ブログでも叩きエントリーを書いたりもしたのだけど(すいません)、月間1300万UUというメディアにまでなったのは、松浦氏の運営に拠るところが大きかったのではないかなぁ、と外野の目には映る。特に、ブロガーのエントリーと、ニューストピックのネットでの反応を合わせた記事、さらに海外の翻訳記事との配分がバランスが取れているし、さらにtwitterやFacebookとの相性がよい動画の紹介記事も、バイラルメディア的な要素を織り交ぜているあたりも好調に推移しているアクセスに貢献している。
 ただ、これがアメリカの『The Huffington Post』からはどう見えていたのか。「ジャーナリズムはどこ?」という感じになっていたのかもしれない。小平市の都道建設をめぐる住民投票を継続して追いかけていたり、これまで何もして来なかったわけではないものの、若干スケールには欠けるし、いかんせん数をこなせる程の体制にない。このあたり本国と日本版でどのような議論がなされているのかは気になるところだ。

 さて、後任の編集長に就任する高橋浩祐氏については、『東洋経済オンライン』でいくつか記事を拝読したことがあるくらいで、失礼ながらどのような方なのかよく存じ上げない。ただ、なんだか松浦氏とは真逆なタイプの人材を持ってきたなぁ、という印象は受ける。
 彼が『はふぽ』にジョインする前に『東洋経済オンライン』に寄稿しているのが「"ブラック"企業と呼称するのは国際感覚に欠けている」という主旨の記事というのは、いろいろ示唆的ではある。

 「ブラック企業」は、人種差別用語である (東洋経済オンライン)

 彼の就任にあたっての、ちょっとタイトルが長いエントリーには、「シビック・ジャーナリズム」という言葉が出てくる。

 「世界最強のネットニュースメディア」ハフポストの力で、草の根的な「シビック・ジャーナリズム」を日本にも
 ハフポスト日本版では、そんな政治家や役人のエリートたちの声に耳を傾けがちなジャーナリズムよりも、市民生活の苦しみや葛藤をすくいあげるシビック・ジャーナリズムを目指したいと思っています。市民レベルの生活に視点を置き、社会の現場の問題点をあぶりだす市民のためのジャーナリズム。(中略)これまでの日本の報道ではあまり目立たなかった草の根レベルの「下」から、権力側への「上」へ、情報を発信し、政治家や行政を下から突き動かすようなジャーナリズムを実践していきたいと思っています。幅広い意味で、これも草の根レベルから、権力を監視するウォッチドッグ機能の一つだと思っています。
 「シビック」と言い換えてはいるけれど、「市民ジャーナリズム」というと2006年に『オーマイニュース』日本版の登場を思い出す。
 『オマニ』も「草の根」からの市民自身の発信を目指した媒体だったが、結局のところ瓦解したのは、当時匿名での発信を「無責任」として過度に敵視する一方で、「市民記者」の記事のクオリティーが上がらず、読者に取って有益な情報を発信するに至らなかった故でもある。また、中の人たちが「メディア」もネットユーザー層の多くから「権力」とみなされているのに無頓着だったのも、運営が迷走を重ねた原因に挙げられるのでは、と思う。

 『はふぽ』日本版は『オマニ』の同じ轍を踏むのだろうか。
 まず『はふぽ』の場合、編集部によって寄稿・ブロガーのエントリーに一定のクオリティーが担保されているように見える。『オマニ』のように論理が破綻して読むに耐えない、といった内容ばかりになるとは考えにくい。
 メディアとしての「責任」という部分はどうだろう? 特に実名・匿名での発信を「責任」に結びつけるのは、各メディアがネットで展開するたびにつまずく地雷だったりするのだが、ソーシャルメディアの普及によって多少風向きが変わってもいる。ただ、多くのメディア関係者は未だに「実名で発信すれば一定の質が担保されている」という感覚でいるみたいだしなぁ…。Facebookでどれだけの放言がなされて、それがYahooニュースのコメントとして出てきちゃう現状を、ちゃんと見て欲しいと思うのだけど。また、国でも社会でもブラック企業でも、不満や不信は匿名であるから発信できるものもあるだろう。市民に寄り添うメディアを標榜するならば、ここをどう舵取りするのかがアキレス腱になりかねない。
 そして。個人的に一番「大丈夫なのかなぁ」と感じるのが、「草の根レベルの"下"から、権力側への"上"へ」という感覚。なんというか、オールドファッションというか…。繰り返しになるけれど、メディアも権力と見なされているし、メディアの関係者が政治家や官僚、経営者を「偉い」と思っていないように、多くのひとからは「偉い」と思われていない。”下””上”という意識がフラットになりつつある流れに逆行しているように見えてしまう。

 そんなわけで。どう転ぶかはまだわからないけれど、イヤな予感がするキーワードが新編集長からいくつも出てきている『はふぽ』。日本のトピックを世界に発信していく、というミッションは共感できるので、運営でつまずかないといいね、と今後も生温かく見守っていきたい所存です。

 松浦氏に関していうならば。なんだかんだいっても、彼がLivedoor、コンデナスト、グリーと歩むたびに、ネットの「言論空間」と呼べるものが植え付けられているわけで、もっといえばネットメディアの領域を広げるお仕事をされているといえるだろう。これって素直にスゴいことだし、次に何処へ種を撒きにかかるのか、期待せずに期待したいと思います。

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