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ダイヤモンド「高校ランキング」に論理的欠陥

超秀才20人を擁する学校と平均的生徒が30人しかいない学校が同順位

 週刊ダイヤモンドの別冊「中高一貫校・高校ランキング2015年入試版」が発売になっている。例年は5月中旬に、週刊誌の特集として発行されていたランキング企画が、今年は別冊だけの扱いとなったようだ。

 ダイヤモンド名物のランキング名は、「大学合格力」高校ランキングだ。入試難易度の国公立大学100校について、河合塾が発表する学部別の入試偏差値を平均して大学ごとの偏差値とする。そこに各高校の合格者数を掛け合わせたものの合計を算出し、その値を卒業生数で割ってランキングしている。つまり「卒業生一人あたりの国公立大学合格力」によるランキングということになる。

 しかし、進学校に詳しい人たちがランキングを見てみると、違和感を覚えると思う。いわゆる有名進学校の影が薄く、地方勢が圧倒的に強いのだ。これについては記事の中で、「国公立大学上位100校に合格した生徒数によって合格力が出るため、地元大学に多くの生徒を送り出す高校が上位に来る傾向にある」と断り書きがある。だが、このランキングのロジックには、その断り書きでは説明しきれていない致命的な欠陥がある。(実は私はそのことを、拙著『間違いだらけの中学受験』(2013年12月刊)ですでに指摘している。今回は拙著から抜粋・加筆・修正し、掲載する。)

 たとえば、このロジックに従った場合、100人卒業生がいる学校で、偏差値50の大学に30名合格した場合と、偏差値75の大学に20名合格した場合、どちらも15が「大学合格力」ということになる。しかしこの実績、果たして本当に同じ価値をもつだろうか。

 理論上、偏差値50以上の人は世の中に約50%いるが、偏差値75以上の人は約0.6%しかいない。学校の中に、偏差値75の生徒が1人いることは、偏差値50の生徒が1人いることより、単純に75÷50=1.5倍の価値があるのではない。偏差値75は偏差値50に比べ100倍近い希少価値があるのだ。

 卒業生100人のうち、世の中に0.6%しか存在しない超秀才が20名もいることと、世の中に約50%存在している生徒が30名いることが、ダイヤモンドの「大学合格力」では同じ価値に見なされてしまう。なぜそんなことが起こるのか。私たちが見慣れた偏差値には数字のトリックが隠されているからだ。

「日本式偏差値」を「生の偏差値」に戻して計算し直すだけで順位が変わる

 偏差値とはそもそも、平均値を基準にして、プラスマイナスいずれかの方向にどれだけ離れた位置に自分がいるかを表す概念上の数値だ。

画像を見る

 日本では、標準偏差を10になるように換算したうえで、比較しやすいように、すべてのサンプルに50の下駄を履かせ、平均点が偏差値50になるように調整した数字を使用している。下駄を外せば、もともと偏差値60は偏差値+10、偏差値50は偏差値0、偏差値40は偏差値−10である。IQテストでは平均点100・標準偏差15になるようにしていたり、国際的な学力調査であるいわゆるPISA(国際学力到達度調査)では平均点500・標準偏差100になるようにしていたり、偏差値の表し方はさまざまある。私たちが見慣れた偏差値というのは、あくまでも日本式の表し方なのだ(図参照)。

 仮に、下駄を履かせる前の偏差値で計算をし直したら、まったく同じロジックを用いても、ダイヤモンドのランキングはがらりと順位を変えるだろう。試算してみよう。

●条件設定
学校A:卒業生数100人中20人が偏差値75の大学に合格した
学校B:卒業生数100人中30人が偏差値51の大学に合格した

●日本式(平均50・標準偏差10)の偏差値を使用して算出した場合
学校Aの合格力:75×20÷100=15
学校Bの合格力:51×30÷100=15.3
よって、学校Aの合格力は15、学校Bは15.3でBのランクが上にくる。

●「生の偏差値」を使用して算出した場合
日本式で偏差値75だった大学の偏差値は25になる。
日本式で偏差値51だった大学は偏差値1になる。

これをもとに計算をし直すと、
学校Aの合格力:25×20÷100=5
学校Bの合格力:1×30÷100=0.3

よって、学校Aの合格力は+5、学校Bは+0.3で学校Aのランクが上にくる。

 偏差値の表示方法を変えるだけでランキングが入れ替わってしまうのだ。いかにナンセンスなロジックかがわかるだろう。

偏差値70の秀才でも「約350万人に1人」の大馬鹿野郎にされてしまう

 もう一つ大きな問題がある。

 ダイヤモンドのロジックでは、「模試では偏差値70あたりをとっていて東大理Ⅲにチャレンジしたものの惜しくも不合格になった生徒」の学力も、「早稲田・慶應を狙っていてはじめから国公立を受験しない生徒」の学力も、「偏差値0」としてカウントされる。彼らの存在は、「受験生全体の平均よりも偏差値が50も低い脅威の偏差値0という、理論的には約350万人に一人しか存在しない、奇跡的な大馬鹿野郎」として、その学校の『大学合格力』を大幅に下げることになるのである。

 実際にそのような進学志向を示す生徒の多い首都圏の人気進学校では、圧倒的に不利になる。冒頭で触れたように、地方勢が圧倒的にランキング上位に来てしまうのはこのためだ。これでは、記事の本来の目的である「その高校の学力レベルを測る」うえで、このロジックは明らかに妥当性を欠いている。(2013年までの記事ではこのランキングの目的を「その高校の学力レベルを測る」と明記されていたが、本年度からその記述が消えた。批判をかわすためだろう。)

 そもそも偏差値という数値はテストの得点と違って量を表すものではないのに、それを人数に掛け合わせ、国公立を受験してもいない生徒や不合格者も含む卒業生数で割って量的な平均値をとるという操作自体がナンセンスなのだ。

 ちなみに、まだ今年は発行されていないが、例年、東洋経済のランキングのほうがこの点においてはましだ。

 東洋経済も「卒業時偏差値」ランキングとして、似たようなロジックを使っている。駿台予備校が発表する各国公立大および各私大の各学部・各学科の偏差値を、大学ごとに平均して、各大学の難易度とする。各高校からそれぞれの大学への合格者数を掛け合わせ、合計し、全合格者数で割る。これを「卒業時偏差値」と名付けている。

 70とか60とかいう偏差値をそのまま掛け合わせる操作は「ダイヤモンド」と同じだが、最後に割るのが卒業生ではなくて、のべ合格者数であるところが違う。実は、操作的にはこちらのほうが妥当性が高い。純粋に合格大学の平均難易度を算出しているだけで、操作としては間違ってはいないからだ。

 結果、ダイヤモンドと東洋経済のランキングが大きく異なるわけだ。(この記事では根本的なところだけを指摘したが、実はまだまだダイヤモンドにも東洋経済にも「穴」はある。詳しくは拙著『間違いだらけの中学受験』をご参照いただきたい。)

学校選びを「一見便利そうな数値」に頼ってはいけない

 別冊全体としては、記事もデータも充実しており、お得感は高い。受験生を抱える家庭なら、一家に一冊あっていい便利な本だ。ただ、目玉のランキングがはっきり言ってナンセンスなのだ。

 東大以外の大学の合格実績も加味した統合的なランキングをつくろうとするダイヤモンドの試みを、私は否定しない。ただし、データはいじりすぎると現実との乖離をはじめる。見る側の情報リテラシーが試される。

 このように、大学進学力に限ってみても、便利なランキングというのはあり得ないのだ。いわんや高校の本当の価値は、大学進学力だけではない。学校選びを「一見便利そうな数値」に頼ってはいけないということだ。

※この記事は9/5に教育情報サイトインターエデュに寄稿したものを転載しています。

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