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内田樹の「憲法の『空語』を充たすために」を読む

 緊急出版的と思われる内田樹(たつる)のブックレット「憲法の『空語』を充たすために」(かもがわ出版・900円+税)を読みました。先日の老人党護憲+の例会で紹介されたものです。「空語(くうご)を充たす」とは、憲法は、そもそも実現していない根本原則を定めたものだから、その内実を充たすのは国民の努力によるという意味です。

 第1章では、日本国憲法は「押し付けられたから弱い」のではないと論じています。明治憲法が制定されたときも、制定した主体はごく一部の人たちだけでした。日本国憲法の不戦平和の原則も、70年近くも守られたことによって空語でなくなってきたのです。何が大切なのかを国民が自覚することによって、この憲法も国民を守ってくれる可能性は残っています。

 第2章では、現在の憲法の危機を説き明かしています。安倍政権は選挙に勝ったことによる行政の優位を徹底的に拡大して、国会さえも単なる諮問機関に格下げしてしまいました。もちろん憲法に反する違法行為ですが、憲法の解釈をも独占しようとしており、これを内田氏は「法治から人治へ」と表現しています。つまりは個人による独裁と同じことです。

 それでも一定の支持率を維持しているのは、国全体が「株式会社化」してきているからではないかという指摘は、鋭いと思いました。利益第一、効率優先の企業の論理に国民の大部分も染まっているので、「ねじれ国会」は非能率で悪いと思い込まされ、「決められる政治」が良いものだとイメージしたのかもしれません。しかし会社の運営は利益が上がりさえすればいいので、かつ、経営者の責任は商法の定める「有限責任」です。無限責任である国家の運営とは、本質的に違うのです。

 第3章では、世界史的な視野で憲法の危機を論じています。経済のグローバル化のためには、国民国家は邪魔な時代になりつつあります。すでに世界企業はやすやすと国境を超えて活動しています。本社の所在地がどこであるかは、問題でなくなってきました。しかし世界企業が繁栄しても、世界が良くはなりません。環境、人権、福祉などのコストを、企業は負担しないからです。

 アメリカ主導のグローバル経済化が安易に世界を制覇するとは思えない、対抗する勢力の最大のものは16億人の「イスラム共同体」であろうと内田氏は見ています。何らかの「共生」の仕組みなしには、人類の存続は不可能なのです。そこで当面の課題として、内田氏は次のように結語しています。
 「僕たちにとりあえずできることは、彼らの破壊の手から『それだけは手を触れさせてはならないもの』を守り抜くことです。そのために全力を尽くすこと、それが僕たちの当面の任務であろうと思います。」
さらに私からもう一言。「憲法はまだ死んでいない。政権が交代すれば生き返らせることができる。」

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