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在日作家の文学を通し、長い射程でレイシズムを見る - 中津十三

8月29日、日本文藝家協会のトークサロンで、作家・法政大学教授の中沢けいさんと南ソウル大学助教授の桜井信栄さんによる「“文学とアンチ・レイシズムⅡ”…あれから1年…」があり、参加してきた。この日はちょうど、国連人種差別撤廃委員会の対日勧告結果が発表される日だった。

「Ⅱ」とある通り、昨年9月20日にも同じお2人によるトークサロンが開かれている。挨拶の後、まず在特会らレイシストの行動を撮影した映像が上映され、その暴力性にあらためて怒りが湧いた。

中沢さんは有名な作家だが、最近は『楽隊のうさぎ』『海を感じる時』など映画化作品が相次いでいる。また、のりこえネット編『ヘイトスピーチってなに? レイシズムってどんなこと?』の、日本のレイシズムの事例項目を担当するなど、反ヘイトの実践者だ。

桜井さんは、韓国・ソウルの光化門(クァンファムン)前で「反嫌韓デモ」を行っている。最初は1人だったが(韓国では1人デモは許可申請が要らない)、現在では毎週土曜日に行われる「日韓なかよくしようぜ会」によるプラカードデモとなっている。

そんな桜井さんが韓国に興味を持ったきっかけは、金鶴泳という在日朝鮮人の作家だったという。桜井さんが金鶴泳作品との出会いを丁寧に語った。

金鶴泳は1938年、群馬県に生まれた。学業優秀で東京大学の大学院に進んでいる。1966年に「凍える口」で文藝賞を受賞し、在日2世最初の作家となった。また4度芥川賞候補になっている。吃音者であること、在日であることに加え、家族との複雑な関係をもとに、弱者への共感が彼の主題となった。

しかし1985年、46歳で金鶴泳は自死してしまう。時はバブル前夜、“暗い”作品は避けられつつあった。文学者の世界は荒れており、リアリズムから乖離したこの時期に「日本語の表現力」が弱まったのではないか、と中沢さんは指摘した。

金鶴泳の作品は、「安易な解決をしない」「悲しみを見つめる」「生と死を見つめる」という特徴がある。また、「黒人は、良いニグロであることが求められるのだ」(フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』)の黒人を朝鮮人に置き換えたような、民族差別の類型も登場する。そうしたものに対して社会が受け止めきれなくなった影響が今になってレイシズムという形で表れているのだろうか。

人権、すなわち「人は人以下の扱いを受けてはならない」というのは近代の大きなコンセンサスであるはずだ。差別や煽動という枝や葉が出てきたとしたら、幹である人権にもう一度立ち返って、私たちは考えなくてはいけないのかも知れない。

もし金鶴泳がまだ生きていて、ヘイトデモを見たら何をするか、という設問に、高齢であろうから前面には立たないが、現場に出てカウンターの場を見つめるだろうと桜井さんは答えた。そしてそのまなざしの先にあるものは…。

レイシズムは突然出てきたわけではない。どうしても表層的にとらえてしまいがちなものも、文学を通した長い射程で見えてくるものがある。ほかにも、今と昔の差別や、差別と差別煽動の違いなど、さまざまなお2人のお話は、いろいろな気づきを私に与えてくれた。(中津十三)

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