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反省しているのは東京電力だけ

原発事故後に自殺、東電に4900万円賠償命令(朝日新聞)

 東京電力福島第一原発の事故後、福島県川俣町から避難を強いられ、一時帰宅中に自殺した渡辺はま子さん(当時58)の遺族が、東電に計約9100万円の賠償を求めた訴訟で、福島地裁は26日、東電に計約4900万円の支払いを命じる判決を言い渡した。潮見直之裁判長は「はま子さんの自殺と原発事故との間には相当因果関係がある」と、遺族側の主張を認めた。

 東電によると、原発事故と自殺の因果関係を認めた判決は初めて。遺族側の弁護団は「避難による精神的苦痛を正面から認め、被害者の権利救済の道を大きく開いた」と評価した。

(中略)

 判決は、はま子さんが58年間暮らした山木屋の人々とのつながりや養鶏場の仕事を原発事故で失い、不慣れなアパート暮らしを余儀なくされたと指摘。「耐え難いストレスがはま子さんをうつ状態にさせ、自殺に至らせた」と認めた。「一時帰宅の際に感じたであろう展望の見えない避難生活への絶望、生まれ育った地で自ら死を選んだ精神的苦痛は、容易に想像しがたい」とも指摘した。

 原発事故とは無関係なところで自殺してしまう人も普通にいますので、その責任割合については第三者の判断を仰ぐ余地がありそうですが、事故の重大性を鑑みれば東京電力に一定の責任割合が認められるのは必然と言えるでしょうか。概ね遺族側の主張が認められたとのことですけれど、しかるに原告弁護団の言葉として「避難による精神的苦痛を正面から認め」とも伝えられています。果たして「苦痛」の大元である避難を強いたのは、ここで賠償の支払いを求められている東京電力だけなのかどうか、その辺に釈然としないものがないでもありません。

 訴えを起こした人は福島県川俣町の元住人であったそうです。不運にして計画的避難区域の端っこに位置し、川俣町の内部でも原告の住んでいた一部地域だけが避難指示の対象になってしまったわけですが、もうちょっと当時の政府にバランス感覚があれば、今回のような事態は防げた気がします。つまり、もう少し避難区域は小さく設定すべきではなかったか、避難を強いることのリスクを考慮していれば、防げた自殺もあったのではないかと。避難による精神的苦痛の存在罪は、裁判でも認められていることなのですから。

 住民の居住の権利を行政の権限によって奪う、そうした判断には最大限の慎重さが求められるところです。その辺、当時の民主党内閣には望むべくもないものではありましたが、決して防げないことではなかったはずです。原発事故そのものによる健康上のリスクも「ある」か「ない」かの二択を迫れば「ある」のかも知れませんが、現時点ではその痕跡は何も確認されていません。一方で被曝を避けるためとの大義名分で強いられた避難生活の結果はどうでしょう。ここで裁判に発展したケース以外にも被害と呼ぶべきものは多々あるはずです。被曝よりも避難の方が大きな被害を生んでいる、その現実には向き合う必要があります。

 事故の規模や性質の面では比較の対象としてあまり適切ではないチェルノブイリ原発事故でも、被曝ではなく避難によって生み出された被害は深刻でした。日本はチェルノブイリ事故から何も学んでいなかったのでしょうか。健康のためなら死んでも構わない、なんてジョークもありますけれど、被爆を避けるためと称して、放射線によって考え得る被害よりも格段に大きな被害を避難によって作りだしてしまうのは愚か極まりないことです。避難指示が過剰ではないか、避難する方が逆にリスクが大きくないか、その辺を考えるべき責任は問われてしかるべきものです。

 仮に避難が必要であったとしても、その避難による負担を軽減することも可能だったはずです。避難先の環境が劣悪か快適か、住民をバラバラに四散させて避難させるのか、それとも地域単位でまとまって避難(移住)させるのか、緩和策はいくらでもあります。避難生活による精神的苦痛の多寡を左右するものは、決して原発事故だけではありません。ただ単に被爆の影響を課題に煽り立てるばかりで、避難を指示した住民のその後のケアを怠ってはいなかったのか、その辺は東京電力ばかりではなく、行政にも責任が求められる範囲です。

 判決では「展望の見えない避難生活への絶望」等々と語られている一方、原告の故郷である川俣町は既に避難指示解除準備区域に含まれています。明るい展望が開けているとまでは言いがたいにせよ、何から何までもが絶望的であったのかどうか、ガソリンを被って自殺するまでに追い詰めるものがあったとしたら、そこは原発事故そのもの以外の何かもあったように思えるところです。現実以上に将来を絶望的なものと感じさせたのは何なのか、福島にはもう人が住めない云々と吹聴して回った人々もいたもので、その辺は朝日新聞も幾分か荷担してきたはずですが、そういう連中の妄言を真に受けて将来を悲観してしまった人は少なくないのではと推測されます。

 率直に言って当時の政府が定めた避難区域は大きすぎた、被曝によって想定される健康被害を遙かに凌駕する被害を生み出してしまったものと考えられますが、それ以上に広い範囲の住民を避難させるべきだと説いて回る手合いもいたものです。もし、そうした人々の主張に行政が媚びて避難区域を広げてしまっていたら、今回のような自殺者は倍増していたことでしょう。闇雲に避難を説いていた人は、いい加減に反省して欲しいと思います。何らかの被害が発生しても責任を問われ賠償を迫られるのは東京電力だけかも知れませんが、それを良いことに間接的にではあれ自殺者を生むような主張を続けるのは人として恥ずべきことですから。

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