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米財界で禅が主流になった?教育、ビジネス、社会を変える「マインドフルネス革命」の兆し

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「マインドフルネスは今や、米国社会の主流になった」。米有力ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」の創業者アリアナ・ハフィントン氏は、今年2月にシリコンバレーで開催されたカンファレンス「Wisdom 2.0」でそう宣言した。

マインドフルネスとは、禅の考え方や瞑想をベースにした心の訓練法。宗教色は一切排除し、科学的な根拠を示しているのが特徴だ。

同氏によると、マインドフルネスなどをベースにした社員訓練プログラムを提供する大企業、中規模企業が米国全体の35%に達している。また2014年のダボス会議では、同様のテーマのセッションが27も設けられ、多国籍企業のトップが熱心に耳を傾けたという。「ここまでマインドフルネスが受け入れられるようになるなんて、5年前にだれが想像できただろう」と講演を行ったウィスコンシン大学のRichard Davidson教授は語る。

「マインドフルネスや瞑想は、社会の認知を得るというフェーズから、実際にマインドフルネスを利用して社会を変えていく実践のフェーズに入った」とハフィントン氏は語っている。

▶脳スキャンで瞑想のメカニズムの解明進む

米有力誌タイムは、今年1月に「Mindful Revolution(マインドフル革命)」という特集を組んでいる。「革命」とは、ずいぶんと思い切ったタイトルだ。「革命」と呼べるほどの大きな社会変化が、本当に米国で起こっているのだろうか。

この特集記事によると、マインドフルネスに対する社会的認知が急速に進んだ背景には、瞑想のメカニズムの科学的な解明がある。

これまでも座禅、ヨガ、瞑想などが、精神面や健康面にいい影響を与えるという研究結果は幾つもあった。しかしそれは体験者の感想がベースになったものが中心。ところが最近は脳スキャンなどで、瞑想が実際にどのように身体に変化を与えているのかというメカニズムが解明され始めている。

科学的根拠が明らかになり始めたことで、さらにこの分野の研究が活発になっており、タイム誌によると、学術誌に発表されたマインドフルネスをテーマにした論文の総数は2003年には52件だったが、2012年には477件にも増えているという。

特に注目を集めているのが「ニューロプラスティシティー(脳の柔軟性)」という領域の研究だ。特定の行動を繰り返すことで、脳の回路が組み変わる、という現象のことだ。

ハーバード大医学部の研究者Sara Lazar氏によると、同氏を中心とする研究チームが、瞑想の前と後とで参加者の脳をMRI(磁気共鳴画像)検査機でスキャンしたところ、脳の一部領域に明らかな違いを確認できたという。

瞑想プログラムは、マサチューセッツ大学が開発した「マインドフルネスをベースにしたストレス減少プログラム(MBSR)」と呼ばれるもの利用した。これは瞑想やヨガを1日に1時間程度、8週間に渡って行うというもの。このプログラムを体験した16人の瞑想未体験者の脳をスキャンしたところ、学習や記憶、感情コントロールに関係するとみられている左海馬と呼ばれる領域が大きくなっていた。うつ病患者などはこの領域の灰白質が少ないことが確認されている。

また思いやりや同情に関連するといわれている側頭頭頂接合部という領域も大きくなっていた。反対に不安やストレスを抱えると灰白質が大きくなる扁桃体では、灰白質が少なくなっていた。

一方、ウィスコンシン大学のRichard Davidson教授の研究チームがこのほど発表した論文によると、短時間の瞑想で、遺伝子の発現に影響を与えることが分かった。遺伝子を家電製品に例えれば、瞑想することで遺伝子のオン、オフを切り替えたり、遺伝子のスイッチのボリュームを絞ったりできる可能性があるというわけだ。

論文によると、研究チームは19人の瞑想熟練者に8時間に渡って瞑想を続けてもらったあと、血液細胞の分子分析を行った。その結果、炎症関連の遺伝子「RIPK2」、「COX2」と、数個のHDAC遺伝子に影響があることが分かった。特に、コルチゾールと呼ばれるホルモンの生成に関係する遺伝子のスイッチのボリュームが下げられていることが分かった。コルチゾールはストレスなどによって生成され、分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらすという。

瞑想が健康を促進する身体メカニズムの1つが解明されたわけだ。

▶企業、軍、学校でも、「国を挙げて」瞑想

このように瞑想のメカニズムが科学的に解明されてきたおかげで、瞑想が持つ「怪しい」イメージが払拭されつつある。またそれに伴い、瞑想実践者であることを公表する財界人が増えている。

ハフィントン氏によると、2013年になって、Salesforce社のCEOのマーク・ベニオフ氏が瞑想実践者であることを公表したほか、世界最大のヘッジファンドBridgewater社のCEO、Ray Dalio氏も40年以上瞑想を続けていることを明らかにした。また米国第3位の生命保険会社AetaのCEO、Mark T. Bertolini氏は、自分がヨガや瞑想をしていることを明らかにしただけでなく、約4万9000人の従業員に瞑想プログラムを提供し始めたという。

世界最大級の食品メーカーGeneral MillsのVice PresidentだったJanice Marturano氏は、2006年にマインドフルネスの瞑想プログラムを同社でスタートさせ、これまでに500人以上がこのプログラムに参加している。今では同社のミネアポリス本社には、敷地内のすべてのビルに瞑想ルームがあるという。

同氏は2011年に独立しマインドフル・リーダーシップ研究所を設立し、今年「A Practical Guide to Mindful Leadership」という本を出版した。また2013年のダボス会議ではマインドフルネスの訓練セッションを開催し、非常に盛況だったという。

オハイオ州選出のTim Ryan連邦下院議員は、熱心なマインドフルネス推進者の一人で、2012年に「A Mindful Nation」という本を出版。企業だけでなく、教育機関や軍など、国を挙げてマインドフルネスを取り組むべきだと主張している。また同下院議員は2013年に、オハイオ州の学校教育にマインドフルネスを取り入れるための100万ドルの連邦助成金を確保している。

▶宗教性を排除し、「思いやりの世界」を築けるか

科学的根拠が確立し、米国の政財界のリーダーたちが推進し始めたマインドフルネス。医療や社員トレーニングなどの面での効果が期待されているが、Davidson教授は、学校教育に取り入れた場合の効果に最も大きな期待を寄せている。

同教授によると、ニューロプラスティシティ(脳の柔軟性)は成人してからも確認されているが、最も脳が柔軟なのは幼児で、この時期のマインドフルネス訓練の効果が最も期待できると言う。園児に簡単なマインドフルネスの訓練をほどこした幼稚園では、幼児同士の喧嘩や自分勝手な行動が大きく減少したという実験結果もある。

「幼児のときに心理学テストを受けた約1000人を30年間に渡って追跡調査をした実験では、幼児のときに注意力が欠如したり感情がコントロールできなかった人の所得レベルがほかの人より低かったり、犯罪率が高かった。幼児のときの心のあり方が、その人の人生に大きな影響を与える可能性がある」と同教授は語る。そうであるならば「最近の研究の成果をベースに、寛容で温かい思考になるための訓練を教育に取り入れるべき。そうすることで、社会が大きく変わる可能性がある」と同教授は主張する。

さらに世界規模で訓練が行われれば、世界が大きく変わる可能性がある。しかしそのためには宗教性を排除することが大事。あくまでも科学的な脳や身体の訓練方法として、マインドフルネスを推進する必要がある。キリスト教徒やイスラム教徒にも実践しやすい形にしなければならないからだ。宗教間で共通する教えを強調するなど、それぞれの宗教向けにマインドフルネスをアレンジするという試みも今後登場してくるかもしれない。

自分の利潤を追求することが全体最適化につながると信じて推進されてきた米国流資本主義は、もうそろそろ限界に達してきている。そう考える人が多い。自己中心の世界から、思いやりの世界へ。マインドフルネスは、本当に「革命」を起こせるのだろうか。

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