- 2014年08月27日 08:30
「赤字って本当にいけないことですか?」東京糸井重里事務所 篠田CFO×サイボウズ 山田副社長対談
1/2創業以来17期連続で黒字経営を続けてきたサイボウズが、6月に初めて今期の赤字決算予想を出しました。これにあたり、財務責任者を務める山田副社長が、自身のブログに「赤字決算に対する覚悟と思い」と題した記事をアップ。「なぜ黒字を続けるために投資を制限するのか、という問いに自分自身が答えられなかった」「単年度での赤字決算に意味はあるのか?」「黒字は善で、赤字は悪。本当にそれでいいのか?」というのがその趣旨です。
この記事に対して、「共感した」とコメントを寄せる人が現れました。山田副社長同様に銀行の出身で、『ほぼ日刊イトイ新聞』を運営する株式会社東京糸井重里事務所のCFO・篠田真貴子さんです。
篠田さんからの「山田さんとぜひ一度お話してみたい」というアプローチにより、2人の対談が実現。「赤字とは何か?」「企業の評価はどのようにされるべきなのか?」といった点について熱い議論を交わします。
ここが変だよ会計制度
画像を見る山田さんのブログ記事、私、本当に共感したんです。画像を見るありがとうございます。どのような点に共感してもらえたんですか?
画像を見るサイボウズさんが赤字決算するのは、クラウド事業への投資が目的なわけですよね? サイボウズさんとしてはこれを「投資」と捉えているのに対し、今の会計ルールだと「経費」とみなされて赤字になってしまう。それで株が売られるというのは腹ただしいなと思ったんです(笑)
画像を見るはい(笑)
画像を見る私たちもコンテンツビジネスをやっていて、気持ちとしては「投資」と考えているものでも、建物や工場のような形ではないために、資産ではなく「経費」とみなされることがある。今の会計制度って、知的生産で価値をうむ事業にはちょっと使いにくいな、と思っていることが、今回共感を覚えた根底にあります。
画像を見る実は僕も銀行員をしていた時は、「赤字にする経営者は許せない。投資などと言い訳しないでほしい」と思っていたんです(笑)。でも実際に自分が事業会社を現存の会計制度を使って経営する立場になると、実は一面しか見ていない制度ではないのか? と考えるようになりました。
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篠田真貴子(しのだ まきこ) 東京糸井重里事務所取締役CFO(最高財務責任者)
1991年に大学卒業後、日本長期信用銀行(当時)入行。98年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。99年、海外へ留学しMBAを取得。2002年以降2度の産休・育休を経験しながら外資系企業で活躍。2008年から現職。
画像を見るしかも、決算も単年度から半期、四半期とどんどん短くなっていて、これが本当に正しいのかなと。昔はどんどん短くするのが適時開示で良いことだと思っていたのですが。
画像を見る短くするほど、ものすごい短期経営になって、実はいろいろな事業の特性が見えにくくなるという考え方もできるんですよね。本来、どんな事業にも、その事業固有のサイクルがあると思うんです。
例えば私たちが製作している「ほぼ日手帳」のビジネスですと1年単位で動かしていますが、アパレル的なアイテムですと春夏・秋冬の年2回のサイクルで展開しています。造船や製鉄、鉄鋼・プラントみたいな事業になると、本来、10年以上といった単位で見ないと本質成果がわからないんじゃないでしょうか?
それを全て1年、短い場合は3ヶ月で見ている。それって株式投資をしている人の都合に、過剰に合わせているんじゃないかと思ってしまうんです。
画像を見る工場を3000億円かけて建てるとしたら、本来、その期は3000億円の赤字が出ているはずです。でも会計上は何十年もかけて償却となるから、黒字を維持していますという話になる。
工場が利益を生み出すのはずっと先で、リスクも大きいはず。それに対してサイボウズが提供するクラウドサービスは、今日お客様を獲得したら、すぐ確実にお金が入ります。健全性はクラウドサービスの方が高いはずなのに、工場は資産とみなされるので、単年度で比較するとサイボウズの経営状態のほうが悪く見える。この考え方を変えなくてはいけないんじゃないかと思うんです。
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山田 理(やまだ おさむ)サイボウズ株式会社取締役副社長 兼 米国事業支援部長
1992年大阪外国語大学卒業後、日本興業銀行に入行。2000年にサイボウズへ入社し、財務や人事の最高責任者を担当。
数値化されない企業の価値とは
画像を見る結局、「個別事業の固有性独自性を追求する経営者」対「いろいろな事業を統一の物差しで並べて比較したい投資家」の意識の違いがあるのではないかと感じますね。投資家にとってみれば、世の中にあるたくさんの会社から投資先を選ぶ仕事なので、似ている会社を並べて統一の物差しをあてないと理解判断できなくなるわけですよね。 しかし経営者は、誰でも、他社と違うことをして、差別化をして、そこで利益を出そうとします。極端に言えば「●●社に似ている」と思われたら、差別化が足りないんです。
画像を見るサイボウズは上場して10年以上経ちます。当初は投資家向けにIRも適時開示もしていたんですが、ある時、はたと気づいちゃったんですよ。「この人たちって、何かあったら株を売っちゃうんだ」ということに。
画像を見るなるほど。
画像を見るサイボウズも一時、M&A(企業の合併買収)に手を出したことがあるんです。そうしたらいきなり株価がガンガン上がって、時価総額が1400 億円になった。今の約7倍です。当時の利益は5億円程度なのにですよ!?
画像を見る1400億ですか!
画像を見るそれがライブドアショックでドーンと売られ。株主名簿を見たら、びっくりするくらい構成が変わっていました。そこで思ったんです。「今までの考え方でいったらダメだ」と。そこからはIRもメールでだけ行うし、業績説明会も一切しない。実績だけを見てください。そして、我々のこういう会社をつくりたい、こういう世の中にしたい、という思いに賛同してくれる方だけが株を買ってください、というように方針を転換したんです。
画像を見るそうなんですね。
画像を見るただし、僕らは株式を上場することで、10億円の資金を調達した。その責任はあると感じていて、どうしたら責任を果たせるかと考えた結果、一時株価が下がった時に自社株を18億円分買ったんです。10億しか調達していないのに18億円の自社株買いを実施して筋を通しました。
画像を見る会社には、社員、お客さま、取引先などさまざまなステークホルダーがいます。よい会社では、長期的な利益と発展が共通の"うれしいこと"や"価値"に直結します。ところが、外部株主だけは、違った動機で関わることができ、経営への影響力も大きい。投資家は他のステークホルダーとは違って売りと買いの両方が短期間でできるため、目指すところがずれやすいのではないかと感じます。経営者も社員も顧客も変わっていないのに株主だけが入れ変わっていて、それでいながら株主の権利が一番、みたいな論調がある。資本市場はとても大事ですが、そこには疑問を感じているんです。
画像を見る 画像を見る上場会社を経営するのは、マネーゲームの中で生きていく覚悟をすることだと思っています。しかし、僕らはマネーゲームのために生きているわけじゃないですからね。
お客様や社員、パートナー企業からは喜んでもらっても、それは何の数値化もされないから、世の中の会計の基準からは評価されず、株主からは何をしているんだ! と言われる。それはちょっとどうなんだろうという思いはあります。
画像を見る本当は世の中にものすごく価値が生まれているのに、ということですね。今の仕組みだと、会計上、評価されるのは御社がどこかの会社に買収される時だけですよね。その時、初めてのれん代として値段がつき、数値化されるのかなと。



