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『世論形成と「吉田調書」』

ウォルター・リップマン(1889年-1974年)は「ジャーナリズム論の古典として知られる」その著書『世論』で有名な米国のジャーナリストでありますが、此の世論ということで芥川龍之介は「世論はつねに私刑である。私刑はつねに娯楽である」という言葉を残しています。

明治時代の辞書エフ・ブリンクリー『和英大辞典』(一九〇一年)では、Public Opinion=輿論(ヨロン:争点に対し集団構成員の討議や熟慮などを経たもの)と、Popular sentiments=世論(セロン:一時的な情緒的判断や漠然としたイメージに近いもの)は区別されています。

当ブログでは先月12日、あれ程いい加減な然も何世代にも亘る一国の民族の誇りに関わるような事柄を捏造して書いた記者、そしてまた、それを十分検証もせずに喧伝し30年間超もの長き間それを事実かの如き扱ってきた『「朝日新聞の大罪」を問う』たわけですが、何時も正しいとは限らない此の世論を形成する上でマスコミの力は大きなものがあります。

例えば、テレビというのは基本的に編集側の意図がストレートに出るもので、こちらがAだと言っているにも拘らず、Aであるという主張の極一面だけを切り取って結論をBに勝手に変え、そしてその全体を全く異なるものにしてしまうというぐらいのことを、平気でやっているケースも見られます。

その意味で私自身の場合で言うと、拙著『ビジネスに活かす「論語」』(致知出版社)ではホリエモンのニッポン放送買収騒動時の偏向報道問題を、また当ブログでは嘗て私が出演したNHK番組「ドキュメンタリー同期生 兜町 夢のあとさき」のナンセンス極まりない編集問題を指摘したことがありますが、嘗て恣意的なやり方でトリッキーに取り上げ私の虚像が作り上げられようとされました。

そして、一たびそうした虚像が作られると壊すのは中々容易でなく、私自身そのマスコミの姿勢に大変危険なものを身に染みて感じたわけですが、後に「御本を読んで北尾さんの印象がまるっきり変わりました」とか、各種媒体記事を見て「北尾さんは風評で言われているような人じゃない」等々と言ってくれる人が徐々に出て来、段々と理解されるようになってきたのではと今は感じています。

人によって此の世論にどう対応して行くかということで言えば、私としてより大事なのは自分自身であって世の毀誉褒貶は一切気にすることなく、唯々己の良心に顧みて「俯仰(ふぎょう)天地に愧(は)じず」の精神の基、言うべきをきちっと言えば良いのではと基本的に思っています。

しかし此の現実社会にあって、中々そういうふうには思えずに世の毀誉褒貶を常に気にし、そしてそれが故世論に阿るというような姿勢をとり、自らの主義・主張・立場を変えて行く人も多くいるものと思われます。

私自身そうした生き方はしたくないと思い、世にぐちゃぐちゃ言う人がいようがいまいが、あらゆる事柄において何時も己の確固たるものを持って主義・主張・立場を明確にし、自分として良心に恥ずることない生き方を今日まで貫き通してきましたが、それも相当な精神的タフネスを要することです。

時として捏造された世論自体をまともに受け止め自己の反省材料として行き、自分自身を自己批判して自省する程度であれば良いですが、それで気が病んでもっとメンタリーに障害を受けるような人も少なからずおられます。だから此の世論というものを信じるか否か・相手にするか否かは中々難しいところだと思います。

芥川のように世論は「つねに娯楽である」という位まで達観できれば良いのかもしれませんが、その一方でその芥川自身が自殺してしまうわけである意味天才が故にそこまで行ってしまったのかもしれません。

その天才が片方で世論は「つねに私刑である」とも言っており、娯楽のように本当に笑い飛ばしてしまえとは考えていなかったように思われ、芥川というのは自分の小説の評判が如何なるものかと気にしていたのかもしれません。

自分自身が面白いと思って創作し良く出来たと自画自賛して行く、あるいは世の評判を気にして「あぁ、俺もまだまだ…」と謙虚に反省しベターなものを作り上げる---評論等に対する受け止め方は人夫々で大きく違ってくるでしょうし、勿論その評価は良いに越したことはありませんが、果たして人の言う良し悪しを気にする必要性はどれ程あると言えるのでしょうか。

先月21日のブログ『何のために命を使うか』でも述べた通り、私に言わせれば此の世に生を受けた以上、我々は自らに与えられた天命を明らかにし、その天命を果たすために命を使わねばならず、人がぐちゃぐちゃ言うことなど気にしていても仕方ないのだと思います。

所謂「原発問題」に関しても、これまで様々なメディアが世論を形成してきたわけですが、やはり最も信ずべきものは、その現場で一命を賭してでも何とか被害を防ごうとした一人間の証言ではないか、という形に今なりつつあるように感じます。

御承知のように、「吉田調書(昨年7月に亡くなった吉田昌郎氏が政府の事故調査・検証委員会の中で福島第一原発事故について聴取を受けた際の調書)」が近々公開されようとする中、また『朝日新聞炎上 慰安婦報道「検証」に続き「吉田調書」でも』といった状況が生じています。

つまり、『福島第1原発事故で「所員の9割が所長命令に違反して撤退した」と朝日が報じ、国際社会で再び日本を貶(おとし)めた吉田昌郎元所長の調書問題も、(中略)「命令違反」とした朝日への批判・疑義は、産経に続いて読売・毎日新聞、共同通信からも上がった』といった具合です。

当該調書は、あの現場で孤独に耐え最良と自分が信ずるディシジョンを下してきた人間のみが語り得る、全幅の信頼を置くに足るような当時の様子に関する一つの記録でありますから、我々は何を意図し如何なる世論を作り出そうとしているのか分からないマスコミに左右されることなく、その受け止め方は別にしても夫々の人が純粋な気持ちでそれを読み夫々が如何なる印象を持つかが大事なのだろうと思います。

本件はマスコミ云々といった話でなく我々自身の将来問題として、その印象を後世に伝え反省し残して行くべき性質のものではないかと私は考えており、そういう意味で今後我々は様々な事柄に対し此の経験を活かして行くべきだと思います。

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