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ECBの利下げと資産買入れとその伏線

 9月4日のECB政策理事会では現状維持との大方の市場参加者の予想に反して、利下げとともに、10月からの資産買入れを決定した。サプライズとされているものの、今回のECBの追加緩和には兆候があったことも確かである。

 市場が9月4日のECBの動向に注目し始めたのは、ドラギ総裁の発言がきっかけであった。8月22日、ECBのドラギ総裁はカンザスシティー連銀が主催したジャクソンホールでのシンポジウムにおいて、ユーロ圏のインフレ期待が「大幅な低下を示した」と発言した。この発言は講演原稿にはなく同総裁の「アドリブ」であった。さらに政策姿勢を一段と調整する用意がある、とした講演原稿の中でも、今までの定番の「必要になった場合は」の文言が省かれていた。

 これにより9月4日に何かしらの行動を起こすことが意識されたが、それを決定づけるようなことがそのあとに起きていた。ドイツのシュピーゲル誌は31日に、メルケル首相とショイブレ独財務相がドラギ総裁に電話をかけ講演内容について質したと報じていた。

 さらにフランスのバルス首相は、ECBにユーロ押し下げで手段を講ずるよう求め、ドイツのショイブレ財務相は金融政策の措置は尽きたとの見方を示していた。

 ECBは国を跨いだ中央銀行であり、独立した組織ではある。しかし、ECBが動くであろうことは、各国政府としても事前にある程度は予測していたのではなかろうか。特にメルケル首相がドラギ総裁に電話で直接問いただしたのが真実であれば、ジャクソンホールでの発言の意図を聞き出すというよりも、行動を起こすことに対して警告を発したのではないかとも推測される。

 クーレECB専務理事は必要なら金融政策を一段と調整する用意があると述べていたが、その準備は短期間ながら、着々と進められていたと思われる。ただし、その選択肢は極めて限られたものとなっていた。

 市場では量的緩和への期待が強かったが、超過準備の金利をすでにマイナスとしている状況下で、中央銀行のポートフォリオを増加することはかなり無理がある。このため、可能性としては小幅な利下げが考えられた。しかし、これでは目的とするユーロ安に働きかけるにしては、あまりにインパクトは低い。量的緩和ではなく資産の買入れとして国債買入れの可能性もあるかと個人的には思っていたが、それでも国を跨いだ中央銀行として、法律上の問題も含めて障壁が立ちはだかっており早期の実現性は薄かった。

 ここで思い出すべきであったのが、ECBが先日、金融システムの流動性拡大と融資てこ入れに向けたABS購入プログラムの設計で米資産運用会社ブラックロックを助言役に起用したことである。このため、一部の金融機関では資産担保証券(ABS)の購入方針が示される可能性もあるとの指摘もあった。ただし、それが今回打ち出されると予想していた向きは少なかったことも確かであった。

 結果として、9月4日の政策理事会では、主要政策金利のリファイナンス金利を過去最低の0.05%に引き下げ、上限金利の限界貸出金利を0.30%に、下限金利の中銀預金金利をマイナス0.20%に引き下げた。マイナス幅を広げたことにより、さらに量的緩和の導入を難しくさせることとなる。

 ドラギ総裁は「テクニカルな調整がこれ以上は不可能な下限に到達した」とし、利下げは打ち止めとの考えを示した。利下げに関して、これで打ち止めとの姿勢を示した(ロイター)。つまり政策金利そのものはほぼゼロとなり(ゼロ金利政策)、これをマイナスにすることは想定しておらず、ここからは日銀やBOE、FRBが実施してきたような非伝統的手段に頼ることになることを示した。

 その結果のひとつが、10月からの資産担保証券(ABS)とカバードボンドを買い入れの決定である。これは域内の信用状況を緩和するための措置としていたように、量的緩和というよりも信用緩和ということになる。今回のサプライズは利下げと、この資産買入れをセットに持ってきたことにある。現実にこの決定を受けて外為市場でユーロは大きく下落した。

 資産買入れについてもある程度予想はできたことであったが、市場はECBが早期に動くことは想定していなかった。このためある意味、これもドラギマジックということになるかもしれないが、今回も伏線は多々あったことも確かであった。

 今回のECBの利下げについては、全会一致でなかったことも明らかにされており、ドイツ出身者を中心に反対票が出たようである。さらに国債の買入れなどによる量的緩和についても議論をしたことも明らかになっている。ただし、国債買入れについては繰り返すようだがハードルが高い。それについては議論をしている程度の説明に抑えざるを得なかったことも確かであろう。

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